看板が地元民のツイッター状態? 謎の商店に突撃してみた

世に溢れるあらゆる“看板”。その役割といえば一般的にお店や商品をアピールするものですが、不思議なことに、その看板に何てことない日常会話や地元の人しか分からない豆知識(?)を書き続ける、ちょっと変わったお店があるそうです。

そんな気になる噂を聞き、茨城県稲敷市にやってきました。いったい、謎の看板の目的とは何なのでしょうか?

じわじわくる! 「看板」というより、誰かのつぶやき?

東京から車でおよそ1時間半。のどかな田園風景が広がる稲敷市須賀津の一角に噂のお店「宮本商店」があります。

現地へ到着すると、さっそく店先に看板を発見! 噂どおり、何か書かれているようです。ナニナニ? 近づいてみると、そこには大きく白い文字で

「片づげ終えねえけど、ばあやの畑手伝うしかあんめな」

…?
どういう状況なんだ……!

そこはかとなく漂うツイッター感……。これは看板というより……もはや、誰かのつぶやき?

驚くことにこの内容、毎日変わるとか! 同店のFacebookページをのぞいてみると……ありました、ありました。

「あー夕べも呑みすぎた……おっかあ口きいでくんねえよ(笑)」

「ここ数日、叫ぶような寝言で、家族の顰蹙(ひんしゅく) を買っています…」

「あ゛―まいった。もみすり機ぷっちゃれっちったョ(泣)」

「橋ンとこにレッカー2台もいだけど、何かあったのが?」

…謎すぎる。よくよく考えれば内容も超普通。それでも妙にハートフルに思えるのは、この辺り特有のなまりがいい感じに効いているから?

ああマズイ、見れば見るほどじわじわ来てスクロールする指が止まら~ん!

個人的にはコレが超ツボ!
「テレビでみたけど羽根がくっついた餃子、食ってみてえな」

どなたか知りませんが、羽根つき餃子には出合えたのでしょうか…?

5年間、毎日書き続ける看板の秘密

このオモシロ看板を書き続けるのは、「宮本商店」の5代目店主・宮本健一さん。この地で生まれ育った、生粋の須賀津っ子の宮本さんにお話を伺いました。

実は、あんな看板を書くくらいだから、きっと息をするようにギャグを連発するような人物に違いないと思い込んでいたのですが、お話ししてみるとどっこい! 驚くほどソフトな語り口で菩薩のごとくジェントルマン。この方の一体どこからあんな“つぶやき”が…!?

宮本さん「あるときからお客さんとの会話で面白いと思ったことやウンチクを看板にしてみたんです」

“肉のプロ”によるウンチクを元にした看板 ©宮本商店

なるほど!お客さんとの会話が元ネタなんですね。そして、これが予想外に大ウケ!

宮本さん「今では、毎朝看板を見るためにコーヒーを買いに来る人や、Facebookページを見て『励まされてます』と言ってくださる人もいる。うれしい話ですよねぇ」

地元で大好評! ©宮本商店

たしかに、書かれている内容は特別なことじゃないかもしれないけど、じわじわくる不思議な魅力があります。看板のために毎日来店する人が居るのも納得です!

宮本さん「ただ、5年前に始めてから休みの日以外は毎日書いているのですが、1日だけ書かなかったことがあるんですよ。そうしたら『なんで看板出てないんだ』って電話が掛かってきたのには、さすがに驚きましたけど(笑)」

ファンの皆さんお願い! 1日くらい許してあげて~!

本人に直接伝えたほうがよさそうな情報が ©宮本商店

時には質問が投げかけられることも。棟梁の謎 ©宮本商店

今や、地域のお知らせも担っている(?) ©宮本商店

一番初めに書いた看板を見せてくれた。意外にも最初は普通の内容だったよう

大型スーパーには勝てない、と諦めていた

近隣住民に愛されている宮本さんの看板。なぜ、こうした看板を書き始めたのでしょうか?

宮本さん「6年前、ある経営コンサルタントの方に出会ったことが大きかったですね。それをきっかけに、商売に対する考えが変わっていったんです。
例えば、それまでは大型スーパーが近くにあるんだから、ウチみたいな小さな店の売上が落ちるのはしょうがないことと考えていたんですが、それで終わらせてはいけないと」

大型店舗の進出。個人商店にとっては大きな大きな課題です…。

宮本さん「それまで思い込みや勘でやっていたことを、実際にこの辺りに住む方々のニーズに合わせて商品を変え、今までやっていなかった看板やポップにも力を入れるようになりました」

穏やかな口調で当時を振り返る“菩薩の宮本”

なるほど。単にウケをとろうと思ってオモシロ看板を作っていたのではないんですね。

でも、きっちりウケているようです ©宮本商店

商品は、お客さんが「欲しい」と感じるより先に用意したい

もちろん、看板だけではなく商品開発にも力を入れました。まず始めたのは少量の惣菜や商品を充実させることだったそう。

宮本さん「夫婦二人暮らしだと、例えばイチゴも1パックだと多すぎますよね? そういうとき、あらかじめ3~4個のパックにしておくと喜ばれるんですよ」

な~るほど! ワタクシも一人暮らしゆえ、そのありがたみはよ~く分かります!

宮本さんお菓子なんかも大袋から小分けにして、また食事の準備が面倒な人のために惣菜もいろいろ用意するようにしました。何を出したらウケるのか、お客さんのニーズを先回りして考えるのが楽しくて!

煮魚に、炒め物……店頭にはさまざまな惣菜が並ぶ

この“少量&惣菜作戦”がドンピシャ! 減少していた売上は徐々に回復していったそう。
宮本さん、経営者としてもかなりの敏腕なんですね!

みんなのために、みんなと「秘密基地」を手作りした

商店の経営にとどまらず、宮本さんは新たなチャレンジをしているそう。「“基地”、見てみます?」、そう言って宮本さんが案内してくれたのは、店裏に建つ古い建物。

狭い階段を上ると、そこには大人数で囲めそうな重厚なテーブルにイス、ソファが置かれた空間が。奥には大きなキッチンまで付いてまるでロッジのような居心地の良さ!

ここは一体……?

宮本さん須賀津には、飲みに行けるところがほとんどないんです。気軽に飲んだり、交流したりする場が欲しいという声をお客さんからちらほら聞いていて、それなら祖母が昔事務所に使っていたこの部屋を使って、みんなが集まれる場所を作れないかなと思いまして」

一種の“コミュニティスペース”みたいな感じでしょうか?

宮本さん「そうですね。料理好きの人が料理教室を開いてもいいし、旬の食材を使った食のイベントなども面白そう。いろんなことをやってみたいなぁ」

茨城は食の宝庫ですもんね。レンコンにシラウオ……たまりませんなぁ~!

宮本さん「そうでしょう? ちなみにここは今年の2月から作り始めて、完成したのはつい最近なんですが、ありがたいことに本当にいろんな方が協力してくれて……ほぼ手作り、いわゆるDIYなんですよ」

例えば、壁紙はリフォーム業者の方から余ったものを、キッチンタイルは知人が家を建てた際に余ったものを譲ってもらったんだとか。

そして、驚くべくは中央のテーブルと流し台。なんとこれらの大物2つも“タダ”で手に入れたというから仰天! 宮本さんはさも普通のことのように「落ちてたんです」と話しますが……恐るべし須賀津!

スタイリッシュなイスは職人をしている友人が作ってくれたもの

宮本さん「お金をかけるのもいいけど、みんなで作り上げる期間が楽しかったですね。ここの呼び方は自由なので、“須賀津ベース”って呼ぶ人も居ます」

関東一の酒蔵数を誇る酒大国・茨城。杜氏を招いての新酒の会を提案すると「いい! それいいですね~!」とノリのいいお返事

なんせ窓からは美しい田んぼ景色を望める。カエルや鈴虫の声をBGMに晩酌なんてオツ過ぎる!

小さな町の小さな商店から、何かが始まろうとしている

穏やかな語り口ながら、ワクワクが伝わってくる宮本さんの言葉を支えるのは、生まれ育った須賀津への愛情。地元を愛し、地元に愛される宮本さんのチャレンジは始まったばかり。皆さんも応援してみませんか?

取材・編集/井上こん+プレスラボ
写真/横山英雅