キーマン紹介

教育から農の世界へ。「食」を支える仕事がしたい。

茨城県潮来市 岡野 豊(おかの ゆたか)

 茨城県潮来市出身。  大学卒業後、海外青年協力隊としてガーナに渡り、こどもたちに数学を教える。帰国後、塾講師などを経て、新規就農の道に進む。  現在も潮来市内にて農業を営む。

どんな活動をしていますか?
 潮来市内の畑やビニールハウスで野菜を育てています。  カブや小松菜、ニガウリや空心菜・にんじんなど、時期ごとにニーズのある作物を年間通して栽培しています。 こちらで育てている作物は生協に卸しています。なのでJASの基準を満たす有機農法を取り入れ、体にやさしい野菜に特化した形で営農しています。  2016年からは外国人研修生も受け入れ、作業場での袋詰めを担ってもらっています。  市場で手に取ってもらえるような状態にして、やっと出荷できます。  買う人の手に届くところまでを意識しながら日々仕事をしています。
はじめたきっかけはなんですか?
 もともと私は教師を目指していました。  親が教員をやっていたこともあり、幼いころからその道を意識していたのです。大学では数学を専攻しており、数学教師になるものだとばかり思っていました。  ただ個人的考えもあり、学校を出てそのまま教員となるよりも、経験の幅を広くしてから教職に就くあり方を模索していました。  そんな時目にした青年海外協力隊の募集が、私にはぴんときました。  そうして理数科の教師として、日本からガーナに飛ぶこととなったのです。  長年暮らした日本を離れてガーナの子どもたちと向き合う日々はとても新鮮でした。  ガーナの子どもたちは水汲みやキャッサバの取入れといった日常の中の仕事に追われて、あまり学校に来ることができません。  だからこそなのかもしれませんが、彼らは学ぶ意欲、学びたいという気持ちにあふれて学校に来る。  いきいきと勉学に臨む姿には素直に心を動かされました。    協力隊としての活動期間を終えて日本に戻った私は、自然な流れでそのまま教える仕事を続けようと思い、塾講師の職に就きます。  ですがそこで思い悩むこととなるのです。  ガーナの子どもたちの学ぶことに対する意欲的な態度と照らし合わせてみると、どうも熱に欠けるようなところがある。身を乗り出して勉学に向き合おうとする態度を見せてくれる子どもはそうそういない。教える立場としてもそれでは張り合いがない。  青年海外協力隊の頃と比べて、やりがいはひどく乏しいものでした。  このまま今の仕事を続けるよりも、自分にはすべきことがあるのではないかという思いが芽生え始めたのです。  そんな時、協力隊時代に出逢った女の子の存在を思い出すこととなります。  その女の子は栄養失調で長く入院していて学校に行くことさえままならず、その思いを私に訴えました。  「どうにかして学校に行けるように、元気になりたい」  その言葉が鮮明によみがえってきたのです。    「教育・医療・食」という三つの要素が、人が人として生きていく上でなくてはならないものだと思っていたのですが、その女の子との出逢いを通してまず何よりも先に「食」が来るのだと気づきました。  その時のことが頭をよぎった私が新たに関心をもったのは、”農業”です。  人の体の源となるようなものを作るという部分が、私の考えていたことと合致したのです。  潮来は米どころであり、潮来の農業といえば稲穂や田んぼのイメージがぱっと思い浮かびます。  ただ、食べていくための仕事として新しく始めることを考えたときには野菜の方が良いと思いました。  それまで異分野にいた私が農をなりわいとするには勉強が必要ということで、そこからは学びと吸収の日々を送ることとなります。  具体的には、水戸にある農業実践学校で専門的に農業を学んだり、「株式会社生産者連合デコポン」にて研修生として仕分けに携わりながら高い品質の作物に触れたり、実際に農家で働いたりと経験を積む日々を通し、「農」に対する理解を深めていきました。  そうした流れを経て、はじめは市内の農用地利用指導員の方の紹介のもとにごく限られた土地を借り、生まれ育った場所であるここ潮来の土で農業を営むこととなりました。  ほかにもハウスを建てる際に就農育成事業の支援資金という助けを借りたりしながら、現在のあり方に落ち着いたところです。  
一番大切にしていることはなんですか?
 作物を育てる土づくりには思いをもっています。  堆肥次第で食味までも大きく変わってしまうので、良質な土を作ることからはじまると言っても言い過ぎではないです。  特別栽培農産物の基準を満たすためには堆肥・石灰を撒く量についても厳しく管理しなければならず、計算を重ねたうえでできる限り削減する方向を目指し、奮闘しています。  また農業に関わる先輩から聞いた話として「作物は見ることが一番」というものがあって、その言にならい私も日々目をかけることを心がけています。  品種ごとの特色があり、気候も日々移り変わるので、とにかく今の状態の確認からはじめることを大切にしています。  
今後の目標を教えてください
 現在連携をとっている農業関係の会社からは、「この野菜はこの時期にこれだけの量が足りなくなる」といったデータが定期的に送られてきます。  需要に応える形で育てる作物を選ぶあり方をとっているのですが、そのおかげで売り先に困るといったことはなくなりました。  これからは求められるものにさらに柔軟に対応できるような体制を追い求めつつ、作物の質に関してもしっかりと維持していきたく思っています。    また市役所からの提案をもとに、あやめ雪カブの栽培を活発に行っていた時期もありました。  潮来市を代表する名物のひとつである”あやめ”をその名にもつ品種ということでアピールにもなります。  潮来市の名産として押し出していけるような特色のある作物を積極的に取り入れることで、潮来に寄り添った形での「食」と「農」の展開もしていけるよう考えています。  
 夏野菜ゴーヤ取入れのようす。  日々目をかけた作物が実を結ぶことの感動はひとしお。
 あじさい菜という趣深い商品名もひとつの訴求力につながっているのだと考えさせられる。

アピールポイント

 親と子で、家族で営む農業の形。  大きくなれという思いにこたえて、すくすく育った空心菜。    種まきの時がとりわけ楽しいと語る岡野さんだけれど、収穫した作物を片手に浮かべる笑みは、達成感に裏打ちされた輝きをたたえていた。

コーディネーター紹介

 ひとくちに「農業」と言っては、こぼれおちてしまうものがある。  ”農作業”だけが「農業」なのではなくて、人の口に届くところまで至ってはじめて成立するのだと改めて教えてくれたのが岡野さんでした。    「食」を支える仕事がしたいという思いが詰まった岡野さんのおうちの野菜は、まじりけのなさと力強さとすこやかさとを兼ね備えた、野菜本来の味わいに満ち満ちています。  それも日々の心配りによるところが大きいのだと、岡野さんのお話をうかがった今だからはっきり言えます。

ID:179 茨城県潮来市

鈴木 亮太(すずき りょうた)

平成5年生まれ。潮来市地域おこし協力隊。読む・聞く・書くの三拍子揃った人間となるべく修行中。

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