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700冊の絵本を把握! 8代続く薬屋さんが絵本を売る理由。

江戸時代から続く薬屋さんが、絵本専門書店に進化! 福島県田村市常葉町の「石川屋」8代目当主の石井修一さんは、壁一面に絵本の表紙が並ぶ個性的な本屋の店主でもあります。700冊もの絵本からおすすめを教えてくれる書店店主となった石井さんは、どんな“秘薬”を使って進化させたのでしょうか?

「本屋のない町は、文化が衰退してしまう」

福島県田村市の常葉町で江戸末期から続く石川屋は、もともと風呂桶屋と農業を主軸に創業。その後、石井さんの曾祖父から医薬品や化粧品の販売が始まり、祖父の代から時代の流れに合わせ書籍を扱うようになりました。

8代目店主の石井さんは、いずれは実家である石川屋を継ぐことを小さな頃から意識して育ちます。仙台での薬関係の営業マンを経て、25歳のときに故郷である常葉町に戻り、石川屋を継ぐことになりますが、待っていたのは書店としての厳しい現実でした。

石井
私の代になって、それまでの一般書籍のほかにコミックや雑誌なども扱い始めたのですが、問屋さんとの折衝も分からず実績もなかったので、そもそも商品を供給してもらうこと自体が大変で、小さな書店で思うような商品を揃えることの難しさを感じていました。大都市には大型書店が増え、インターネットが普及して本はネットで注文することが当たり前の時代の中で、どうやって価値を出していこうかと悩みましたね。

本の取り扱いを止め、書店としての機能をなくしてしまうことは簡単です。事実、小さな町の書店は次々と廃業していく時代でしたが、石井さんは「書店の機能はなくしてはいけない」と強く感じていたと言います。

子どものころから絵本が大好きだった石川屋8代目店主の石井修一さん。

江戸時代から続く「石川屋」8代目店主の石井さん。
地域の書店が持つ文化をなくしてはいけないと考えました。

石井
本は文化です。地域の書店がなくなってしまうと、その町の文化は衰退してしまう、との想いがありました。それは私の家族も同じ想いで、何とか生き残る道を模索していたときに、アメリカで大型書店のすぐ隣に小さい美術書専門書店があると聞きました。その話から、大型書店で扱っていないようなジャンルの本を揃え、直接お話しながら提案していけば、小さな書店でも価値を出していけるはずと考え、絵本で専門性を出すことにチャレンジしようと決めたんです。

絵本を中心に取り扱うことにした理由は、ひとつめは石井さんが好きな絵本に載っていたクルマを大人になってから購入してしまうほど、昔から絵本が好きだったこと。そしてもうひとつは、絵本は子どもが「本」という文化に触れる入り口であること。絵本を通じて本が好きになる、本好きな子どもがたくさん生まれる町であって欲しい、本好きな文化がある町であって欲しいとの想いがありました。

石井さんが子どもの頃に何度も読み返した絵本。 描かれているビートルは大人になって本物を購入したとのこと!

石井さんが子どもの頃に何度も読み返した絵本。
描かれているビートルは大人になって本物を購入したとのこと!

こんなの見たことない!
どこをみても「絵本、絵本、絵本」

以前の石川屋の店舗は、老朽化が進んでいたこともあり2016年にリニューアル。薬と化粧品を扱う店舗に加え、女性専用のエステサロンもオープン。江戸時代から続く老舗でありながら、現代的な雰囲気の店舗へと生まれ変わりました。

2016年にリニューアルオープンした石川屋の外観。 江戸時代末期から続く老舗とは思えない、モダンなデザイン!

2016年にリニューアルオープンした石川屋の外観。
江戸時代末期から続く老舗とは思えない、モダンなデザイン!

そして書店としては、絵本をならべる棚にこだわり、全体の空間をデザインしました。

石井
絵本の表紙は“顔”だと考えています。絵本専門書店として、倒れず、傷つかず、“顔”を見せて並べることができる棚を、大工さんと一緒に考えました。本は大きい本もあれば小さい本もあるので、表紙を見せて棚に並べたとき間抜けにならないよう、棚と棚の間隔にはとても気を遣いました。ここまで絵本の表紙が見える本屋はないと思います。

できあがった棚は、一面に“顔”が並べられ、絵本の持つ魅力が伝わってきます。“顔”が語りかけてくるので、この本も面白そう、これもあれも、と自然といくつもの絵本を手に取ってしまいます!売れている絵本を平積みすることで“顔”を見せることが精いっぱいな書店が多い中、絵本専門書店らしい個性的な棚で、絵本との出会いをつくり出しています

店内の棚一面に表紙を正面にして並べられた絵本の数々。すごい迫力です!

店内の棚一面に表紙を正面にして並べられた絵本の数々。すごい迫力です!

つかれた時、つらい時に欲しくなる言葉。
それらはみんな絵本の中にある。

絵本専門書店ならではの棚で個性を出しつつ、石井さんが最も力を入れているのは、お客さんひとりひとりとの会話です。絵本は子ども向けではあるのですが、選ぶのは大人。例えば母親が絵本を選びに来たとしたら、いま子どもが興味のあることは何か、子どもにどんな本を読ませたいと思っているかなどをていねいに聞き出し、適していると思った本を紹介しています。

石井
現在取り扱っている本は、絵本を中心に約700冊ですが、ほぼすべての本の内容を把握しています。本の内容がわからないと、おすすめすることはできません。莫大な本の中から、目的の本や好きな作家の本を探すことに優れている『検索型』がインターネットの本屋ならば、うちはお客さんの気持ちや好みを聞いて、おすすめする『提案型』の本屋を目指しています。
石井さん「お客さんの今の気持ちに沿った絵本の選書しますよ」

石井さん「お客さんの今の気持ちに沿った絵本の選書しますよ」

絵本は子どもだけのものではありません。大人もぜひ絵本を手にとってほしいと石井さんは考えています。

石井
あまり本を読まない人にとっても絵本は親しみやすいものです。小学校低学年くらいまで、読み聞かせてもらったり、自分で読んでみたりして絵本に接していますが、徐々に離れていきます。中学生や高校生になると、絵本どころか、本もあまり読まなくなる。うちにも高校1年の男子と中学1年の女子がいますが、お世辞にもたくさん本を読んでいるとはいえません(笑)。
しかし、大学生、社会人になり、忙しくて疲れてくると、ふと自分の中に言葉が欲しくなるときがある。そんなとき、絵本はやさしく言葉をかけてくれます。いま、どんな気持ちなのか、どんな言葉をかけてほしいのか。悩みを解決することはできませんが、気持ちに寄り添った絵本を紹介することはできます。

実は石井さん、作曲もイラストもこなす「芸達者」。地域の仲間が主催するイベントのテーマソングを作曲し、さらには、CDジャケットのイラストも手がけたほど。いつかは自分で絵本を描いてみたい、との想いも密かに抱いているそうです。

田村市にゆかりのある坂上田村麻呂を大好きなキャラクター風に描いたというイラスト。 すごい完成度です!

田村市にゆかりのある坂上田村麻呂を大好きなキャラクター風に描いたというイラスト。
すごい完成度です!

リニューアルすると、地元のお客さんはもちろん、一面に表紙が並ぶ個性的な棚を持つ絵本専門書店としてのクチコミが広がり、遠方からも絵本好きな大人が来店するようになりました。「名物書店」として、地域の活性化にも貢献しつつあります。

石井
今後は店のWebサイトもつくって広く発信し、絵本専門書店としての知名度を上げていきたいですね。常葉町は、高校を卒業すると地域を離れてしまう若者が多いんです。しかし、常葉町で試行錯誤しながらも、個性を出して商売が成り立っている店があれば、町に誇りを持って就職のときに戻ってきてくれるかもしれません。後に続く若者が増えるように、頑張っていきますよ。

笑顔で語る石井さんと話していると、不思議と元気が出てきます。そんな石井さんに、気持ちの寄り添った絵本をおすすめしてもらえる常葉町の人が、とてもうらやましくなりました!少し疲れた時、欲しい言葉をくれる絵本と石井さんに出会いに、常葉町へ出かけてみませんか?

石川屋では本当に、床から天井まで絵本が並んでいます

石川屋では本当に、床から天井まで絵本が並んでいます

小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。
小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。