海

沖縄県読谷村、美しい海を蘇らせる「さんご畑」

海

沖縄本島の中部に位置する読谷村は、東シナ海に面した村。海には美しい青のグラデーションが広がり、日本一人口の多い村としても知られています(2016年4月現在)。

小野さん

その読谷村の浜辺に大中小の水槽を作り、120種類のサンゴを育てているのが金城浩二さん(写真右は奥様の美佐江さん)。約2年かけて手作りで完成させた陸上の小さな海、「さんご畑」のオーナーです。

さんご畑

「さんご畑」では、株分けしたサンゴをある程度大きくなるまで育て、目の前の海へと移植しています。そして水槽の中で育つサンゴを見ることもできる場所。初めて訪れたときには、色とりどりのサンゴの美しさに驚きました。

さんご畑の中

金城さんが「さんご畑」を作るうえで読谷村を選んだのは、本島南部の那覇市から北上していくと、昔ながらの自然浜が広がるのがこの読谷村だったから。幼い頃によく遊んでいた沖縄らしい浜辺のすぐそばを選んで作りました。

サンゴの移植をはじめようと思ったわけ

金城さん「僕が子供の頃はね、海に行っても山に行っても天国じゃないかと思う場所が沖縄にたくさんあったんです。滝があって蝶がいて、花が咲いて何時間でもいられるような場所。海でいうと、きれいなサンゴがすぐそばにあって、浜から1キロ泳いでも色鮮やかな魚が途切れることがない世界。

海へ潜ると、フルハイビジョンのテレビで見るような美しいカラーの世界が広がっていてね、けれど、いつからかだんだんとグレーになり、モノクロの世界へ変わっていったんです」

畑をのぞく

山の木々が1年で枯れるような自然破壊を見たら、おそらく社会全体でなんとかしようとするはず。でも、海の中のサンゴが失われても簡単には人の目に届かない。自然破壊が起きても失われた自然はそのまんま……。そこに疑問を持ったというのです。

『だったら植林するようにサンゴも育てて、海へ移植しよう!』

そのひらめきから金城さんの大きなチャレンジがはじまります。

畑と緑

金城さん「実はこの取り組みがどれだけハードか理解していなかったんですよ。世界で誰もやっていないこと、自分しかやれないことへの憧れもありました」

世界に例のないサンゴの養殖と移植。それは全て手探りからのスタートでした。生育にきれいな水が欠かせないとわかると、ろ過装置を作るために浄水場に通って水について学んだり、水槽作りに溶接が必要とわかったら鉄骨屋にお願いして、溶接の勉強をさせてもらったり。

小野さん笑顔

金城さん「自分の考え方で大事にしているのは、できない理由を見つけないこと。それを意識していないと、何をやるにもやめたほうがいい理由がみつかってしまうから。

難しい問題であればあるほど『逆にできたらすごいってことじゃない?』とポジティブに考えました。できない理由があるほうが問題をクリアしたときに達成感があったんですよ。みんなができる、いいんじゃないっていうものは、やってみたら案外つまらないものです」

サンゴの話を聞いているはずなのに、生き方まで学ばせてもらっているようで、金城さんの話にぐいぐい引き込まれていきました。

海からの感謝状

試行錯誤しながら、たくさんの問題を少しずつ乗り越え、金城さんはサンゴの養殖と移植に成功します。これは読谷村に陸地の「さんご畑」を作るずっと前の話。サンゴの移植を思いついてから約5年、水槽の中で育てたサンゴを初めて海に移植したのは、2003年のことでした。

ダイバーとともに移植し続けたサンゴが2~3ヵ月で根づき、その周りに魚たちも増えてきて、その様子を「海の中に森が少しずつ広がってきた」と感じたといいます。

さんごとクマノミ

金城さん「サンゴが育っていくのが嬉しくてね、感動がいっぱいありました。僕がサンゴを植えた場所に行くたびに、生き物がどんどん増えていくんですよ。まるで自分が地球を作っているような気持ちになりました」

今ではそのサンゴ移植を1本3,500円で「さんご畑」へ依頼できます。申し込み後、海への移植が完了したら海中で写真を撮り、移植した場所の緯度と経度、日付つきで「海からの感謝状」が届きます。間接的にでも海の森を広げることに貢献できるこの仕組みは、多くの方に喜ばれ、広がり続けています。

陸地に作ったサンゴ畑

青い魚

その後、海に根づいたサンゴの産卵にも成功し、読谷村に引っ越してきた金城さんは、陸地に人工のサンゴ礁を作りはじめました。それは水族館のようにサンゴを眺められる陸上の小さな海、この「さんご畑」です。ここは冷却装置も、ろ過装置もないのに目の前の海より水温が4~5℃も低く水質がきれい。

さんご畑上から

金城さん「『さんご畑』を作ろうと思ったきっかけは、移植して順調に育つサンゴもいたけれど、なかには埋め立てなどで泥をかぶって崩壊したサンゴもいたからです。以来、海に移植しても何かのきっかけで全滅するかもしれないという不安がありました。

けれど、陸地でサンゴを育てる技術を開発すれば、もし世界中のサンゴが死滅しても、僕が残したサンゴを海へ移植すればまた命の輪が広がっていく。そう考えたんです」

それはノアの方舟のようなものだといいます。海への危機感を感じ、まっすぐに向き合ってなお、海の問題を目の当たりにしたからこその発想。今ではその技術を求めて県外の水族館からアドバイザーとしてオファーがきたり、海外からの視察がくるほどです。

窓から

金城さん「この『さんご畑』がうまくいったのは生態系を作ったことなんです。自然の中には生き物の緻密なバランスがあって、そのバランスは生き物どうしがかかわりあうことで保ちあっている。それをここにも取り入れたことで、たくさんのサンゴが育ちました」

さんごと魚

だから、どの水槽にも沖縄ならではの色鮮やかな熱帯魚がすいすい泳いでいます。それは株分けしたばかりの幼群体が育つ水槽も同じこと。上の写真は水槽を横から見たところで、小さなサンゴの上を魚が気持ちよさそうに泳いでいました。

ほかにも貝類やエビやヤドカリなどがいて、それぞれの水槽のサンゴが成長しやすいように生体バランスを調整しています。

さんご産卵

そして、よりサンゴのことを知ってもらうために、毎年5月末から6月の2週目あたりのサンゴの産卵時に「さんご畑」を無料開放しています。

産卵を見ることで胸の奥に感じたこと。それを大切にしてほしいと金城さん。昨年、私も初めて見ましたが、サンゴが卵を水中に放つ様子に感激し、ひとつひとつの命を深く感じるとてもいい機会になりました。

自分の「好き」を大切にしていけばいい

水槽

誰もやったことのない「サンゴの移植」と「海の目の前の陸地に小さな海を作ること」。初めは変人扱いされたり、苦しかったこともたくさんあったはずなのに、問題をひとつずつ乗り越えながらまっすぐ進む金城さんの姿には、話を聞いているだけでまぶしさを感じます。

それはきっと、誰に何と言われようと、金城さんが大切にしたいものをずっと見つめ続けてきたから。家族のサポートがあり、大勢の応援してくれる人に支えられながら、サンゴの力を信じ、そこに価値を見つけた自分を信じていたから。

丸い水槽

金城さん「何かをはじめるときに、行動する前から正しいかどうかなんて決めなくていいと思うんです。動いてみないとわからないし、やってみた結果、『いい感じ』って思えたら、それが自分にとっての正しいこと。それぞれが大切にしたいことを大切にする。それでいいと思います。

僕が何かをはじめるときは、いつもやったらおもしろいだろうな、楽しいなっていう気持ちがありました。『好き』っていう感覚は頭から出るものじゃなくて、心で感じるもの。自分が感じたことに素直に生きられたら幸せですよね」

価値基準のものさしは、世間一般や他の誰かではなく、自分自身にある。情報を頭に詰め込みすぎて動けなかったり、見られ方を気にするより、自分の信じたものを胸にワクワクする気持ちを大切にすればいい。

今までにないものを作り上げ、いろんな道をたどってきた金城さんの言葉が胸にすっとしみこみます。

海

金城さん「夢中になれることを見つけてやった結果、世の中のためになったらなおいいですよね。僕のしたことが沖縄の海がよくなった理由のひとつなんだ、そう思えて人生を終われたらいいと思っています」

小さな頃に海の中に見た「天国のような世界」を蘇らせたい想いから約20年。金城さんは今、またワクワクしながら新たなプロジェクトを進行中。愛する沖縄の海を見つめ続けています。

■さんご畑
住所/沖縄県読谷村高志保923‐1
電話/098‐982‐9988
時間/10時~18時(11~2月は9時~17時)
http://www.sangobatake.jp/
*養殖サンゴの移植依頼 1株3,500円

■金城浩二さん
1970年沖縄県生まれ。98年にサンゴの白化を目の当たりにし、サンゴの養殖を始める。その後、海への移植と産卵にも成功し、有限会社「海の種」を設立、代表になる。2007年に「人間力大賞」、「内閣総理大臣賞」、「環境大臣奨励賞」を受賞。10年に自伝『てぃだかんかん-海とサンゴと小さな奇跡-』を出版し、映画化。「さんご畑」のオーナーをつとめながら、講演会や水族館アドバイザーとして全国を飛び回っている。

小野暁子

小野暁子

編集者&ライター

おいしいもの、かわいいものを見つけることをライフワークとするフリーライター。料理専門の編集部に勤めたのちに独立し、料理や旅の記事を書く。2011年より沖縄へ移住。力強い太陽に照らされながら、透明感あふれる碧い海と深い緑、温かい人柄に癒されつつ、観光サイト「沖縄CLIP」を中心に、沖縄の人や店、文化、工芸品など、この土地ならではの魅力を伝えている。
小野暁子

小野暁子

編集者&ライター

おいしいもの、かわいいものを見つけることをライフワークとするフリーライター。料理専門の編集部に勤めたのちに独立し、料理や旅の記事を書く。2011年より沖縄へ移住。力強い太陽に照らされながら、透明感あふれる碧い海と深い緑、温かい人柄に癒されつつ、観光サイト「沖縄CLIP」を中心に、沖縄の人や店、文化、工芸品など、この土地ならではの魅力を伝えている。