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沖縄県八重瀬町、色鮮やかな糸で手織りする「伝統的な織物」

工房とショップをかねた赤瓦屋根の古民家へ

かたん、かたん。からからから。リズムのよい音に混じる楽しそうな笑い声。機織工房「しよん」にたどり着くと、いくつもの軽やかな音が聞こえてきました。

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ここは沖縄本島の南部にある八重瀬町(やえせちょう)。昔ながらの赤瓦屋根の民家が並び、道中のところどころで、さとうきびが風に揺れる場所。耳を澄ますとヤギの鳴き声まで!そんなのんびりとした空気に包まれた築50年以上の古民家で、工房兼ショップをかまえる「しよん」。鮮やかな色合いの手染めの糸で、沖縄の伝統的な織技法を用いた手織りのクラフトをうみだしています。

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笑顔で迎えてくれたのは、作り手である4人の女性たち(左から牧山さん、長池さん、喜久村さん、山城さん)。

実はこの「4人」というのは店名の由来にもなっているキーワード。工房を立ち上げた時が4人だったので、「糸がよっつ → し(糸)よん(四)」という名にしたのだそう。

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オリジナルのロゴマークも、よくよく見ると糸の文字。温故知新をモットーに、糸を4つ組み合わせたデザインになっています。

作り手との距離が近く、制作風景を見られる場所

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しよんの織物は、糸を染めるところからはじまります。綿・麻・絹などの天然素材の糸を、沖縄の月桃やフクギなどを使った植物染料と、色落ちしにくくカラフルな色合いの化学染料のいずれかで染めあげます。訪れたこの日は、染めた糸が軒先にかけられ、気持ちよさそうにおひさまの光と風を受けていました。

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中におじゃますると、ふわりとやわらかな空気。女性の作り手だからかもしれません、初めてここを訪れたときに温かい気持ちになったのも、誰かの家におじゃましたような居心地のよさに満ちていたのも、きっとそのせい。古民家の4分の3ほどが工房スペースで、日によって作業が違うものの、見学を希望すれば制作風景を見られるのも、しよんならではです。

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こちらは「ばったん」というちょっと珍しい機織り機での作業風景。

「沖縄かりゆしウエアの布を織っているところです」と喜久村さん。

長い反物になるため、4人でかわるがわる織ります。ふだんは各自が好きなものをデザインして作りますが、ひとつのものをみんなで作ることもあるのです。

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こちらは整経(せいけい)という作業。

「これから作るもののデザインに合わせて、たて糸の長さと巾をそろえているんです」と長池さん。

気軽に尋ねると、作業内容を教えてくれます。織物というと、どこか遠い世界のものと思いがちですが、しよんに足を運べば作業工程のいくつかを見られるので、ものづくりの世界がぐっと身近に感じられます。作り手との距離が近いのです。

はっと心ときめく色合いの織物たち

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そんな4人の手からうまれた織物が並ぶショップスペースは、工房のすぐ横に。織物の上品さはそのままに、色とりどりの美しさが目を引くクラフトは、持っていて嬉しく楽しくなるものばかりです。

「しよんの織物は、高価で手が届かないものではなく、身近に使えて洗うこともでき、長持ちするものをと考えています。落ち着いた色合いが多い織物の世界にカラフルな色を取り入れ、年齢層を問わずに使えるようにしたくて」と牧山さん。

暮らしのなかに織物を、というスタンスです。

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だから、さほど広くないスペースですが、クラフトが並ぶコーナーをぐるり巡るだけでわくわくします。

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ペンケースに名刺入れ、ヘアアクセサリー。どれひとつとして同じ色はない一点もので、暮らしにすっとなじむもの。手みやげに贈り物にどうだろうと、ここに来ると誰かに何かを贈りたくなるのも、いつものこと。ロートン織や花織、絣(かすり)など、沖縄伝統の7種類の織り技法で作られていて、そんな話を聞くのも楽しい時間です。

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こちらは「マース袋」といって、塩を入れたお守り。「マース」とは沖縄の言葉で「塩」を意味し、琉球王朝時代より、厄や災いから身を守ってくれるものとして持ち歩く習慣がありました。また、開運や縁むすびにもつながると言われ、今でもマース袋は親しみ深いものとして暮らしに根づいています。

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しよんの特徴ともいえる鮮やかな色合いは、沖縄のきりりとした強い日差しのなかでも、ぱっと映えるもの。その力強さ、色の組み合わせにはほれぼれしてしまいます。

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なかでも花びん敷きの美しさには息をのみました。

手がけた山城さんは「青色は、何層ものグラデーションで彩られる沖縄の海を映したもので、赤色は夕焼け空を織りあげたものです」とにっこり。

沖縄の自然を取り入れた作品には、深く惹きつけられます。この織物を見るたびに海や空を思い出したなら、なんて素敵なんだろうと見入ってしまいました。

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個人的に特に気になったのは、ご祝儀袋などを入れる「ふくさ入れ」とワンピースに合わせたい「クラッチバッグ」。手にするだけで大人の女性のスマートさを身につけられそうで、和装にも洋装にも合うところが魅力です。

ところで、工房とショップが一緒だと制作に集中できないのでは?と、そのスタイルについて聞いてみると、

「実際に購入してくださるお客さんの顔が見えるのはとても嬉しいんです。会話のなかから今あるクラフトの改良点が見つかったり、新たな作品づくりのヒントにもなったり」と牧山さん。

手から手へ受け渡す温かさを大切にし、この空間だから、うみだされたものが数多くある。牧山さんの言葉は、それを物語っていました。

4人だからこそ、うまれるもの

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そんな話を聞くうちに、皆がお互いを尊敬し、支えあっていることがひしひしと伝わってきました。織物は地道な作業だから、ひとりだととても孤独なのだそう。4人いることで、それぞれの作品に刺激され、時には協力しあえることもある。お互いを認めて信頼しあい、見えない糸で結ばれた強い絆があるのです。

それは店の前に着いたとたんに聞こえてきた、けらけらとした笑い声からも感じられたこと。そう、皆とても楽しそうに作業しているのです。背伸びせずに、自分たちのリズムで楽しんで作る姿が作品にも反映されているからこそ惹きつけられ、ここを訪れるたびにやわらかな気持ちになる。それはまるで4本の個性豊かな糸が折り重なってうまれた美しい織物のような空気感。決してひとりではうまれないこの空気感こそ、しよんの魅力であり、他にはない美しい作品づくりに結びついているのだと思います。

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伝統工芸にふれながら、おしゃべりをして、人の温かさを感じられる場所、しよん。足を運べば、日々に追われるうちにどこかに忘れてしまった大切なものを思い出させてくれるかもしれません。ここは沖縄らしい豊かさがたくさん詰まった場所なのだから。

機織工房しよん
沖縄県八重瀬町仲座72
098‐996‐1770
//www.shiyon.info/

小野暁子

小野暁子

編集者&ライター

おいしいもの、かわいいものを見つけることをライフワークとするフリーライター。料理専門の編集部に勤めたのち独立し、料理や旅の記事を書く。2011年より沖縄へ移住。力強い太陽に照らされながら、透明感あふれる碧い海と深い緑、温かい人柄に癒されつつ、観光サイト「沖縄CLIP」を中心に、沖縄の人や店、文化、工芸品など、この土地ならではの魅力を伝えている。
小野暁子

小野暁子

編集者&ライター

おいしいもの、かわいいものを見つけることをライフワークとするフリーライター。料理専門の編集部に勤めたのち独立し、料理や旅の記事を書く。2011年より沖縄へ移住。力強い太陽に照らされながら、透明感あふれる碧い海と深い緑、温かい人柄に癒されつつ、観光サイト「沖縄CLIP」を中心に、沖縄の人や店、文化、工芸品など、この土地ならではの魅力を伝えている。