和菓子でケーキ…? 和と洋の職人技が生んだ“特別な日”のケーキ

和菓子って何だか敷居が高くて、いつ食べればいいか分からない……。

そんな和菓子をグッと身近にしてくれる「和菓子ケーキ」をご存知ですか?

©岩川 中

 
和菓子ケーキとは、簡単にいうと「浮島(※餡を主原料に、卵、上新粉、小麦粉などを加えて蒸したもの)」と呼ばれる生地に羊羹をコーティングし、さらに色とりどりの季節の和菓子を飾ったもの。

全てが和菓子の素材でつくられる、世界にひとつだけのオーダーメイドケーキです。

 
このケーキをつくっているのは、鹿児島県姶良市で三代続く和菓子屋さん「あじ福」。

お店に伺ったのは寒さが厳しい年明け。ショーケースに並ぶのは、新年を祝う花びら餅や冬の名物・いちご大福。綺麗な和菓子たちに、時間を忘れてついつい見入ってしまいます。

 
お話を聞いたのは、あじ福の3代目当主、岩川 中(いわがわ・あたる)さん。

和菓子ケーキにとどまらず、和菓子の新しい文化をつくろうと奮闘しています。

“特別な日”に贈る特別なケーキを

さっそく、和菓子ケーキについていろいろ聞いてみます!

©岩川 中

羊羹でコーティングした土台の上に、色鮮やかな和菓子が飾られています

── 和菓子でケーキをつくるなんて、初めて見たときはびっくりしました…! 和菓子の素材でケーキの形を作って、トッピングに和菓子を乗せているんですね。

岩川元々は、ケーキ職人の父がつくり始めたんです。だから、最初は今のスタイルじゃなく、もっと洋菓子っぽかったんですよ。金粉をのせたりもして……。

それから、浮島という生地を羊羹でコーティングして、和菓子をのせるという今のスタイルになりました。

季節に合わせてきんとんでデコレーションしたり、お祝いの時は紅白とか、いいんじゃない? ってアイデアを出して、どんどん変えていきました。

── 注文はどんな方からくるんですか?

岩川イベントとか、節句とか、誕生日、長寿のお祝いの注文が多いですね。だから上にのせるお菓子もオーダーメイドにして、特別感を出しています。

©岩川 中

家族みんなで楽しく囲む姿が浮かんできそう!

岩川イベントにおける和菓子の利用シーンって、「完成度」じゃなくて「関係度」の方が大事だと思っているんですよ。

お土産や贈答品のように、誰かにあげるときには商品の完成度やおいしさ、高級感、品のよさが大事です。

でも、クリスマスとか誕生日みたいなイベントごとのお菓子って、家族でつくりながらわいわいできて、参加している人同士の「関係」が深まる方がいいんじゃないかなって最近感じています。

── 確かに、自分でつくったものって特別で、思い出にも残りますもんね。

岩川だから、和菓子ケーキも今までは完成したものを販売していましたが、今度から和菓子でも果物でも好きなものをのせて、オリジナルのものをつくれるように、何ものっていないプレーンなものを販売してみようと思っています。

祖父は和菓子職人、父は洋菓子職人

和菓子がとにかく大好き! という岩川さんは高校卒業後、愛知県の和菓子屋さんで修行を行い、25才で鹿児島に戻って来たのだとか。

あじ福は今から42年前、岩川さんのおじいさんとお父さんの2人で始めたお店。あじ福という名前は、“味”にこだわりたい、という思いと、食べた人に福がくるようにと名付けられたそう。

 

岩川祖父は和菓子職人、父は洋菓子職人。祖父はいわゆる職人気質で、お客さんともよく喧嘩してました(笑)。

だけど、技術は本当にすごくて。工芸菓子(菓子の材料を使って製作される展示・観賞用の造形作品)も干菓子(水分の少ない乾燥した和菓子の総称。落雁や和三盆など)も生菓子(水分の多い、主としてあん類を用いた菓子。餅菓子や饅頭など)も、何でもできましたね。九州でもすごく有名だった。

そんな祖父を見て育ったこともあり、和菓子が大好きだったんです。お店を継ぐことしか考えてなかった。高校を卒業して、18歳から7年2ヶ月の間、愛知県の和菓子店で修行をしました。

工場にもお邪魔しました

── 修行時代の思い出ってありますか?

岩川とにかく楽しかったんですよね……! 忙しかったけど、いい方々に恵まれて。毎月コンテストがあったり、お菓子をつくることに集中できたのはすごく良かったです。

── 修行先である愛知と、地元・鹿児島とで“和菓子文化”の違いはありましたか?

岩川愛知では成人式や七五三、桃の節句に端午の節句、結婚式など、どんな行事にも和菓子を添える文化が根づいていて驚きましたね。お店でも、毎回すごい量のお菓子が売れました。

お店の商品に「二段重」というものがあって、下の段にはお赤飯、上の段に行事にまつわるお菓子が入るんですが、それが何百箱って売れるんですよ。

鹿児島は、郷土菓子が根づいていてお店で買うよりも家でつくる、という文化なんですよ。文化の違いにはびっくりしました。

「あじ福」に並ぶ鹿児島の郷土菓子

いいものをつくりたいから、“食べる現場”でも仕事

── 鹿児島で上生菓子(お茶席や正式な行事の席で、最上のおもてなしとして出される、伝統と由緒あるお菓子)や干菓子を売っているお店ってめずらしいですよね。

岩川着物で集まって主催者がお茶をたて、みんなでお菓子をいただく……というような「お茶会」がありますよね。

そういったお茶会で出す和菓子の製作を父の代から担当していることもあり、あじ福でも上生菓子や干菓子を売っています。

ただ、うちは店も小さいし名前も知られていない。だから毎回ヒット作を出すしかないと思っていて。

どういうお茶会にしたいのかを汲み取って、形としてお菓子で表現する。毎回挑み続けて、終わった後もこれでよかったのかなと悩んでます。

上生菓子「こぼれ梅」をつくる様子

岩川さんは、お菓子を担当したお茶会の席にも積極的に入るようにしていているのだそう。

岩川お菓子は当日の朝、会場まで自分で持って行って、お菓子の担当の人に上下の向きや特徴を伝えます。

やっぱり、お店で見るのとお茶会で見るのは違いますね。だからお菓子の色や、乾燥していなかったかなどを確かめるようにしています。

実際にお茶会に来た人たちから「おいしかったね~」という声を聞くとほっとします

季節の上生菓子「こぼれ梅」280円

岩川お茶や和菓子など、日本の伝統的な文化を楽しみたい人は多いのに、敷居が高くて続けられないというのが辛い。だから、ちょっとラフに考えてもらえるきっかけができたらいいなと思っています。

和菓子ってかっこいいじゃん! と思ってもらえるように

── 和菓子を通して伝えたいことって、どんなことですか?

岩川笑顔になってもらうことっていうのがベースにありますね。あと、自分の理念として、食べる“食”と働く“職”の価値をあげること、というのがあります。

── なるほど、食と職ですか……!

岩川まず食べ物だから「おいしい」のが大前提。そこにどんな価値をつけていくかっていうはずっと考えていますね。

職に関しては、「お菓子屋さんで働きたい」という、職業の選択肢の一つになってほしいなと。

保育園で和菓子教室を行うことも。園児たちのつくった節分のお菓子がずらり!

岩川今教えに行ってる製菓学校でも、学生の9割はパンと洋菓子志望。将来「和菓子屋さんになりたい、和菓子職人になりたい」という若い人が増えてほしい。

和菓子屋だからって、まんじゅうつくるだけじゃなくて、何でもやっていいんだ! って。そうなるためには魅力的なことをやっていたいし、アピールもしていかなきゃいけないですよね。

上生菓子をつくる道具

── アピールですか。

岩川作り手の人こそ前に出なきゃいけないなって。和菓子職人ってどうしても言葉にするのが苦手なんですよ。でも言わなきゃ伝わらないですよね。

この人がつくってるんだと知ってもらえたり、あじ福さんおいしいよねといってもらえるのも嬉しいし、岩川さんがつくってるお菓子だったら間違いないよねと個人名でいわれたらすっごい嬉しい。あじ福のお菓子は俺の菓子だぜ! って言いたくなっちゃいますね(笑)。

食べたらなくなる。だからこそ、その前後の時間を大事にしてほしい

岩川そうそう、以前こんな言葉を言われたことがあって。「食べたら一瞬でなくなるものにこれだけ情熱をかけて人を喜ばせるというのはすごいことだね」って。
そっかー、と新しい視点でしたね。

食べたらなくなるからこそ、食べる前と食べた後の時間を大事にしたいし、してもらいたい

店に来た時も、綺麗だな~とか、これどうやってつくっているんだろう? っていうワクワクを感じたり、あの人に食べさせたいなと誰かのことを考えたり。

食べた後も、おいしかったな、今度はあの人にも食べさせたいな、もう1個買っとけばよかったなとか。

── 食べるときだけじゃなくて、その前後もお菓子を通じて豊かに過ごせるというか。

岩川自分が和菓子が好きなのもあるんですけど、和菓子をどうやったら喜んでもらえるかな、いろんなシーンで使ってもらえるかなって、いつも考えていて。いろんなことができるなって思うんですよ。

和菓子の歴史、人それぞれの考えがあっていいけれど、型にとらわれずに、もっと和菓子の可能性や魅力に触れてもらいたいな~と思いますね。

 
なんだか縁遠いもののように感じてしまいがちな和菓子ですが、気軽に、いろんなシチュエーションで食べることが和菓子の新たな魅力の発見につながるのかもしれません。

みなさんも日常の中に和菓子を取り入れてみてはいかがでしょうか?

取材・編集/せせなおこ(和菓子ライター)+プレスラボ
トップ画像提供/岩川 中