「素振りしてたら球が当たった」1年でフォロワー15万人の山田全自動さんに聞く“個性って?”

はじめまして。東京大学3年生の、高野りょーすけと申します。
すごく個人的なことですが、

自分らしさってなんだろう」と考えることが増えました。

高校生までは受験勉強だけすればよかったのに、大学に入っていろいろな方とお会いすると、自分と比較することで劣等感がモコモコ出てきてしまい、

・バイトの面接で「あなたにしかない長所は?」と聞かれても答えられない
・就活で「あなたを一言で表すと…?」と言われて爆発しそうになる
・周りに自分よりできる人しかいない
・じゃあ、自分の個性ってなんだろう?

と考えるようになりました。大学で留年して親に泣かれますし。

もしかするとこれを読んでる方の中にも、「自分の長所が見つからない」「周りに比べると私は…」「個性がよくわからない」と悩む方が、600人に1人ぐらいはいるかもしれません。

そんな中でと言ってはあれですが、SNSで強烈な個性パンチを放っているのが、今回お会いさせていただく山田全自動さんです。

骨折した友達が
チヤホヤされて妬ましい
©山田全自動

「ここは私が払いますから」
「いえいえ私が」というやり取りを
冷めた目で見つめる店員さんを観察
©山田全自動

宅急便を受け取り後
すぐに鍵を閉めてると感じ悪いので
閉める音を利用して素早く施錠
©山田全自動

日常に潜む”あるある”を描く、浮世絵調なイラストがたちまち人気となり、インスタグラムをはじめて1年たたずにフォロワーが15万人を突破。

個展も開催、イベントも開催、本も出版されて激動の日々を過ごしているかと思います。

誰にも真似出来ない個性をお持ちの山田全自動さんに、

・自分らしさや個性ってどうすれば見つかるの?
・生活はやっぱり変わったの?
・お金もたくさん手に入るの?

といったことをお聞きできればと思い、山田さんの拠点である福岡県に飛びました。

もしかしたら、自分の個性に悩む僕に、なにかヒントをいただけるかもしれません。

「山田全自動」って何者?

── お忙しい中ありがとうございます。たくさんの方々から人気で刺激的な毎日だと思いますが、以前と比べて、生活も大きく変わったのではないでしょうか?

「すごいうれしいですが」

なにも変わってません

── そうなんですか

「去年の12月から、インスタグラムにイラストを投稿しはじめたのですが、実は5年前からホームページとFacebookにひっそりとアップしていたんです。ですが特に話題にもならず、もういいやと思って。一度見切りをつけて、投稿するのをやめました

── なるほど。そこからなぜ、再びイラストを描くように…?

「インスタグラムをやっていた僕の奥さんから、『最近絵を描いている人が増えてるけど、前やってた浮世絵調のイラスト、もったいないからインスタグラムに投稿してみたら』と言われまして。それまで溜まっていた200ぐらいのストックを、また1日1個ずつあげていくことにしたんです」

ブレイクのきっかけは、一本の記事だった

── 確かに、インスタグラムなどのSNSでは多くの方々が活動されていますね。一気に注目され出したのは…?

「半年ぐらいたった、今年の5月ですね。BuzzFeed Japanの與座ひかるさんという方に書いていただいた記事がLINE NEWSのトップに載り、フォロワーが一晩で8万人ぐらい増えて…。1秒で100人のペースで増えつづけて大フィーバーのような…。ねとらぼに取材していただいたときも、LINE NEWSに載ってまた数万人増え…。僕のやることは変わらずですが、取り上げていただいてすごいうれしいです」

今年9月発売のご著書

学生時代は「友達いないヤツ」だった

── イラストを描かれる前のことも気になるのですが、大学生の頃とかは一体どんな生活を?

「とりあえず、友だちができなかったんですよ」

── 意外ですね。これだけ売れたら、昔の同級生の方々に自慢したくなりません?

「いえいえ…。友だちはもう全然できなくて、モラトリアムって感じでした。サークルにも部活にも入らないで、4年間ひたすら、本や映画や音楽をインプットしつづけて。その経験が、今のネタに役立ってるんじゃないかと思います。手塚治虫を参考にしてマンガを描いたりしていましたが、特にどこかで発表することもなく」

── 就職活動はどうされたんですか?

「服がちょっと好きだったので、有名な某紳士服店に入社しました。ですが、3年目になったときにようやく、自分は接客に向いてないことに気づいたんです」

── 3年目で

「3年目で。そこからイスに座ってやる仕事がしたいなと思いまして、ネット関係ならもくもくできそうだなと。個人でホームページを作るのが好きだったこともあり、web制作の会社に入りました。そのうち、個人でやっていた収入の方が会社員の収入よりも上回ったので、自分で制作会社を立ち上げて。それが2011年です。会社のPRになればと、2年後にはブログも開設して」

バルト三国からオファーが来た

── イラストをネットにアップし出したのは…?

「これも、仕事を増やしたいという動機からでした。1日1個、人や景色を描いてアップすることをルールにしまして。その中でなんとなく浮世絵っぽく描いてみたら、結構評判が良かったんですね。こっちなのかな、と。絵に一言添えるようになり、だんだん今の作風になっていきました。まだ、練習の段階だと思っています」

── 海外からも、連絡とか来ませんか?

「あります。ちょっと前まで、リトアニアで展示会が開かれてました」

リトアニアの都市、ビルニュスで開かれた

── かっこいいっすね

バルト三国で。最初は英語で連絡が来たので、『日本語でやり取りさせていただければご協力致します』と返事したら、すごいカタコトの日本語で返って来て

── 大変ご丁寧に…

がんばって、どなたかに頼んでくれたりしたんだろうなと。作品のデータをお送りしたら、印刷して50枚ぐらいを立派に並べてくれたんですね」

── これからも、どんどん海外に行かれそうですね

「行けたら嬉しいです。いま中国の方で、ぼくの作品を中国語に翻訳してインスタグラムにあげてくれる方がいらっしゃって。出典を明記してくれて、毎日ぼくがあげたらbotみたいにすぐに翻訳してくれているんです」

©山田全自動

さぞかし、お稼ぎになってるのでは?

── これだけご活躍されていると気になるのが、「お金」の事情ですが…実際のところどうですか?

「正直これについては、収入はまったくないんです。本の印税ひとつとっても、入ってくるのは1年後とかになりますから。web制作の方が全体の収入の8割ぐらいを占めています。制作の発注がものすごく増えた! とかもないですし」

── …なるほど。ずっと福岡でお仕事されていると思うんですけど、なにか特別なこだわりが…?

どこでやっても同じ仕事ですからね。僕は佐賀の出身なんですけど、最初の就職の配属先がたまたま福岡だったのでずっといるだけで、福岡がすごく好きというわけでもないんです」

iPadがあればどこにいても描ける。仕事の場所にはこだわる必要がないのかも

── 「まち冒険」的にどうなんだろう。でも、実際はそういうめぐり合わせみたいなものでそこに住んでいる方が、たくさんいらっしゃるんでしょうね。

「家賃が安いのはいいですね。東京だと3LDKで20万円かかったりするでしょう。経費がすごく安いというのは有利だなと。それにこの近辺だけで完結できることが多いので、たしかにコンパクトシティという感じはしています」

描いているところを見せていただいた

レイヤーごとに分けられて、下書きを残したまま書ける。2タップすると直前に描いた線が消える

一人描くのに15分ぐらい。絵は江戸で、道具は平成だった

個性どころか、自分が何者かもよくわからない

山田全自動さんのこれまでの経歴や仕事での葛藤、イラストがヒットしてからのことをうかがってきましたが、ここでぼくが一番聞きたいことへ。

── ぼく、「自分の個性ってなんだろう」とか「自分らしさ」みたいなことを考えはじめてしまって。山田全自動さんは、自分に悩んだりされるんですか?」

「…そうですね。いつもずっと、『これでいいのかな』と思いながらやってます。この絵を描く時も、これであってるのかなって。終わりが見えない感じです。僕はよく悩むので、悩まないように常になにかするようにしていて。絶対空白の時間ができないように、その時やれることをやりつづけることが、解決策ではないでしょうか」

── なるほど…。

「僕自身、あまり自分が何者かはよくわかってないんです。『あなたはどんな人ですか?』と聞かれても、『どんな人でしょうね』となってしまう。イラストレーターなのかwebデザイナーなのか、郷土史研究家なのか」

ただ黙々と素振りをしていた、そうしたら誰かが玉を投げてくれた

「…『あいつ素振りはスゴい上手いよな』ってポジション、すごくいいと思っていて」

── …どういうことですか?

「僕は絶対、4番エースやホームランとか、そういうタイプじゃないんです。『あいつすごい盗塁するよね』とか、『バントはめちゃくちゃ上手いよね』みたいな人になりたいんです。浮世絵も、かっこいい感じのを描いてる方はたくさんいらっしゃるんです。刺青のデザインになるようなやつとか、グラフィックアートみたいな。でも、僕自身はそれじゃないと思うので、ちがった場所で自分のポジションを見つけていけたらなと」

空白の時間を作らず、その時やれることをずっとやり続けて、素振りし続けたら、悩まないと思います。気がついたら自分のイスが見つかっているんです。ホームランを目指さなくても、素振りがめちゃめちゃ上手い人になったら、それも評価されるのではないでしょうか」

── …素振りですか…。

「素振りをしていたら球に当たった」と語る山田全自動さん。

ずっと素振りをしつづける。それを見た誰かが、ボールを投げてみたくなったのかもしれない。
記事の取材も、中国やリトアニアの方々も。

── …最後に、今後挑戦されてみたいことはありますか?

「海外の方にもアプローチしたいです。言葉がなくても、絵だけを見て外国の方にもおもしろいと思ってもらえるものを作れれば。絵以外では、明治や大正の良い所があまり届いていないので、その時代の魅力も伝えていければと思います」

今までずっと、無闇やたらに、「自分らしさ」や「個性」に振り回されていたのかもしれないなと思いました。
悩んでばかりで自分らしさに縛られているだけでは、頭が真っ白になってなにもできなくなり…。

やれることをやり続けること。

忘れていた大事なことを、山田全自動さんに教えていただいた気がします。

そして、そんな山田全自動さんの素振りに、これからどれだけの人がボールを投げてくれるのか、つまりはこの記事の下の方にある応援ボタンがどれぐらい押されるのか、今後も注目したいなと思いました。

執筆・編集/高野りょーすけ+プレスラボ
写真/松尾亜伊里