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イチゴ農家にしてサウンドクリエイター!福岡名産「あまおう」を作りながら奏でる音とは?

福岡県の東端に位置する上毛町にUターンした松本大祐さんは、農家とサウンドクリエイターの2つの顔を持っています。
まったくの異分野ですが、どちらも全力投球し、「半農半X」ではなく「全農全X」を標榜する松本さんの素顔に迫ります!

「半農半X」ではなく「全農全X」!

近年、「半農半X」というライフスタイルが注目されています。
自分や家族が食べる分の食料は小さな自給農でまかない、「X」で表現される残りの時間は、自分のやりたいことや、地域や社会に必要とされる活動に費やす暮らし方です。

松本さんは、農家としては福岡県の特選イチゴ「博多あまおう」を手がけ、サウンドクリエイターとしては主に東京から発注される仕事をこなし、どちらも全力投球。

「全農全X」を標榜しています。

松本
イチゴ栽培は育苗から収穫まで1年がかりなんです。時間がかかるし、病気に弱くて手間もかかります。「半農半X」という程度の思いでは、とてもじゃないですが、できません。やるからには「全農全X」です。畑も音楽の仕事も100%の力で向き合っています。
松本さんが作るイチゴは、福岡名産の「あまおう」。収穫は5月ごろまで続きます

松本さんが作るイチゴは、福岡名産の「あまおう」。収穫は5月ごろまで続きます

「なんとなく」のUターンを大きく変えた、父親の死。

上毛町は人口約7800人の小さな町。
川を挟んで隣は大分県中津市です。
農業が主な産業、裏を返せば大きな産業のない町ともいえます。
近年では野草を使ったグリーンツーリズムや収穫・出荷が行政を巻き込んで行われています。

日本中のどこにでもある、ほのぼのとした田舎町なのです。

里山の魅力が楽しめる上毛町

里山の魅力が楽しめる上毛町

松本さんは大阪の美大に進学、そして東京で就職しました。

サウンドクリエイター、プログラマーとして東京、北九州でデスクワークの毎日を送り、北九州時代には職場で妻の諭子さんと知り合い、6年前に一緒に地元に帰ってきました。
それまでの生活から一転して、父親と一緒に畑づくりを始めます。

松本
特に大きな理由があって帰ってきたわけじゃないんです。どうして音楽の仕事を辞めたんだろうって思うこともありました。生活は安定していたし、やりがいもあったのに。いま思うと、当時は何かから逃げたかったのかな、とも思います。

父親や周囲の先輩農家から教わる農業は甘くなかったと言います。
苗が全滅したことや病気にかかり、思うように収穫できないこともありました。

イチゴづくりは毎日の積み重ねが大切。毎日のように葉を間引きます。

イチゴづくりは毎日の積み重ねが大切。毎日のように葉を間引きます。

試行錯誤しながら、苦労してなんとか収穫量を上げられるようになった矢先、イチゴ作りの師匠である父親が2015年春に交通事故で亡くなりました。
悲しみの淵にありながらも、一家を養わなければなりません。
頼りにしていた存在を失った年も変わらずにイチゴを作り続けました。

松本
いなくなって知らずと親父を頼っていたことに気づきました。どうしてこの時期に苗を植えるのか、なんてそれまで考えたことがなかったんです。それまでは親父に言われた通りに作業するだけでしたから。親父がいなくなって初めて考えるようになって、すべての作業や時期について、意味があることがわかりました。
意識が変わり、受け身から能動的に働くようになりました。

「自分で考えるようになって、イチゴ農家としての楽しさがそれまでよりも増えてきました」

ネット社会の今なら、地方でもサウンドクリエイターはできる!

農業に打ち込む一方で、松本さんはこれまでの仕事であった音楽とは離れることなく、趣味で曲を作り続けていました。
父親が亡くなり、農業への思いが変わるのと前後して、松本さんは音楽の仕事も再開することになりました。

そのキッカケとなったのは、音楽と離れられずにいる夫を間近で見ていた妻の諭子さん。
30代にして地元で就農して地域やJAの役職もこなしながら、家に帰れば2児の娘たちのよき父として子育てにも協力してくれる…そんな普段の頑張りを知る諭子さんにしてみれば、夫が好きな音楽に打ち込める時間をつくってあげたいとの想いがありました。

松本さん愛用の機材。パソコンで音づくりもできますが、実際に機材を触る音づくりが好きとのこと。

松本さん愛用の機材。パソコンで音づくりもできますが、実際に機材を触る音づくりが好きとのこと。

松本
いつの間にか勝手に応募されていて驚きましたが、嬉しくて怒るに怒れませんでした。いまの本業はイチゴですけど、イチゴの収穫が終わって収入が大きく減る夏場には、音楽の仕事があって助かっています。

現在は契約している東京の企業からの依頼に応じて、映像に合わせた効果音やサウンドトラックを手がけています。
ネット環境と機材が整っていれば、どこでも作業ができるので、午前は農作業、午後は音の打ち込みと平行することもできます。

松本
イチゴに関しては、常連さんの中には、親父のつくったイチゴの方が美味しかったという人もいます。自分でもまだまだなんだと思っているので、これからも親父を追い越せるように頑張ります。音づくりは、まだイチゴづくりの経費を補填してくれる程度なので、もっと増やしたいです。それとは別に自己表現としての音楽もライフワークとして作りたいですね。
サウンドクリエイターとして全力で音づくりに取り組む松本さん。

サウンドクリエイターとして全力で音づくりに取り組む松本さん。

畑がないと育たないイチゴと、頭の中からつむぎだされる音。
全く性質の異なる商品ですが、「お客さんに届ける以上はどちらも同じ。全力でつくらないと」。

「全農全X」の道は始まったばかりです。

若岡 拓也

若岡 拓也

石川県出身、福岡県上毛町在住。

ライター、ランナー、地域おこし協力隊として活動中。