和歌山の山奥に全国から客が集まる“100円ショップ”があった

あなたが山奥を歩いていて、突然、”100円ショップ”が現れたらどう思うだろう。しかも店には人の気配がなく「代金はこちらへ入れてください」というボックスが置いてあるだけだ。

何かの罠か!? たぬきに化かされたと思う人もいるかもしれない。

そんなお店が、和歌山県の北部、伊都郡かつらぎ町に実在する。さらにはその店を目指し、全国から人が集まっているという。一体どんな店なのだろうか……。真相を確かめに行ってきた。

山奥の100円ショップで売られていたもの……それは「木」だった

大阪から電車を乗り継ぎ、およそ2時間ほどかけてようやくJR笠田駅に到着。そしてその駅前から一日に7本だけ出ているコミュニティバスに乗車した。山道を20分ほどうねうねと登るバスに揺られるうち、「本当にこの先に目的の店があるんだろうか」と心細い気持ちになってくる。

バスの乗客は3人で、山道の途中のバス停で降りたのは私だけだった。

トラックが横をバンバン走り去っていく中、不安な気持ちを抱えつつ斜面を登っていくと、木材の積まれた小屋が見えてきた。これがその無人の100円ショップのようだ。

峠の100円店」という看板が目印である。

山道の途中にふいに現れた「峠の100円ショップ」。

おそるおそるのぞいてみると、店の敷地らしき場所に木の板や丸太、何かの切れ端のような細かいものなど、色々な形の木材が所狭しと置かれている。

この木材が「峠の100円ショップ」の商品らしい。素人目にも「この大きさの板が100円ってかなり安いのでは!?」と思うようなものが並んでいる。

中には1個50円の商品もある。

さらには3個100円という価格のものも。

しかもこのショップ、前述の通り“無人販売”というスタイル。会計は備え付けのボックスにチャリンと入れるようになっている。「えっ!大丈夫なの!」と思わず心配になってくるようなワイルドさだ。

なんという豪快なスタイル!

「峠の100円ショップ」の店主にお話を聞いてみた

一体、誰がどうしてこのようなお店を開いたのだろうか……。そんな疑問がポカーンと頭に浮かんだところに、このお店の運営者である峰裕人さんが現れた。

白髪に長いひげをたくわえた仙人のような人が営んでいる店かもしれない……と勝手にイメージしていたので、若く見受けられるその姿に驚く。

いらっしゃい。変わった店やろ?

── あ……。ちょっとまだ頭の整理がついてないのですが、こちらは木材を扱う100円ショップなんですか?

そう。色々あるからゆっくり見ていって。

── すごく大きな板とかもありますけど、どれも全部100円なんですか?

100円のものもあるんやけど、大きなのは何千円とかって値段になってる。反対に、10円のものもある。まあ、だから、100円ショップじゃないんよ(笑)厳密には。

── これ、「代金はこちらへ」って書いてありますけど、黙って持って行かれちゃったりしないんですか?

いや、みんなちゃんと入れていってくれるよ。時々、母親が留守番がてら店番してくれる時もあるけど基本的には無人やから人件費がかからない。だからこういう値段で売れるわけ。どれも安いよ。

── なるほど。確かになんとなくどれも安いような気がします。ここに並んでる木材は、どこかで作られたものなんですか?

製材所で出た端材もあるし、ここで売るために作ってるものもあるし、色々あるよ。

話によると、峰さんはこのお店からほど近い場所にある「峰木材」という製材所で働いており、そこで出た様々な形の切れ端などを販売し始めたのが「峠の100円ショップ」のそもそもの形なのだとか。

ほら、ここ。7~8年前にオープンした時はこのスペースだけだったんよ。

オープン当初は赤枠内だけだったお店。今は山道に沿って10倍ほどの面積に広がっている。

── 畑の脇によくある野菜の無人販売スペースみたいな感じですね。

そうそう。最初はそんな感じやった。やってみたら好評で、お客さんからだんだん「もっと大きいものも欲しい」とか、リクエストされるようになってきてね。それで、100円では出せない大きい板とか、丸太なんかも置くようになっていった。

オープンのきっかけは知り合いの何気ない一言だった

峰さんがこの風変わりなお店を始めたのは、知り合いとのこんな会話がきっかけだったという。

祖父の代からやっている「峰木材」で働き始めたのが10年前で、それまでは大阪でサラリーマンをしてたんよ。その頃、通ってたスポーツジムで知り合った10歳上ぐらいのおじさんが、「木工が好きなんやけど良い材料が買える場所が近くにない。車で3時間ぐらいかけて買いに行ってる」って言ってたのね。

── 木材を買うとなると、ホームセンターなんかが普通ですよね。

そうなんやけど、ああいうところだと真っ直ぐにカットされた綺麗なものしかないのよ。木工に使えるような味のある木材がない。

── なるほど。

それを聞いた時、「自分の実家やったら端切れなんかいくらでもあるのにな」って思った。自分のまわりにはいくらでもあるものが、誰かにとっては宝物なんやなって。その言葉をずっと覚えていて、自分が製材所で働くようになってから実現させたというのがきっかけやね。

このお店の「人気商品」はどんなもの?

キャンプファイヤー用の薪から2メートル近い長さの大きな板まで色々な商品が並ぶ店だが、売れ筋商品は、「耳付きの板」と「丸太」だという。”売れ筋商品が「丸太」”とは、このお店でしか聞けないフレーズであろう。

こういうのが「耳付きの板」。”耳”っていうのは、木材の外側の部分ね。ホームセンターだと、ここが切ってあるものしかない。こういうものを売ってる場所は他にほとんど無いんよね。

「耳」が残ったままの板。素朴な風合と細長い形を活かしてテレビ台にするという人もいるそう。

丸太も売れ筋やね。大きいものは庭に置いてそのまま椅子にしたり、小さいサイズやったら植木鉢を置く台にしたり。使い道はもう人それぞれやね。

丸太は2,000円から3,000円といった価格帯のものが多い。

「例えばこんな感じ」と、峰さんが目の前で半分に切った丸太と厚みのある板を組み合わせてベンチを作ってくれた。

庭に置きたい!そのためにまず、庭付きの家に住みたい!

── ところで、お客さんってどれぐらい来るんでしょうか?

週末になると結構来るよ。道に車がずらっと並ぶこともある。他で買えないような、ある意味で貴重なものばかり置いてるから、遠くから来るお客さんもおるよ。神奈川県とか茨城県から来る人もおる。交通費を考えたら損ちゃうかと思うけど(笑)それでも掘り出し物があるから来てくれるみたいやね。

── へー!! 関東からわざわざ来るんですか!

四国とか九州からも来てくれる。向こうは林業がさかんな土地やけど、こういうものを売ってる場所が無いらしい。あとは、若い女の子が小さめのサイズの板とか買って行くことも多いね。「これ可愛いー!」って、どんな風に使うんやろうと思うけどね(笑)。

とはいえ、基本は無人販売なので、峰さんがお客さんと直接会う機会はそれほど多くないらしい。並べてあった商品が無くなっているのを見て、「これ、結構売れるな」などと売れ行きを見極めるそうだ。

峰さんが語る”林業の厳しい現状”

製材所の方も見て行く?ここで売るものを作るところも見せてあげようか。

そんな風に言ってくれたので、峰さんが普段仕事をしている「峰木材」に案内してもらった。高野山周辺から運ばれてくるヒノキやスギをはじめとした様々な木を、企業などの発注にあわせて様々な形に加工している。

「峠の100円ショップ」で販売するための丸太を作っているところを目の前で見せてもらう。お話を聞かせてくれていた時の穏やかな表情とは打って変わって真剣な眼差しを浮かべる峰さんが素敵だった。

「台車」と呼ばれる巨大な装置で木材をカットしていく。

敷地内には、空手などで使う“試し割り用”の板が大量にストックされている一角があった。

これ、全部が割るための板!

こちらは、インターネット通販限定で50枚以上からのセットで販売しているという。木目の向きが横になっていて割りやすいのが特徴。年間で5,000枚は売れるそうだ。

この製材所で働きだして10年になる峰さんだが、林業全体が逆境に立たされているのを痛感しているという。

かつらぎ町には、昔は製材所が10社はあった。それが徐々に減り、ここ10年間でさらに減って、6社から1社になってしまったからね。一気に衰退している。今、家の中に木のものってどれぐらいある?あんまりないでしょう。

── そうですね……。

家の中にちゃんとした木を使ってるものがまずないのよ。昔やったら柱ももちろん、窓枠から何から木だった。それが建材や技術の進化で使われなくなった。木は高いし、扱うのに技術もいるしな、気温や年数によって狂いも出るし。難しいんやな。
木が売れなくなると、山に手を入れることもなくなるから、山が荒れたりもする。それが土砂崩れの原因になったりもするんよね。ただ、嘆いとっても時代が木で造られた家だらけの頃に戻ることはないし。だから「峠の100円ショップ」みたいなやり方で、木の魅力をアピールしたいと、手軽に木に触れて欲しいっていう、かっこよく言ったらそういう気持ちもあるね。これで「情熱大陸」出れるかな?(笑)

── わはは! 今まさにお話を聞いていて「情熱大陸みたいだ!」と思っていたところです(笑)。

「情熱大陸」を意識して撮らせてもらった1枚。

常連客に聞く「峠の100円ショップ」の魅力

再び「峠の100円ショップ」へ戻る。「平日はそんなにお客さんは来ないよー」と峰さんは言っていたが、平日だった取材時にも和歌山県内から車できたお客さんが数名いた。

月に1回はお店をのぞきに来るというお客さんにお話を伺うと、「その時々に並んでるものが違うから、これはあれに使えそうとか、インスピレーションを感じるのが楽しいんです」とのこと。日曜大工が趣味らしく、今度庭に塀を作るというので200円の杉板を大量に購入していた。

また、建築業をしているという別のお客さんは、数千円する大きめの板をまとめ買い。ダイニングテーブルを作る予定だとか。「木って自然のものやから、反ったりひび割れたり、同じものがないでしょう。それが面白い。ホームセンターに行っても面白味のない木材しかないからね。ここに来たら魅力的な木がたくさんあるし、あり得ないほど安いからね。ここで買って、その面白味を分かってくれるお客さんの家づくりに使ってるんです」と言う。

「峠の100円ショップ」は、木のぬくもりが縁遠くなりつつある今の時代の中で、そのあたたかみを求める人々の拠り所になっているようだ。

私は、3個100円の小さな丸い板と、200円のイチョウの木の板を買って帰った(車で行っていたら丸太を買ってベランダの椅子にしたかったのになー!)。

表面と側面を少しだけヤスリ掛けした。

そして小さな丸い板はコースターに。

ヒノキの香りが最高です。

何とも言えない複雑な形をしたイチョウの板は鍋敷きに!

すごくしっくり来たので嬉しい。

さらにもう一品、特別に「試し割り用の板」を1枚譲ってもらったので割ってみることに。

これが結構難しい。ビビりながら中途半端な勢いでパンチするとうまく割れない。

何回か失敗した。

気合を入れ直し思い切って拳を突き出す。

パカーン!と割れる快感。

峰さんは言っていた。「かつらぎ町には、うちしか製材所がなくなってしまった。競合他社がいなくなってしまったわけ。でも、だからこそ自由にできる、というところもあるんよ。こういう時代だからこそ、どんどん色々なアイデアを出していきたい」と。

試し割り用の板を割るのにも思い切りが大事なように、時代の逆風におびえずに勢いで前向きに踏み出すことが重要だと、峰さんの姿勢からそんなことを学んだ。

ぜひみなさんも、「峠の100円ショップ」に立ち寄り、峰さんのアイデアを応援しよう!

峠の100円ショップ
住所:和歌山県伊都郡かつらぎ町日高337/営業時間:7時~18時ごろ(基本的には無人販売ですが、商品の購入は近隣の方の迷惑にならない時間にお願いします)/定休日:なし

※記事内で紹介されている商品が常時販売されているとは限りません。その時に並んでいるものがすべてなので、ぜひ店頭で確かめてみてください。

執筆・編集/スズキナオ+プレスラボ