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生きる理由を見つけること。あと忘れないこと

「人生の勝ち組」
ってどんな人たちなのでしょうか。

例えば偏差値の高い大学を出て、大企業に勤めて、高級タワーマンションに住んで、老後はのんびりと過ごす。
そんな人生が勝ち組なのであれば、宮津で出会った人は誰ひとりとして勝ち組ではありませんでした。

だからといって宮津で出会った人々が「負け組」であったとは到底思えません。

レストラン『ビオ・ラビット』でシェフとして活躍している対馬さんと、宮津の山間地域である上世屋(かみせや)でエコガイドや写真家として活動している安田さん。

この2人の取材を通じて、人生の勝ち組とは何か。なぜ宮津の人が「負け組」ではないのか、そもそも彼らこそ現代における「勝ち組」なのではないか。

そんなことを考えた理由を紹介します。

出会いのキッカケは藤の花

最初に、全く関係がないように見えるシェフの対馬さんと、エコガイドの安田さんが出会ったキッカケを学生が聞きました。

「お二人はどんなキッカケで出会ったのですか?」

安田さん:今日みたいに東京からお客さんが見えて、丹後半島を回りたいと言われたんです。そこで丹後のいいところ、面白いもの、変わったものを見てもらった方が楽しめるのではないかと。

そこでちょうど地元でレストランをしている対馬さんに、何かできないかというお話をしたんです。

対馬さん:何を作ったと思いますか?

安田さん:その時期はちょうど藤の花の季節だったんですね。

対馬さん:だから藤の花のシャーベットを作ったんです。

偶然の出会いから生まれたコラボレーション。藤の花のシャーベットを作った対馬さんとはどんな人なのでしょうか?

自然栽培だからといって安心すべきではない

『ビオ・ラビット』は、対馬さんの食に対する哲学を体現するレストランです。使っている野菜はすべて自然栽培のもの。ただ、それだけではありません。

自然栽培と言われると無条件に「安全・安心である」と思ってしまいますが、しっかりと野菜の種類や食べ方まで考える必要があると対馬さんは言っています。

対馬さん:例えばダイコンとかジャガイモといった根菜類。これらには特にアクがあります。土の下に埋まっていて太陽の光を浴びていないものは基本的にアクが多くなるんです。

そういう野菜を食べ続けると身体に影響が出ることがあります。だからちゃんと「どうやってアクを取り除くのか」を知っておかないといけません。料理の仕方もそうですが、食べ方もあります。

朝昼晩と同じものを食べないこと。バランスよく食べること。生のものから食べるようにすること、など。

身体に負担をかけないような食べ方をしないといけないんです。

安田さん:対馬さんはこういう食の哲学を実践するためにこの店を開いたっていうことなんです。

イノシシ肉のサラダ

前菜で頂いたのはサラダ。お肉はイノシシの肉でした。

イノシシ肉は半年間塩漬けにして熟成、さらに1年間冷蔵庫で寝かせて柔らかくします。自然栽培の野菜と、牛乳の乳脂肪だけを分離して集めて練ったカッテージチーズと一緒に頂きました。

生きるために働く

自身の食の哲学を実践するお店を構える対馬さん。そんな対馬さんにとって働くとはどういうものなのでしょうか。

「対馬さんにとって働くってどんなものですか?」

対馬さん:僕の「働く」はイコール「生きる」です。

生きるために働いています。

今の世の中、「働く=お金」になってるけど、昔は違ったでしょ。自分が生きるためにものを取って食べる、それが働くだったんですよ。

お金を稼ぐっていうのは生きるための手段の一つでしかない。だから「働く=お金を稼ぐ」でもいいんです。大切なのは「何のためにお金を稼ぐのか?」という理由の部分だと思います。

対馬さんにとって「働く」とは生きること。とても力強い言葉でした。
「なぜ生きるのか?」と問われると難しく感じるかもしれませんが、対馬さんの考え方はシンプルです。

対馬さん:何のために働くのか?何のために生きるのか?を考えるということは、自分の人生観を作るということでもあるんです。

「自分の人生は素晴らしかった」と言えますか?

「対馬さんが20歳くらいの時にはもう自分の人生観を持っていたんですか?」

対馬さん:僕ね、高校卒業する間際の2月まではギターで飯食っていこうって思ってたんです。

ただ当時『料理天国』って、大阪の辻調理師専門学校の先生たちが出てくる番組があったんです。それを夕飯食べながら見ていたら、自分の食べている料理とテレビの向こうの料理にあまりにギャップがあることに気づいて。

その時に「自分も将来お父さんやお母さんにあんな料理を食べさせられたらいいな」って思ったんです。

それが僕の人生観が決まった瞬間。

「すごい!」

対馬さん:その時に目標を決めたから今があるんです。

棺桶に入った時に「自分の人生は素晴らしかった」って思えるものが人生観だと思うんです。だから別に挫折したって、失敗したっていいんです。その時々に「何を目指すのか」がはっきりしていることが大切なんです。

だから大学生の今、人生観を決めないといけない。まずは何を目指すのかを決めないとダメなんです。

棺桶に入る時に「幸せな人生だった」と思えること。それは究極の「勝ち組」なのではないでしょうか。結局のところ、高学歴も大企業も「お金」という生きるための術を手に入れやすくするための選択でしかありません。

働くと言われるとどうしても「仕事」のイメージがあります。ただ対馬さんが言っている「働く」とは生きること、つまり「仕事」に限らない意味で使われていました。

自分はどうあるべきか?

という問いは同時に自分の将来の家族や、一緒に関わる人にどうなってほしいのかという問でもあります。

鹿肉のスペアリブ

続いていただいたのが鹿肉のスペアリブ。
ジビエ肉はシカもイノシシも一頭の内で美味しく食べられるのはほんの一部、一番上等な肉が食べられるロースの部分だそうです。

上世屋でもう一人の生きるとは何かを聞く

今回お話を聞いたもう一人、エコガイドの安田さんはビオ・ラビットから車で15分ほどの距離にある上世屋(かみせや)というエリアで活動しています。

対馬さんの力強い「生きるとは何か」というお話につづいて、上世屋で聞いた安田さんの「生きるとは何か」というお話を紹介します。

自分たちはなぜ村を出なくちゃいけないんだろう…?

例年に比べてとても暖かい冬だった今年。普段なら身長ほども雪が積もる上世屋ですが、今年はかなり低めでした。

それでも春のような日差しを感じるビオ・ラビットと比べると、一面に広がる銀世界。そんな上世屋に安田さんがやって来たのはちょうど20代の中頃。中学校の先生として赴任してきたのがキッカケだそうです。

安田さん:40年も前のことですけど、ここに中学校の分校がありました。今は廃校になってしまったんですが、最後の年の子供たちが

「なんで自分たちが村を出なくちゃいけないんだろう」

って。頭ではわかってはいるんだけど納得いかない。そんな場面に出会ったんですね。

その想いが上世屋に関わり続けることになった原体験だと思います。

モリアオガエルの池を取り戻した話

安田さん:これは上世屋の後に赴任した学校での出来事なんですが、カエルの池を取り戻したことがあるんです。

そこにあった池がね、畑のための用水だったんですけどもう畑をやる人もいないということで埋められることになったんです。

そしたら、この池で生まれたカエルがいるんですが、モリアオガエルという種類です。彼らは生まれた池に戻ってきて卵を生むんです。それも水の中じゃなくて、水面の上にせり出た木の枝とかに卵を生むんです。

だから池があったところに生えている木には卵を産んでしまうんです。池が埋められた後も。

「大変だ!」

そう、大変なんです。下は土だから。なので近所の子供たちが洗面器とか、バケツとか持ってきて池を作ったんです。

あと看板を立てて、これはモリアオガエルのために水を貯めています、見守って下さいって。

そしたら村の人も「何をしているんだ」と。関心を持つようになってきて、どうするべきか一緒に考え始めたんです。

埋める時はそんなカエルのことまで考えていた訳ではないんですね。そこから京都府の人と相談して、最終的には一土埋めた池を掘り返してくれたんです。

ちょうど生物多様性条約とかあったのも影響があったと思います。このエピソードは上世屋ではない地域のことなんですが、こんなことがあってから上世屋に住んでいた人がもう一度帰ってきたいと思った時に、帰れる村がなくなっているとどんな気持ちになるんだろう、なんて思ってしまったもんだから。

その時にもうカエルとニンゲンの区別がなくなっちゃったわけですよ。

でこの建物に「かえると人と土と水」という名前をつけたんです。

「かえると人と土と水」には安田さんたちが今までに撮影した写真が展示されています。また上世屋のエコガイドの方々の事務所にもなっています。

安田さん:里山の暮らしは米作りです。水とカエル、土があって人がいる。カエルっていうのはヘビに食べられる。そのヘビは鳥に食べられる。カエルを大事にしないと里山では生きていけないんです。

この「かえると人と土と水」では、そういう風に生き物と人が共生してる姿を描きたかった、だからこんな名前をつけたんです。

シェフの対馬さんが語っていたのは「人生の目標」を早く定めることの大切さでした。一方安田さんは、人生の目標を定めてからの生き方、を教えてくれました。

決して劇的なドラマが連続するわけではありません。むしろ日常は、淡々とした毎日の繰り返しの方が多くあります。

ただその中でも、進む方向を間違えないようにすること。それこそが二人に共通した生き方なのではないかと思いました。

編集後記

人生の勝ち組とはなんだろうか。

そんなことを考えながら取材をしていました。つまるところ、対馬さんの言葉である
「棺桶に入る時に自分の人生は素晴らしかった」と言える人こそが勝ち組なのではないでしょうか。

安田さんは子供たちが「帰れる場所」を守ることで、未来に上世屋という素晴らしい場所をつなごうとしています。それもきっと、対馬さんの言う人生の価値観の一つです。

今の時代は一見すると何にでもなれるように思えます。好きな職業について、好きな人生を送る、そのための選択肢がたくさんあります。

けれども逆に、選択肢が多すぎて選べなくなっている、そんな人が増えているように感じます。対馬さんが言っていた「どう生きたいのか?」という問いは、その選択をちゃんとする、ということなのだと思います。

まずは目標を定めてみる。そしてその目標に向かって進んでみる。

違ったっていいんです、その時に修正すれば。まずはどこへ進むのか定めてみるのが、勝ち組への一歩なのではないか、そんなことを思った取材でした。

ちなみに安田さんが所属している宮津世屋エコツーリズムガイドの会、先日(2016年3月)行われた「エコツーリズム特別賞」を受賞されたそうです。京都府では唯一!おめでとうございます!

■ビオ・ラビットについて…
住所:〒626-0225 京都府宮津市字日置3599マリントピア5号館
お問い合わせ(電話):0772-27-0141
公式サイト:http://www.biorabbit.com/index.html

「ビオ・ラビット」の学生レポート

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齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。
齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。