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明日は明日の風が吹く 帰ってきたくなるゲストハウス

みなさんには、「第二のふるさと」と呼べる場所はありますか?
おじいちゃん・おばあちゃんが住んでいるところ、友達やパートナーの地元だったりするかもしれませんね。
では、あまり縁の深くない場所を旅していて、そんな感覚を覚えたことはあるでしょうか?
たとえ、全国各地・世界各国へ出かけたとしても、「帰ってきたい」と思えるような存在に出会うのはなかなか難しいことかもしれません。

※海猫ゲストハウスWebページ(http://uminekomiyazu.com/)より

宮津に初めてできたゲストハウス、海猫ゲストハウス。
ここには、まさに「ただいま」と言いたくなるような空間が広がっています。
築160年以上の古民家をリノベーションし、1人で切り盛りするのはオーナーの石田由美子さん。

石田由美子さん
1965年、宮津市に生まれ、高校時代までを市内で過ごす。
高校卒業後、東京で幼児教育について学び、幼稚園教諭に。
その後、オーストラリアやアジアなど世界各地を旅し、訪れた国は30カ国を超える。
大阪の輸入販売会社勤務を経て、2013年、宮津にUターン。
2014年4月、幕末時代の空き家をリノベーションしたゲストハウス、「海猫ゲストハウス」をオープンさせる。

今までの宮津にはなかったものを、しかも1人で運営するまでには、大変な苦労があったのでは…
知りたいこと、聞いてみたいことがたくさん。
暖かいこたつを囲んで、学生たちによるインタビューが始まりました。

バックパッカーになって気づいた日本の良さ

学生:来る前にここのことを調べていたのですが、色々なところに旅に出ていらっしゃったと知りました。
これまでにどんなことがあったのか、お聞きしたいです。

石田さん(以下敬称略):長いですよ、歳も歳だから(笑)。
生まれ育ちは宮津なんです。高校卒業まではいたけど、あの頃は東京に行きたくて行きたくて。
幼児教育の勉強をして幼稚園の先生もしたんやけど、自分にはあんまり合ってないと思って。で、旅に出ました。

こうして、1年ほど放浪の旅を続けた石田さん。
帰国して就職した後も度々海外へ行き、旅をしていた期間は全部合わせて3年くらいになるのだそうです。
何が彼女を海外へと誘ったのでしょう…?

石田:なんで海外に興味があったんですかね、なんでかわかんない。
地元も好きじゃなかったし、日本も好きじゃなかったのもある。しんどかったっていうかなぁ。
出たら逆に日本の良いところがわかったとか、そういうのがありますよね。

オーストラリアでの出会い

とにかく「ふらふらする」のが好き。
行き先も滞在先も決めずに気に入ったところに泊まる、というスタイルで旅を続けていました。
そんな無類の旅好きがゲストハウス運営に至るまでには何があったのでしょうか。

学生:ゲストハウスを始めたのは、やっぱり観光に関わることがやりたかったというのがあるんですか?

石田:自分が旅行していた頃って、日本にはユースホステルしかなかったんですよ、安い宿って言ったら。
海外行ったら個人でゲストハウスをやってはる人がいたんで、そういう仕事があるのかと思って。
どっかでできたらなって思ってた。

この心に残る素敵な出会いは、オーストラリアの田舎町でのことでした。

石田:泊まったところで、男の人1人でやってる宿があって。
すごく親切にしてくれたり、暇だったら一緒にどこか行こうって誘ってくれたり。
その人の自由な感じと親切な感じが印象に残って、自分もそういうことができたらいいなって。

ゲストハウスへの憧れを抱きつつ、大阪の輸入業者に20年ほど勤務。

インドからの雑貨輸入などをしていたため、度々出張へ出かけることもありました。
そして2013年、両親の年齢が決め手となって、30年ぶりに宮津に戻ることになります。
度々帰省していたとはいえ、18歳の頃に別れたきりの両親。一緒に暮らせる最後のチャンスと考えたのです。

離れたからこそ気づいた地元の良さ

戻ってみてまず驚いたのは、子どもの頃とは大きく変わってしまった町並み。

学生:やっぱりかなり違いましたか?

石田:違うね。空き家が多くなって、昔あった家が駐車場になってるとか。
昔はすごくきれいな町並みもあったし、海に張り出すくらいの家もあったんですよ。
それが、国体かなんかで埋め立てた(※1)らしいんですけど。
※1…中心市街地の沿岸域にある浜町地区は、昭和63年の京都国体開催にあわせて埋立造成されたところ。
父の代の頃はその辺りにビーチがあって泳げたらしいけど。
宮津はいいところ全部潰してるなって思って。

自分が離れている間にここまでの変化があるとは思ってもみなかったという石田さん。
しかしそれと同時に、一度離れてみたからこそ分かる地元の良さにも気づくことができました。

石田:40過ぎくらいになって、宮津ってなかなかいいなと思い始めたんですね。
高校生くらいまでは出たくて仕方なかったし、どっちかと言えば嫌い。
なんもないしって。良さを全然わかってなかったんだよね。
歳とったら仕事ものんびりしてきたんで、帰ってきて地元を見たりしているうちになかなかいいなと思って。
海と山が近くて川もあって。まちもコンパクトで、すぐそこに市役所、郵便局、税務署がまとまってる。
その辺がいいなって思って。 そういうの、人それぞれにタイミングがあるんでしょうね。

つながりの強さを実感して

そんななか耳にしたのが、観光関連の仕事を起こす人に市から補助金が出るという情報。応募したところ見事採用され、空き家バンク制度を活用して物件も確保、手探りながらも準備を進めていきます。
しかしここでぶつかったのは、良い面でもあり居心地の悪い面とも言える地域の「しがらみ」という壁でした。

石田:今も、宮津のどこが好きかと言われると…良い点も悪い点もあると思う、私は。
地域のつながりが密なのは良いけど、色々としがらみが。
実家のある地区はまた別なんで、ここは大人になってから初めて住んだから。
町内会が厳しいとかそんなん全然知らなかったから、最初はね…

色々な地域での暮らしを経験してきた石田さん。その中でも大阪で過ごした時間は長く、気さくで気取らない雰囲気が心地良かったと振り返ります。
Uターンしてみて気がついたのは、たとえ同じ宮津であっても、地区が異なれば地域社会での関係性の築き方も違うということ。

石田:ゲストハウスやるって言ったら、すごく叩かれたこともありました。
でも、もう一度仕切り直しさせてくださいって言って、地域のみんなに来てもらって食べ物出して、説明したり質問受けたり。
こうして徐々に受け入れてもらったんで、2年目の今はずいぶん楽になりましたね。それまでは大変だったけど。
私もそのあたりのことをちゃんと考えてなかったというかな。

学生:ここは特に地域のつながりが強いんですか?

石田:強いですね、みなさん商売されている方が多いんで。
お互い協力しあう一方で、競争じゃないけど…そういうのがありますね。
特定のところだけ儲かっちゃったりしたら…。
でもその分、入り込んでしまえば安心だよね。私らの時代は、反抗期の息子とかいても、「あんたの息子さんあそこでビール飲んどったで」って連絡くるから(笑)。不良になりきれないからそのあたりはいいよね。
ここで子ども時代を過ごしたのは良かったと思うけど、30年も経ってぱっと戻ってきてぱっとゲストハウスを始めたんで、ちょっと大変やったな。やっぱりまだ新参者だから。

nagaya cafe桜山 羽田野さんとの出会い

そんな地域のつながりというテーマの中で、話題は「nagaya café桜山」(※2)の羽田野さんとの出会いに。

※2…ぜひ、nagaya cafe桜山の記事「自分を、まちをデザインする オール丹後のまちづくり」もご覧になってみてください。

※海猫ゲストハウスWebページ(http://uminekomiyazu.com/)より

学生:宮津単位でいえばUターンなのに、やっぱり新参者なんですか?

石田:うん。
宮津にお嫁さんに来た人は、「宮津病」っていう病にかかるんですって。特に都会から来た人にとっては閉鎖的に感じられるというかな。
あと、行くところがないんですよ。冬に雪が降ったら閉じ込められたような感覚になって、「みっぷる(※3)しか行くところなーい!」って。気が狂いそうになるかなぁ。私もそうなったんですよ。

※3…宮津駅から徒歩約10分のところにある、港に面したショッピングセンター。
日用品売り場のほか、各種専門店、100円ショップやレストランなどもある。

学生:やっぱり「みっぷる」行かれたんですか(笑)?

石田:そこしか行くとこないなってな。
普通よそから来た人がなるのに、宮津出身の人が「宮津病」になったの初めて見たって言われた(笑)。
そうそう、nagaya cafe桜山の羽田野さん、Iターンでしょ、逆に羽田野さんから宮津での暮らし方のアドバイスをしてもらったんですよ。
宮津に帰ってきてこの家を見に来た時、ゲストハウスをしたいんですって向かいのお茶屋さん(※4)の兄ちゃんに話しておったんです。

※4…海猫ゲストハウスの向かいにある「磯野開化堂」さんのこと。

石田:向かいのお兄ちゃん協力的で、それなら古い町家を再生している設計士さんおるから紹介してやるって。その足で羽田野さんとこに行って、色々始まりました。
コンパクトなまちだからすぐつながるのはすごいよね。すぐ会えちゃう。

こうして12月から事務手続きや工事の手配を始め、壁塗りに至ってはほとんど自力で行いました。
おもての部分を自己流で塗ってみたところめちゃくちゃになってしまい、結局羽田野さんに塗り直してもらった、なんていうエピソードも。

※海猫ゲストハウスWebページ(http://uminekomiyazu.com/)より

気楽に来てもらえるゲストハウスがやりたかった

そして2014年4月、念願のオープンへ。
最初は宣伝もほとんどせず、親戚や友人に来てもらってシミュレーションをするような感覚でスタートしました。
宣伝用に始めたTwitterもFacebookも、わけが分からず更新をやめてしまったそう。
私たちが試しに検索して確認した最後のつぶやきは、
「ココロが軽くなった」
…それならよかった!

さて、ここを始めてもうすぐで2年経ちますが、やはり色々な苦労はあるわけで…。
ここからのお話は石田さんの人柄がより色濃く出ていて、インタビューというよりも心地よい会話を楽しんでしまった私たち。
海猫ゲストハウスに来ると、なんで「ただいま」と言いたくなるのか、わかっていただけるのではないでしょうか。

学生:ここは自分の家に来てもらうような感覚なんですか?

石田:半分家のようで、半分は仕事っていうかな。気楽に来てもらえるようなのがやりたかったんだよね。
で、自分のできる範囲しか受け入れへん。
シーツ交換とか洗濯とか自分でやってるんですよ。毎日こんなことしたの初めてやからね、ええ運動にはなってるけどな。
特に夏とかこの歳だからきついんです、この夏暑かったしね。
せやから泊まれるのは1組だけ、とかにさせてもらったりしました。

大変なこともあるけれど

夏はお客さんの6割がAirbnb(※5)で予約してきた外国人観光客だったそうです。
彼らへの対応は、言葉の壁や文化の違いがあって大変そうですが…

※5…物件を宿泊施設として登録し、貸出できるWebサービス。

石田:対応は片言の英語でね。ちょっとは日本語喋る人もおるし、身振り手振りとかそんな感じ。
それから、習慣が違うのはあるよね。困りはしないけど「そうなんやー」みたいなのが。
夏に外でシャワー浴びとったり(笑)
でもそんなにびっくりしたことはない。

学生:えっ!周りの人何か言いませんでしたか?!

石田:素っ裸じゃなかったからね(笑)

学生:接客はお好きですか?

石田:お客さんと馬が合えば楽しい。この人はちゃうなって人もおるしな。
結構みんな良いお客さんが来てくれてるんで。
この人かなわんわっていう人は…1%…?

一同:いるんですね(笑)

石田:今この場にはいないですよ!(笑)
そういう人には出て行ってもらいましたから。女1人でやってるから、ガーッとすごい勢いで色々言われたこともありますよ。その辺気をつけろって友達からもアドバイス受けてる。

もちろん大変なこともあるけれど、長期滞在のお客さんとは、接する時間が長い分一緒にお祭りを見に行くなど様々な思い出もできたそうです。
ところで、生計って成り立ってるのだろうか…そろそろみんなが気になり始めた頃、ついにある学生が斬り込んだ!

学生:ゲストハウスだけで生計は立つんですか?

石田:立ちません。ほとんどニートですよ(笑)
家賃があって…。ランニングコストが最低なんぼかかかって、それが売り上げとちょうどプラマイゼロくらいで。今月はちょっと余裕があるな、なんて思ったらうまいことくるんですよ、年金溜めてたやつの請求とかね(笑)

学生:タイミングが悪いですね(笑)

「おばあさんバックパッカー」の夢

インタビューは盛り上がり、またまた旅行の話題に。思いがけず、石田さんの密かな野望(?)もお聞きできました。

石田:みなさんも旅行好きなんですか?

学生:好きなんです!1人でも放浪していますね。

石田:そうそう、ほんとに旅行できるうちにね。
歳いってからも色々なものは見られるけど、若い時に見たものって結構衝撃かなって。あとの人生をな、そういう瞬間をずっと思い続けて過ごしてな。

バックパッカーをやっていたときは、そんな風に印象に残るゲストハウスを将来やりたかったんですよ。

学生:そういえば、以前は色々なところ行かれたのに、今は全然旅行できないんじゃないですか?

石田:そうそう、それは思いますね。
帰るお客さんに「一緒に連れて行ってくれ〜」とか思う時もあるけど(笑)
私はまた将来、年金もらえるようになったらおばあさんバックパッカーになって、見たかったところとか行きたいなって思ってるけど。

学生:他に何かやりたいことってあるんですか?

石田:最終的には動物保護っていうか、犬とか猫とか好きなんで、人間にとって一番身近な動物を助けることができたらって思うけど。

ここで一同、初めてゲストハウス名の由来を知ることになります。
猫好きゆえに「猫」を冠することにしますが、妹さんから受けたアドバイスは、「実際に猫はいないんだから猫好きは残念がるし、猫嫌いな人は来てくれない」というもの。だったら海も好きだしここにはカモメもいるから、「海猫」にすれば良いではないか、そんな由来だったようです。

仕事にはしんどい時も楽しい時も

最後に、石田さんにとって働くということ、そしてこれからの展望をお聞きしてみました。

学生:この仕事は楽しいですか?

石田:うん、楽しい時と、しんどい時と。
ま、今は楽しいから続けられてるな。これからしんどいことの方が多くなったら寝込むかもしれんしなー。
しんどい時もあるな、仕事っていうのは。

学生:では、ゲストハウスの今後の展望はありますか?

石田:………………………ないな(笑)。

一同:爆笑

石田:「明日は明日の風が吹く」で。希望はあっても、長期的な目標とかは…(笑)

学生:やっぱり旅に出たいんですかね?

石田:自分がやるのはどっちかって言ったらハードの部分。ソフトの部分はお客さんが好きなようにつくっていってくれたらいいから。チェーン展開したいとかそんなんないしな(笑)。
気楽に来てくれるのが一番だね。できる範囲でやりたいように。それを気に入ってくれたお客さんがまた来てくれたら嬉しいな。

由美子さん、また絶対に遊びに行くので、旅に出るのはもうちょっと待ってもらえませんか?

編集後記

冒頭で書いた「第二のふるさと」について。個人的には、また会って、他愛もないことからちょっと壮大なことまで色々なお話しがしたい… そんな風に思える人との出会いが決め手なのではないかな、と思う日々です。
私にとって、由美子さんはまさにそんな存在。明確なビジョンに向かって積極的に行動する方のお話を聞くことも大好きだけれども、由美子さんのように肩の力を抜いて、自分なりの方法で人生を歩む方のお話もとっても興味深い。
地域社会は様々なプレーヤーがいてこそ成り立つ、そんなことを改めて実感したひとときでした。

■ 海猫ゲストハウスについて…
〒626-0015 京都府宮津市魚屋902
TEL:090-5897-2951
HP:http://uminekomiyazu.com/
Airbnb:https://www.airbnb.jp/rooms/6594283 (宿泊予約はこちらから)

アクセス…京丹後鉄道宮津駅より徒歩約10分
http://uminekomiyazu.com/Access.aspx

宿泊料 平日1名…3500円
    週末1名…4000円
チェックイン 15:00
チェックアウト 11:00

「海猫ゲストハウス」の学生レポート

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澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!
澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!