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人との出会いから生まれたワイン

Think globally,act locally.
「地球規模で考え、足元から行動せよ」
環境問題を語る上で欠かせない言葉ですが、どんな社会問題を考えるにしても、身近な暮らしのことに思いを巡らせるにしても、示唆に富むフレーズなのではないでしょうか。
今回お会いした「天橋立ワイン」グループ代表・山崎浩孝さんの生き方は、まさにこの言葉がよく当てはまります。

この宮津という地でゼロからワインづくりをスタートさせた「天橋立ワイン株式会社」。
自身の地元である宮津で、山崎さんが挑戦を続ける背景にはどのような思いがあるのでしょうか。
学生たちがインタビューしました。

味の9割は葡萄で決まる

最初に私達を出迎えてくださったのは、専務取締役の藤原邦彦さん。
藤原さんに案内していただいた醸造工場は2001年に完成。
その6年前からすでに工場裏手の畑にて葡萄づくりを始めています。

藤原:ワインは葡萄を絞って発酵させて、それを瓶に詰めるという混ぜ物のない非常にシンプルなお酒です。
それゆえに、味の9割は葡萄で決まると言っても過言ではありません。

25年ほど前から市内の3箇所でテストを始め、地道な取り組みを経て追求してきた葡萄づくり。
10箇所ほどの契約農家さんも、すべて周辺地域で生産されている方々です。

大小合わせて13基のタンクから、1年間に醸造されるワインはボトル約10万本分。
赤、白、ロゼの3種類でそれぞれ作り方は異なりますが、ぶどうを圧搾して果汁を絞り、発酵、熟成、瓶詰め、そして出荷というプロセスは共通しています。

その中でも興味深かったのが熟成について。

こちらの木の樽を使って寝かせておくと、ワインに木の香りがついて重みのある味わいになるとともに、色がきれいに出るのだそうです。

藤原:樽1本でワインボトル300本ほどの量が入るのですが、熟成中に揮発してどんどん量が減っていくんですね。その分を「天使の取り分」と言います。

熟成中のワインを天使がこっそりとっていってしまう。
なんとも素敵で微笑ましい表現ですが、その期間は長くても2年ほど。
何十年もののワインと耳にすると樽が長年保管されている光景をイメージしがちですが、実は瓶内熟成がメインなんですね。

変革を求め続けて

次に案内していただいたのが工場裏手にある葡萄畑です。
3ヘクタールほどの広さがあるという畑を歩いていると、畝の間に貝殻が敷き詰められているのが目に入りました。
実はこれ、行政が海の環境保全のために、若狭湾に堆積した牡蠣殻を撤去し、それを受け入れたワイナリーが畑作りに活用するという取り組み。

藤原:葡萄は水分を非常に嫌います。
この牡蠣殻を畑にまくと、ミネラル分・カルシウム分を供給できるのと、水はけをよくする効果もあるんです。
まだまだ始めたばかりなので効果はこれから検証していきますが、ここの海の環境を整えながら資源を最大限活用するというオリジナルの取り組みです。
ワインづくりをゼロから始めてまだ20年ほど。これからどんどん変革していく必要がある、まだそういう状態ですね。

奥の方へ進んでいくと、なんと代表の山崎さんが畑の中に。
自ら現場に赴いて畑づくりにも携わる山崎さんは、作業服がとてもお似合いでした。
知れば知るほど興味深い、人との出会いが紡いだ物語が始まります。

山崎浩孝さん

1960年、宮津市に生まれ、高校時代までを市内で過ごす。
高校卒業後、国内外の各地を1人で巡り、大阪市内の大学を卒業。北海道ワイン株式会社にて10年間のキャリアを積み、1995年にUターン。
妻の実家である老舗旅館、「千歳」の経営やワインの輸入・卸など多角的な経営に取り組む天橋立ワイングループの代表を務める。

学生:こちらのワイナリーのことを調べていたときに、学生時代の放浪が山崎さんの今につながっているという情報を目にしました。
アメリカの赤ワインに影響を受けたことが、最終的にワイナリーづくりに発展するまでにはどんなことがあったのですか。

山崎:18歳まで宮津で過ごしましたが、大学受験の時に1ヶ月半ほど実家を離れていたんです。
何をしていたかというと、最後半分は試験受けずにずっと九州とかを回って。
帰ってきたら、親父が「お前どこ行ってた」って。

案の定受けた試験もすべて不合格、大阪市内の予備校に通うこととなります。

山崎:予備校に行ったら1週間くらいで「僕には合わないな」って思って。
すぐに親父に電話をかけて、予備校の授業料、家賃含めて1年間の費用がいくらかかるのか聞きました。
それで、「来年必ず受かるからそのお金先にちょうだい」って言って、アメリカに飛んだんです。

まさに若者ならではの勢いで渡米。
東京にもまだ行ったことのなかった1人の青年は、アメリカのアバウトながらもスケールの大きな考え方に強い影響を受けます。
高校時代は友達に答案を書いてもらっていたという英語も、現地でのコミュニケーションの中で自然と身に付いていきました。

そして、約束通り入試に合格、大阪体育大学に進学します。

山崎:大学を卒業したら、今度はヨーロッパの方に留学しようと思っていたんです。
教授推薦が必要だから成績の要件をクリアしながら、卒業するまでに300万貯めたのね。
貯金のために夜の商売もやって、危ない橋をたくさん渡りました。

そんな中、再びアメリカへ。
山崎さんの言葉を借りると、過去がない国・アメリカは勝つための戦略を未来に見出す。
宇宙開発、軍事、経済、科学…。
これまで、ヨーロッパでは「匠の技」として言い伝えられてきたワインの発酵過程も、アメリカでは科学的分析を経て研究されてきました。
サンフランシスコで夕日が沈む方向を眺め、「あっちが日本だな」と思いを巡らせながら飲んだのが「ジェイブリュット ロゼ」というワインでした。
その味わいはひときわ心に残るものだったのかもしれませんね。

誰と出会い、どう判断し行動するか

海外経験を通じて視野が大きく広がった山崎さんに、人生の転機となる出会いが訪れます。
その人は、宮津から大阪まで通っていた、京都大学生物学の名誉教授でした。

山崎:授業終わった後に僕も宮津からですって言ったら、すぐ近くに住んでいることがわかって。
ご飯食べにおいでって言われて、色々なことを話しているうちに、自分のやりたいことで再度留学したいという思いを話しました。
そうしたら、「日本はこれから経済成長していくから、山崎君は先にビジネスの方に行った方がいいんじゃないか」って言われたので。
学問は今の僕のような歳になってからでも遅くないから、その時がきたらやったらどうだって。
体育大生って大体単純なんで、ここ掘れって言われたら掘るし、埋めろって言われたら埋めるし(笑)。
そしたら先にビジネスの方に行こうかなって思って。
要はね、人との出会いなんですよ。誰と出会うか。
そこで自分がどう判断し、どう行動を起こすかだけなんです。

卒業後、高校時代からお付き合いしていた彼女と結婚、老舗旅館の婿養子に。
そしてこのタイミングで決定的な転機が訪れます。

北海道ワイン・嶌村社長との出会い

学生:ワイン好きがビジネスに転じたのも、先生の言葉があったからですか?

山崎:さぁ何をしようかなって思ったら、その時はワインっていうのは未知の飲み物だったんですね。

フランス料理っておしゃれで緊張して食べるものっていうイメージがあって、ワインって何だろうって疑問に思って。
それなら作るところから勉強したいなって思って。

ワイナリーレストランの風景

ワインについて情報収集を重ねるうち、北海道ワイン株式会社の嶌村社長(当時) に行き当たります。
思い立ったがすぐ行動、新婚の奥さんを置いて1人北海道へ。

山崎:本物作っているのなら見せてくださいって直談判したら、「俺について来い」って。
その時、嶌村社長は前にやっていた会社が成長倒産して、復活戦でワイン造りを始めていた。今日の私みたいに畑に入っていた時に出会ったのかな。
彼のカバン持ちを10年務めて、「山崎来い」って言われて全国を回りました。
社長の前に小さなデスクがあって座って。
「社長、何したら良いですか」って言ったら、お前はもう自分で考えてやれって言われて。

ここまでの行動は全てワインをつくるためかと思いきや、実はそれよりも嶌村社長の「人」に関心があったという山崎さん。

山崎:もちろんワインに興味はあったけどね。
本当は地元でワインやるつもりなかったんだけど。

学生:嶌村社長に出会ったのはなぜですか?

山崎:面白い本探すのと同じで、後ろ見たら文献載ってるでしょ。
ある人と出会って、話をして、ここが面白いよって言ってもらえたり。
だんだんそうなっていくと、面白い人のトップが出てくるので、ワインづくりをしたいと思ったら、まずはそういう情報を片っ端から見ていけば良い。
それから、やる気のある人、前向きな人に会ったら、自分の答えも必ず前向きになる。

やっぱりここが好き

北海道で10年間の経験を積み、大農場の責任者なども経験した山崎さん。
その間、宮津にも会社を起こし、遠隔から経営を行っていました。

それは、かねてより地元に帰るのが「使命」だと考えていたからです。

学生:宮津に戻るっていうのは決めていたんですね。

山崎:戻るために何をどうするかっていう考え方だったかな。
ここが好きなので。友達もたくさんいるし。
ここって面白い地域なんですよ。学生の頃は夜中に自転車で何十キロも走って地元の良いところたくさん見て。
大人も飲んで楽しめるし、子どもに対しても大きめに見つつきっちりガードしているようなところなんで。
やっぱり好きだった。ここが好きだから、一番。

実はここ、ぶどうの栽培地に適しているとは言い難い。試行錯誤の時期を乗り越えるまでに苦労もあったし、周囲の理解を得るにも努力を必要としました。
それでも、山崎さんが宮津にこだわり続けるのには理由があります。

山崎:好きだっていうのはもちろんあるんですけど、ここは世界と比べても勝てるって思ったんです。アメリカって、160kmを1時間で通勤するんですよ。ここから直線距離だと名古屋までいっちゃうくらい。まぁ、車の速度が関係していますけど、あっちでは時間軸で物事を考えるから。
最初にここに地盤を築いたら、小さくても永久的に固められるし、都会から需要があればデパートにでも入っていける。逆はなかなかできないでしょ。
ここには日本一の観光地になる要素がある。そのチャンスがやってきているので、迷わずそこに集中していきたい。

そのチャンスというのが、ワイナリーのほど近くにある「京都府立丹後郷土資料館」の大幅リニューアル計画。より地域の歴史や魅力に親しめる施設に、と大きな期待を寄せています。

山崎:ここには文化的素養がたくさんあるでしょう。
神社は2000年以上の歴史があって、日本昔話もこの辺りのストーリーがたくさんある。
それから食はすごいよね。カニ、魚、牛、野菜も作れるしお米もおいしいでしょ。
パーツはあるから、それをどう組み立てるかってことだけだから。
このワイナリーもその1つだから、他の要素と同じ方向を見て、力を集中していければいいのかな。
こんなに恵まれたところはないです。

「好き」が仕事に

地元産の食材をふんだんにつかった料理とワインが楽しめるバイキング

幅広い視野を持ちながら、自分の足元にしっかりとした地盤を築く。
今も度々海外に赴き様々な情報収集は欠かさず、さらに8つもの関連施設や4つの法人経営に携わる日々。
さぞかしご多忙なのでは…?
山崎さんにとって、「働くこと」とは何を意味するのでしょうか。

山崎:本だって、好きなものだったらどんどん読んでいけちゃうでしょ。
好きだから。
三度の飯より本当に好き。
それが自分の仕事になったら一番楽しいでしょ。僕の場合はなってるから。
ワインをこうやってつくるのも楽しいし、売るのも楽しいし、人と出会うのも楽しいし、24時間寝なくても遊べるじゃん。
なんの苦痛もない。

学生:それはとても素敵なことですね!

山崎:それから、休みの日、空いた時間に何をするのかが成長の一番の決め手なんです。
ルーティンワークって会社でも学校でもある程度決まっているでしょ。
それ以外の時間、ぼーっとするのか、何かを追っかけてエネルギーを蓄えて、またスタートするのかでは、雲泥の差なんですね。

答えは1つじゃない

最後に、私たちへのアドバイスをいただきました。

山崎:僕は迷わず、21世紀は哲学と道徳を必要とする社会になるって思ったんですよね。
会社経営でも、哲学と道徳心がないとだめなんです。
道徳っていうのは、正しいのか正しくないのかを判断すること。
会社の中でも妥協しなくてはいけないことはたくさんあるんだけれど、迷った時には厳しい答えと正しい答えを自分で選んでいく。
そして、自分の生き方に哲学が必要なんです。
哲学は、理屈抜きに、自分が情熱を持ってやりたいと思えること。

常にぶれることなく未来のために行動してきた山崎さんならではの言葉。
でも、自分たちはそんな生き方できるかな…学生のみんなはちょっと不安そう。

すると、出身中学で講演をした時に後輩たちに語ったという言葉を送ってくださいました。

山崎:若い世代にはぜひ世界を見て欲しい。そうすれば発想力も生まれる。
それから、答えは1つじゃないから。
普段はあまり外で人に話をしないんだけど、何十年ぶりに出身中学に行って話したことはこれ。
日本人は自分で答えを作るのは不得意ですよね。
答えには、両極端があって、真ん中があって、その中間もあって。いつも5つくらい答えを用意しておけば、自分が楽になるし選択肢が広がる。
迷ったら、厳しい答えか、正しい方向か、社会に還元できるかを考えれば良い。それが哲学です。

編集後記

この記事の中では伝えきれないくらい、山崎さんの言葉の1つ1つは深く、重い。
新しいチャレンジをすることは、それだけ大きな苦労を伴うということ。
周囲の理解を得ることもなかなか難しいでしょう。山崎さんも、試行錯誤を繰り返してきました。しかし、天橋立ワイナリーのワインは今や宮津を語る上で欠かせないもの、まちづくりの重要なパーツの1つです。
その背景には、山崎さん自身が、グローバルな視点を持ちながらも、足元にあるローカルなものを決して見失わなかったことがあるのではないでしょうか。
出会ってきた人々と地元へのリスペクトがあったからこそ、今がある。私にはそう感じられました。
今日も山崎さんは3度の飯よりも何よりも大好きなことに取り組み続けています。

【天橋立ワイン】
今回訪れたのは…

◯天橋立ワイナリー(ワイン醸造・販売)
◯葡萄畑のマルシェ&レストラン(バイキング・地野菜販売)

〒629-2234
京都府宮津市国分123
TEL…0772-27-2222
FAX…0772-27-2223

アクセス…丹後海陸交通の路線バス(伊根線、蒲入線、経ヶ岬線)「天橋立ワイナリー前」下車

営業時間…10:00〜17:00
定休日…水曜日
HP…http://www.amanohashidate.org/wein/

「天橋立ワイナリー」の学生レポート

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澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!
澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!