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自分を、まちをデザインする。「オール丹後」のまちづくり

みなさんにとって、「懐かしい風景」とはどのようなものですか?
自分が生まれ育ったふるさとはもちろん、ふるさとじゃないところの風景がなんとなく浮かんでくるかもしれません。
田畑や山林、茅葺屋根の集落、田舎の土手道…日本人の心には自然に埋め込まれているかもしれないもの。
今回お邪魔した「桜山長屋」も、そんな懐かしさをくすぐる風景の1つではないでしょうか。

空き家がぼろぼろになって放置されていくのはもったいない、そんな思いから立ち上がった「宮津町家再生ネットワーク」。
18年前に移住して以来、宮津や丹後の持つ力に魅了されてきたという代表の羽田野まどかさんに、学生たちがインタビューしました。

羽田野 まどかさん
東京都葛飾区出身。
大学中退後、北海道十勝の建築設計事務所に入所。
1998年、京都府立「丹後海と星の見える丘公園」再設計の仕事がきっかけで宮津市内に移住し、以来、京丹後の多くの人を巻き込みながらまちづくりと空き家の再生に携わる。
2012年、任意団体・宮津町家再生ネットワークを立ち上げ、翌2013年よりnagaya cafe桜山をオープン、活動を開始。2015年12月株式会社となる。

羽田野さんたちの拠点は、築100年を超える町家をリノベーションした「桜山長屋」。
横長に連なった6軒の町家の1軒目が、今回お邪魔した「nagaya cafe桜山」です。

もともと東京生まれ・東京育ちの羽田野さん。
当初は仕事が終わったら帰るつもりだったため、まさかここまで地域にどっぷり浸かることになるとは思ってもみなかったといいます。
そんな彼女が仲間とともにまちづくりに取り組んだ背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

丹後の作り手が集う場を

羽田野さん(以下敬称略):宮津の市街地って、端から端まで約2kmしかないんです。
そのコンパクトで歩ける範囲に、バラエティに富んだいろいろな時代の街並みが残っていて。
でも、市街地って空き家が放置されがちで、雪で屋根が落ちそうになっていても、持ち主が分からなくて誰も触れない状態になっていることがある。
せっかく面白いまちなのにもったいないねっていう話を建築関係の仲間としていたんです。

そんな中でこの桜山長屋と出会い、当初は共同の設計事務所を構えようと考えていました。
しかし、結果的には様々な場所から人が集い、語り合い、思いを形にするカフェに。

羽田野:単なる事務所を構えただけでは、みんながプレーヤーになれないと思ったんです。
府立公園の仕事に関わったおかげで、丹後のいろいろな人や資源に出会うことができた。
これを仕事や暮らしの中に生かしていくために、宮津だけではなくて、丹後のいろいろな作り手さんが集まる出会いの場をまちなかに作りたい、そう思い始めました。
周りに声をかけてみたら、ギャラリーのオーナーや古道具屋さん、家事と介護サービスの女性グループ、カフェ開業希望の方などなど、女性ばかり。
食べ物が絡むと出会いの場として絶対強いよね、という話になってカフェを始めました。

宮津に生まれた2つのゲストハウス

カフェがオープンすると、まちなかの家主さんや、この場所を使って何かをしたいという人たちが集まるようになり、行動を起こしました。
その代表例が、今回の「宮津ローカルインターン」でも伺った2つのゲストハウス、「海猫ゲストハウス」と「ハチハウス」です。

羽田野:まず、海猫さん(※1)の石田さんがここでゲストハウスをやりたいって相談に来て。私がアドバイスしながら、左官と塗装はだいたい石田さんが自力でやりました。
今までは、舞鶴や京丹後とか、いろいろなところから宮津に人が集まっても車で帰らなくてはならないからお酒が飲めなかったんですね。
でも、海猫さんができたことによって泊まれる場所ができて、地域を超えた人のつながりができたんです。

※1ぜひ、「海猫ゲストハウス」の記事もご覧になってみてください。

そして次々に嬉しい化学反応が起こっていきます。

羽田野:振り返ると、これがハチハウスの布石にもなっていると思います。
ハチハウスはもともと建物の老朽化が激しくて、柱もグラグラ状態(※2)。
それでも予算があまりないということだったので、できる限り自力で工事することになりました。
それがびっくりするくらいの機動力で、週末毎に人を集めて、1回やってしまった工程は後から参加した人にどんどん教えていって。
現場で指導していた私たちにとっても、面白い現場でしたね。
オーナーの寺尾さんが新聞とかメディアにちょっと出たら、スーパーのレジに並んでいる時に声かけられて、「見たよ!私も何かやることある?」って聞かれたんだって。

※2「ハチハウス」はオーナーの寺尾菜々さんの実家をリノベーションしたゲストハウス。
ぜひ、こちらの記事「ゲストハウス×地域 ハチハウス」もご覧になってみてください。

学生:本当に色々な方が参加したんですね!

羽田野:もともとここは地域のコミュニティがものすごく強いところなんですよ。
ハチハウスのリノベーションでも、近所の人もそうだし、接点のなかった人も声をかけてくれて。
最初は10人くらいから始まってだんだん色々な人が来るようになって、「なんかよくわからんけど」って向かいのおじいちゃんが差し入れ持ってきてくれたり。
みんな楽しみにしていてくれたみたいです。

足りないものは補い合う

2015年5月、みんなの思いがつまったハチハウスがオープン。
たくさんの人の応援を受けたオーナーの寺尾さんは、今度は自分が恩返ししたいと話しているといいます。
また1つ、思いを持った人が出会う場が生まれた宮津。羽田野さんは、「違う路線」に挑戦し始めているそうです。

羽田野:寺尾さんは、ジャンル問わず何かをやりたいっていう人を応援したいって。
うちももともとそういうスタンスだったので、ハチハウスさんがやってくれるんだったら、また違う路線でいこうかなと。

学生:違う路線というと?

羽田野:最近多いのは起業の相談です。
家の倉庫を活用できないか、すでに事業をやっているんだけど次の手をどうしよう…丹後全体からそういった相談にいらっしゃる方が増えてきました。
そこで、「町家ラボ」と名付けて、ここで起業の勉強会を開いたり、事業をやっている人にノウハウを教えてもらったり。
大きなビジネスはうちではできないですけど、地域に足りない事業をビジネスとして興すには何ができるのかというところから一緒に考えています。
宮津だけじゃなくて、京丹後市でもそんな動きが出てきていて、おもしろくなりそうな雰囲気ですよ。

学生:丹後全体でそういう雰囲気が出てきているんですか?

羽田野:かなり出てきています。
今までもみなさん色々な活動をされていたけど、それが見えていなかっただけだと思うんです。
それが2013年に「京都ちーびず」事業が始まったことで、まちづくりを仕事にしようとしている人を応援する機運が高まってきました。

※3「京都ちーびず」とは、京都地域力ビジネスの愛称。

自分たちで仕事や雇用を生み出しながら、地域の課題を解決し、自分たちの手で継続的なまちづくりをする取り組みで、宮津空き家再生ネットワークもこの事業の委託を受けて様々な活動を行っている。
(「京都ちーびず」HPより)

羽田野さんたちが取り組んだちーびず事業のひとつに、「空き家のものさし」というカフェイベントがあります。
空き家を買ったけれどもどうやって活用しよう…そんな京丹後在住の20代男性からの相談がきっかけで、まちの活気づくりの方法をゲストスピーカーとともに探っていきました。

羽田野:人それぞれに課題はあるけれども、足りないものは補って応援しあえる関係づくりを進めていくうちに、丹後には仲間がいっぱいいるっていうのが見えてきて。
ずっと単独で頑張るんじゃなくて、うちに来た人同士でプロジェクトを立ち上げてそれが自走するように応援する。うちも困った時には助けてもらう。
そうする中で仕事の幅も広がっていきました。

ふるさとに帰って来たくなる場づくりを


さらに、最近ではIターン(※4)、Uターン(※5)を希望する人や、その親たちからの相談も多くなってきました。

東京や大阪で開かれる移住をテーマにしたイベントにゲストスピーカーとして呼ばれることも。
そんな中で、地域の場づくりへの思いはますます強まっています。

※4…地縁や血縁のない地域に移住すること。
※5…出身地に帰って暮らすこと。

カフェに並べられたぐい呑みの数々。夜はBARに変身することもあります。

羽田野:若い人たちがくすぶっているのをよく見ます。
親世代は、都会に出て行った子どもに対して、「帰ってこなくていい、丹後には仕事はない」って言ってしまうんですね。
そう言うのをやめようよって思うんです。
でも、ただ単にやめようって言っても、お互いに気分を悪くするだけ。
だったら、帰って来たくなるような場づくりをしたらいいんじゃないか、そうすればみんなの気持ちもちょっと変わってくるかなと。
最近は大学卒業後にすぐにこっちに帰ってくるパターンや「孫ターン」(※6)も耳にするようになりましたね。

※6…祖父母の出身地に移住すること。

まちづくりの今までとこれから

これまでの取り組みを淡々とした印象で語る羽田野さん。

でも、地域を超えて人と人をつなぐのって相当なパワーが必要だし、苦労もたくさんあったはず。
まちづくり活動を続けることにはどんな思いがあるのでしょうか?

学生:羽田野さんにとって、何がまちづくりの原動力になっているんですか。

羽田野:単純に、すごく資源が豊富なのに「もったいない」って思ったんです。
丹後半島って狭いのにこんなに面白くて多様な生活文化があって、それぞれのまちが全然違う。
ただ旅をするだけでもすごく面白いところ。

活動の背景には、丹後の資源への思いはもちろんのこと、ずっと抱いてきたまちづくりへの問題意識もありました。

羽田野:なんとなく、公共事業の限界を感じてしまったというのもありますね。
本来は、まちもむらも住んでいる人がつくるもの。
でもどこからか住んでいる人も行政もコンサルも、お互いが依存するようになっちゃった。
長い間、すごく悪いループが続いてきたと思うんです。
その流れを変えるには、自分たちからコトを起こさないと。
でも個人レベルではとてもじゃないけど変えることはできないので、1つモデルを作れば連鎖反応でいろいろなことが起きるでしょって。
それを見せたかったんです。ここに至るまでにはだいぶ時間がかかりましたけどね。

ここまでお話を聞いていると、nagaya cafe桜山には自然とパワーを引き寄せ、それぞれの想いを引き出す力があるようです。
実はハチハウスの寺尾さんも最初は普通のお客さん。カフェに通う中で徐々に自身が実現したいことをお話しされるようになったんだとか。
カフェという気軽な場がワンクッションあるからこそ、思いの実現に踏み切れるのかもしれませんね。

学生:ここに集まってくる方はみんな想いを持っていますよね。
何より自分たちの地域の魅力に気づいていてすごいなぁって思いました。

羽田野:まずそれがないとね。
もともと私も外の人だし、ここに来たのもコンサル系の仕事がきっかけだったので、まちづくりと言っても地域の人と同じ立場にはいない。
どんなに地域の人と仲良くなっても、仕事上では行政と住民の間にいる人なんですよね。
今までは間に挟まれて上から下ろしていく、そんな仕事のやり方だったけれども、みんな長い間そうじゃないはずって疑問に思ってきた。
それは丹後にもあてはまって、だんだんと流れも変わってきたように思います。
本来は公共の仕事であっても、地域の人と一緒にやっていくのが基本だし、これからはそうなっていくはずです。

オール丹後で全てのデザインができるまちに

長年地方のまちづくりの現場に携わってきた羽田野さん。これまでの地方は「外貨を稼ごう」とするあまり、地域の資源が安く消費される側に回ってきたことに疑問を抱いていました。
観光や産業作りはまちづくりの手段の1つでしかない。
足りないものを遠いところから求めるのではなく、大事なのはなるべく近いところで経済を回していくこと。そう考えるようになります。
一方で、今の若い人たちの世代には、身近にあるものをきちんと見直すとともに、丁寧に作られたものに価値を見出す傾向が見られると言います。
そんな今、羽田野さんが考えるまちづくりとは?

学生:「地方創生」と言われていますが、まちづくりで一番大事なことはなんですか?

羽田野: なりたい自分やまちの姿を描けるようになるっていうのが一番大事な一歩ですね。
楽しいまちにしていくためには、自分がどうなりたいかっていう意思をきちんと持っている人がここに住んでいないと。
そして、みんな意外とビジョンを持ってはいるんだよね。
で、周りに想いを実現している人が出てくるとそわそわしてきちゃって、実は若い頃こういうことをやってたんだよねって語り出すおっちゃんが出てきたり。
難しそうに思うけど、もともと自分がやりたかったことって何だっけ、自分はどう生きたかったんだっけっていうのをちゃんと持つこと、これがまず大事かなと思います。
「オール丹後で全てのデザインができるまちになる」、これにつきます。

学生:やっぱりここでのお仕事は楽しいですか?

羽田野:楽しいです、体が足りない。
プロジェクトがどんどん増えていくから、早いところプレーヤーを作っていかないと。

やることはいっぱいだけどわくわくして仕方ない、そんな風に微笑む羽田野さんに、これからの展望をお話ししていただきました。

羽田野:自分でデザインできれば、何でもできますよね。
人生を描くことも、まちを描くこともデザイン。
自分に足りないものがあれば周りから助けてもらえばいいし、丹後にもなければ外の力を借りれば良い。
足りないものを調整していくのが私たちの仕事かな。それを「デザインの町医者」って呼んでいます。
これが実現できたらまた別の楽しいことをやろうと思います。
でもそれはだいぶ先だろうな。

これから先、丹後にはどんな化学反応が起こっていくのでしょうか。
「オール丹後」のまちづくりはまだまだ始まったばかりです。

編集後記


お邪魔したこの日、カフェは改修工事中で、ご近所さんがお手伝いにいらしていました。
作業服が似合っているのでてっきり職人さんなのかと思いきや、本業は全く別物だというからびっくり。
まさに丹後の「作り手」が集う場所だなぁと思いながら、これからの丹後に思いを馳せます。
地域の資源が継承されるとともに、地域を超えたネットワークで自分たちの足元をデザインしていく。そんな懐かしくて新しいまちづくりの希望がこの丹後では生まれてきています。

また宮津に行って、羽田野さんともっともっとまちづくりのお話がしたいです。
この日は休業中だったカフェのメニューも食べてみたいしね。

【nagaya cafe桜山】
〒626-0008 京都府宮津市万年1番地
TEL:0772-21-1047
HP:http://miyazu-machiya.net/

営業時間 11:30〜17:00(ランチ11:30〜14:00)
夜間営業 18:30〜22:30(金土曜日のみ、平日・日曜日は要予約)
定休日 木曜日
※3月中はスタッフ研修期間につき、ご予約のみの営業となります。
 4月以降、営業時間等が変わる可能性がありますので、お問い合わせください。

「nagaya cafe桜山」の学生レポート

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澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!
澤千絵

澤千絵

まち冒険プロジェクトスタッフ / Bono Inc. 新人ライター

東京都三鷹市生まれ。中学生の頃に地元町内会の新聞記者を始めたことから、地域づくりに関心をもつ。大学では主に地域社会学・都市社会学を学び、地方移住(UIJターン)の調査や地方でのフィールドワーク、質的調査(インタビューなど)を行ってきた。趣味は大好きな青森について探求すること、楽器演奏、大学時代の研究の続き。みなさん、いろいろ教えてください!