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京都の奥、宮津で見つけた介護問題の解決策

ハチハウスでは面白い話を聞けた、と思っていたけれど何が面白かったのかは、なかなかわかりませんでした。

宮津から帰ってもんもんと「なぜだろう?」と考えていた時にふと思ったのは、ハチハウスは実はUIターンをする人にとってお手本のような生き方だったからではないかと思いました。

・ディープナイトツアー
・ハチ寄席
・エイトノットプロジェクト

これらはハチハウスで行われてきたイベントです。取材を通じて聞いたこの3つのイベントの意義を考えてみると、新しい土地で生きるための知恵が詰まっているような気がしました。

ただのゲストハウスではない、宮津のまちに生まれたハチハウスの「すごさ」を紹介します。

インタビューに答えてくれたのはオーナーの寺尾 菜々さん(写真中央)
地元の高校を卒業後、寿司屋で接客業を13年間続けた後、母親の看病のために実家のバイク屋に帰る。実家のガレージをリノベーションしたゲストハウス「ハチハウス」を2015年5月にオープン。現在は実家のバイク屋、家事、ゲストハウスのオーナと三足のわらじを履くアクティブな日々を送っています。

ディープナイトツアーで、天橋立以外の魅力を発見する

ハチハウスは宮津駅から徒歩15分ほどのところにあります。国道178号線に出ればすんなりたどり着くことができますが、どちらかというと駅から真っすぐ歩いてジグザグに歩く方が古い町並みを楽しむことができるのでおすすめ。

マンガあり、テレビありのアットホームなリビングでコタツに入りながら、まずは寺尾さんがハチハウスを始めた理由を学生が聞いてみました。

「なぜゲストハウスを始めようと思ったんですか?」

寺尾さん:実家のバイク屋のガレージの雨漏りがすごくて、床も抜け、屋根も落ちてきたので修理せねばと思うとったんです。しかしただの物置にお金を出すのはもったいない。

あとは、バイクでツーリングに行った時にようゲストハウスに泊まっていたのも影響があるかもしれません。そういう時におすすめしてもらうお店にハズレがない。

宮津には、まだそういうゲストハウスがあんまりなかったんよ。だからゲストハウスをしようと思ったんも理由と思います。

2015年5月にオープンしてからまだ半年ほどしか経っていないハチハウス。しかしそこにはすでに多くの人が訪れています。

寺尾さん:半年くらいかけて地域のおじいちゃんとか子供、家族連れにともだちとその彼氏とか。最初は集まらんと思うてたけど沢山の人に手伝ってもらって作りました。

壁塗りも全部自分たちでやって、小学生も
「ここは僕がやったんや!」
って自慢できるくらいみんな塗った場所が違うんです。それにサーッと塗る人、チョッチョッチョと塗る人、どっぷり塗る人ってみんな個性が出るから面白い。

今はもうほとんど手を入れるところがなくなってしもうて、逆にさみしい笑

ハチハウスの壁はよく見てみるとコテの跡が見える。普通はまっ平らにするものだけど、この不完全さが愛着に繋がっているんだろう。

地域の人と一緒に作り上げていったハチハウス。昨年の忘年会では60人以上が遊びに来て、ギュウギュウになって大変だったそうだ。

その一方で、ゲストハウスを始めることで見えてきた課題もありました。

寺尾さん:恥ずかしい話、宮津のことを全然知らなかったんです。
「天橋立はもう行ったので他にどこかオススメの場所ありませんか?」
と聞かれても答えられなかったんです。

年間280万人の観光客が足を運ぶ宮津市。日本三景の一つ天橋立があるので、それだけ有名な観光名所があればなかなかそこ以外に想いを馳せることはないのかもしれません。

だったら、と普通にどんなお店があるのか一つひとつ足を運んでみるのもいいでしょうが寺尾さんは違うことをしました。それは「まちを知ること」をイベント化することです。

寺尾さん:ある時、地区の打ち上げで宮津駅の近くの「ロベリア」ってスナックに連れて行かれたんです。私、一ミリもお酒飲めないのに、そこがたまらん楽しゅうて。

窓には古いカーテン、造花が飾ってあって埃かぶったような照明が置いてあって、椅子はベロアの生地なの。で、そこのママが、しげのママって言うんやけど、もう70歳超えてるのにスリット深めのチャイナドレス着てたりして「おー!すげーなこれ!」って。

ただ感動するのと同時に、
「ここを潰してなるものか!」
と思って始めたのがディープナイトツアー。

※Facebookより

ディープナイトツアーとは、ハチハウスのイベントの一つ。お酒の飲めない寺尾さんがロベリアのようなスナックを潰さないために、お酒が好きな人を呼んで集めて一晩で3,4軒のスナックをハシゴするイベント。もちろんアポ無しで突撃。寺尾さんの表現を借りれば「宮津に金の雨を降らす」だそうだ。

ただこのイベントはそれだけにとどまりません。ディープナイトツアーを通じて寺尾さんも宮津のまちにはどんな飲み屋さんがあるのかを知ることができるイベントなのです。

そして寺尾さんがすごいのは、イベントだけで終わらずに飲みに行ったスナックにハチハウスの案内を置かせてもらうこと。逆にハチハウスに泊まった人にはこうしたスナックをおすすめする、というようにイベント後の交流もしっかりと続けているところです。

IターンでもUターンでも、まずはそのまちについて知ることが大切です。と同時に、その関係を継続することも大切です。ディープナイトツアーにはそんな知恵が詰まっているのではないでしょうか。

「笑い」を通じてまちに溶け込む

※Facebookより

落語が好きな寺尾さん。しかし、ただ落語が好きなのと、実際に寄席をしてしまうのでは全く別の次元のはず。

学生:なぜハチハウスで寄席をしたいと思ったのでしょうか。

寺尾さん:落語とか大衆演劇って昔の人は家で間借りしてやったりとかしてて、もっと身近なものやったん思うんや。その時代みたいに、身近にお笑いを生で聞けるってのは大切やなって思うてて。

あとは近所の子どもらとか、おじいちゃんおばあちゃんが来たくなるようなイベントもしたいなとはずっと思っとって。地元の人が利用できるイベントをやりたいと思ったら落語にたどり着いたんです。

落語家の人を呼んで寄席をする、と聞くととてもハードルが高いように思えますが、特に若手の落語家の方は創作落語をやってみる機会や、自分の腕試しをできる拠点を探していたりする場合が多いらしく、実はそんなに難しいくはないそうです。

落語家は新作を試したり腕試しをするチャンスを、ハチハウスは寄席をして地域の人を呼ぶチャンスを。そんな関係の中で生まれたのが「ハチ寄席」。地元でも人気のイベントで、第1回と2回はそれぞれ大入り満員の40人ほどが参加しました。

まちの人が「ハチハウスいいよ」と言ってくれるような場所にしたい

地域の人を呼びこむハチ寄席。地域の人の間に飛び込むディープナイトツアー。

どちらも地元の人を巻き込むことをかなり意識したイベントです。確かにゲストハウスが地元との繋がりを持っていることは大切ですが、それにしては少し地元を重視しすぎているようにも思えます。

学生:ハチハウスに訪日外国人や、県外の人をもっと呼ぼうとは思わないんですか?

寺尾さん:少し前の話をすると、宮津って私たちよりも上の世代はお互いにお客さんを取り合うまちだったんです。うちのバイク屋も30年前に始めた時は色んな噂を流されたりしました。

でもそれじゃダメだなって思うて。自分はお客さんを取り合うんじゃなくて、ご飯はあそこで食べてもらうて、お土産物はあっちで買うてもろうて、まち全体でお金が回るような場所にしたいと思うたんです。

そのためには自分がまず宮津を知らないかん。たとえば
「ロベリアのママ、最近足のスリット閉じたらしいで!」「今さら!?」
という話をできるようにね。この方が絶対行ってみたくなる。だからディープナイトツアーをしています。

でも逆にハチハウスもまちの人から
「今夜泊まる場所決まってないならハチハウス行ってみなよ」
と言われるような場所にもしていかなくちゃいけない。

そもそも地元の人が誰も知らない、何をしているのかも知られていないゲストハウスなんておかしい。

だから外の人を沢山呼ぶよりもまずは地域に溶け込むゲストハウスになることのほうが先かなって思ったんです。だからハチ寄せみたいに、地元の人が来てくれるようなイベントをまずはしていこうと思いました。

ハチ寄席やディープナイトツアーの他にも忘年会を開いたり、女子会を開いたり。ハチハウスでは地元の人が利用したくなるようなイベントを沢山企画しています。

寺尾さんの話を聞いているとどれも少し意外で、でも理由を聞いてみるととても納得するものでした。ただ重要なのは、しっかりとしたロジックが通っていること以上に、やっている寺尾さん自身が楽しそうなことなのではないかと思いました。

30年後を見据えて今から準備をする「エイトノットプロジェクト」

最後に、寺尾さんが今考えている中で一番大きな計画を聞いてみました。

寺尾さん:ハチハウスの周りも独居老人がたくさんいて、息子とか娘に早く帰ってきてよって電話するおばあちゃんがいる。さみしいさみしいと言うて話しかけてくるんやけど、家が空いてるからってよそ者は入れたくない。

そんな風にはなりたくないなって思うて。

だから将来はゲストハウスではなくシェアハウスを、それも若い人のじゃなくて、自分らが年取った時に入るシェアハウスをしたいなって思うてます。

ただ、一緒に暮らす人って相性がものすごく大切。だから今から2泊3日の擬似シェアハウスを真面目に30年間続けていこうって思ってる。毎年続けて絆を深めていく、それをかっちり結べる8の字結びをイメージして、エイトノットプロジェクトと呼んでプロジェクト化するのが一番大きな計画かな。

学生:エイトノットプロジェクト、かっこいい…!

寺尾さん:せやろ!あたしが名付けたんやで!笑

寺尾さんは「シェアハウス」と呼んでいるけれど、それは実は「マイ老人ホーム」なんじゃないだろうか。そんなことを聞きながら思いました。

現在は5名、ケアマネージャーや農家、鍼灸師の方などがエイトノットプロジェクトに手を上げているそうです。彼らと一緒にこれから30年かけてじっくりと関係を作り上げていくことが目標だそうです。

寺尾さん:結婚する人も、なんかの理由でいなくなる人もおるかもしれん。全然30年後にどうなってるかなんてわからんけど、少なくともこうしておけば30年後の自分が寂しくならないように保険をかけられる。

年取ってからこれをやりましょって言っても もう手遅れですよ。寂しいから一緒に住もう言うたって全然合わないかもしれへんし。

最初はすこし刹那的な、今を全力で楽しむために生きているような印象だった寺尾さん。でも実はその裏には、もっと長い目で見た世界が広がっていました。

エイトノットプロジェクトでは2泊3日の短い共同生活を送るだけでなく、認知症の勉強会をしたり、デイサービスの見学をしたりもしているそうです。地方への移住と言うと、どうしても入口となる住む場所、働く場所に芽が行きがちです。

しかし、その地に住むということはその地でどう生きるのか、そして死んでいくのかを考えることにも繋がるのではないでしょうか。

編集後記

最後のエイトノットプロジェクトの話を聞いた時、学生は「まだ早いんじゃないですかね…」という反応でした。

確かに40歳を前にして老後のことを考え始めるのは、いささか早いような気もします。ただ寺尾さんが語っていたのは、

寺尾さん:自分が感じた時に何かを形に残す動きができる人がこれから残っていく人なんじゃないかなって思う。

自分が「これだ!」っていうものを見つけるのにすごい時間がかかるんやけど、
それに「これだ!」ってものが見つかる人がどれだけおるのかわからんけど、
でも「これだ!」ってものを感じた時に動かないともったいないよね。

わたしの場合は遅い。ほんまに遅い。だからみんなも思い立ったらすぐにやってほしいと思う。

という言葉。

ディープナイトツアーは、まちの人を知るために
ハチ寄席は、まちの人に溶け込むために
エイトノットプロジェクトは、まちで生きるために

一見バラバラなハチハウスのイベントや行動。しかしその裏側は、寺尾さんが人生の中で得た考えや経験の糸でしっかりと結びついていました。この見えない糸があることが、僕が最初に面白いと感じたことであり、見えない糸であるために「なぜ面白かったのかわからなかった」理由なのだと思いました。

とはいえ始まってまだ半年のハチハウス。これから10年、20年そして30年後どうなっているのか。ぜひ早いうちに足を運んで変化を楽しむことをおすすめします!

■ハチハウスについて…
施設名: 天橋立・宮津ゲストハウス ハチハウス
住所: 〒626-0006 京都府宮津市字蛭子1104
定休日:不定休
電話番号:080-1430-3521
ウェブサイト:http://8house.jimdo.com/
Facebookページ:https://www.facebook.com/miyazu8house/
アクセス:京都丹後鉄道の宮津駅 から徒歩15分
駐車場:なし(近くの駐車場を案内します)
チェックイン/チェックアウト:16時/11時
宿泊料:3000円(大人)※小学校6年生までは1000円

ゲストハウス「ハチハウス」の学生レポート

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齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。
齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。