160301r_eye_re
intern-miyazu-content

日本酒×スイーツ ハクレイ酒造

スイスの高級腕時計メーカーFRANCK MULLER。1つの腕時計の値段がゆうに100万円を越える最高級ブランドのひとつです。その創業者であるフランク・ミュラーの言葉にこんな一言があります。

人生に挑戦するのに 年齢なんて関係ない。
フランク・ミュラー

人であれ企業であれ、年を重ねるにつれてどうしても新しいことへの挑戦がおっくうになってしまうものではないでしょうか。しかし、京都府宮津市には創業から178年目にして全く新しい業態に挑戦した酒蔵があります。

そこはハクレイ酒造株式会社。宮津駅から東へ約12km、丹後由良駅の近くにあるハクレイ酒造は天保3年(西暦1832年)に創業した酒蔵です。

そんな歴史ある酒蔵が創業から178年目にして始めたのが「京丹後の酒蔵・蔵スイーツ」というケーキや洋菓子を作るショップ。現在は日本酒作りと平行してスイーツ作りをしているハクレイ酒造。

一見まったく関係のない2つの業態を通じて何を目指しているのか、学生がインタビューしました。

地元の食材を使いたいけれど、美味しさへのこだわりは捨てない

蔵スイーツは築100年以上の元精米所をリノベーションして作られています。立派な梁や柱、素敵な土壁を残しつつもスイーツを売っているお店らしく明るい雰囲気に溢れている店内。

酒蔵が造ったスイーツ屋さんということで酒粕など日本酒の素材由来の商品がならんでいます。

例えばこの甘酒をカンテンで固めたプリン。酒粕はチーズと似た性質があり、またミルクとの相性も良く、プリンやチーズケーキなどに使うことができるそうです。

そこで早速蔵スイーツで使っている素材と地元との関係について学生が質問してみました。

答えてくれたのは蔵スイーツで働く日比さん。

日比さんは蔵スイーツの前は由良駅の近くでスイーツ作りをしていたそうです。蔵スイーツの創業から共に携わり、スイーツから新メニューの開発、併設されているカフェの運営まで行っているThe蔵スイーツのお方。現在は2名体制で蔵スイーツを切り盛りしている笑顔が素敵な女性です。

学生:やはり酒蔵のスイーツ屋さんということでお酒由来の素材を使ったものが多いのでしょうか?

日比さん:甘酒プリンの他には洋菓子でリキュールの代わりに日本酒を使ったものがあります。他には梅酒を作る時に使った梅の実を材料にしたものや、日本酒づくりに使うお水を使って作ったロールケーキなんかもあります。

学生:酒蔵でできる素材だけでなく、地元の食材も多く使っているんですか?

日比さん:なるべく地元の食材を使っていこうという思いはあります。例えばドーナッツは舞鶴のお豆腐屋さんから2日くらいしかもたない生豆乳をいただいています。

他には近くの丹波の黒豆ですとか、京都なのでお抹茶ですとかを使ったスイーツもあります。

ただ中には、普通にお料理していただく分には充分美味しいんですが、スイーツに使うのは味の個性が強すぎて使うのをやめた素材もあります。

酒粕も梅酒用の梅の実も、元々は捨てられていた素材たちでした。全く違う業態であっても、違うからこそ片方で使われなくなった素材に新しい価値を与えることができるのかもしれません。

けれども酒蔵のスイーツ屋さんだから、地元の素材だからという理由だけで必ず使うというわけでもないようです。あくまで蔵スイーツの本分はスイーツ屋さん。美味しさのためのこだわりはスイーツだけにとどまりません。

日比さん:オープンした当時は座席の数を24席くらい用意していました。
ただこの席数だと一度に多くのお客様が来店された時に私たちがちゃんと一人一人のお客様にご案内できない、という課題がありました。

それではせっかく作ったスイーツを美味しくいただいてもらえないと、今では席数を半分くらいに減らしてセルフスタイルにしてあります。

一人一人のお客様がちゃんと美味しいケーキを食べられるように迎えるそんな場所にしたいと思っています。

今は2人で切り盛りしている蔵スイーツ。確かに一度に対応できる人数には限りがあるものの、だからといって気軽に席数を減らす判断ができる訳ではないことでしょう。席数を減らしてでも、美味しくスイーツを味わう体験をして欲しいという想いを感じました。

忙しいケーキ作りの合間をぬってインタビューに答えてくれた日比さん、最後にこんな質問してみました。

学生:これから蔵スイーツをどんな場所にしていきたいと思いますか?

日比さん:働く人も、食べに来る人もみんなが笑顔になれるようなお店にしていきたいと思っています。
たとえば、蔵スイーツに食べに来た小学生が将来ここで働きたい!と思ってくれるような場所。IターンやUターンで宮津に来た人が働きたいと思ってくれるような場所にしたいですね。

ハクレイ酒造に息づく「半径2kmのための酒屋」という哲学

続いてはハクレイ酒造のCOOである鎌田さんに酒蔵を案内してもらいました。

鎌田さん

ハクレイ酒造株式会社と京丹後の蔵・蔵スイーツのCOOを務めている鎌田さん。以前は大手飲料メーカーに務めており現在は農業法人やレストラン、学校の理事などさまざまな方面で活躍しています。

最初に案内してもらったのは、日本酒作りにおいて最も大切な要素の一つと言っても過言ではない水。

鎌田さん:ハクレイ酒造では不動山水という由良ヶ岳の白竜水から湧き出た水を使っています。通常酒造りにおいては硬水のほうが向いていると言われていますが、私たちが使っている不動山水は超軟水です。

注:軟水・硬水とは:水の中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量が多いと硬水、少ないと軟水と言われる。日本の水は軟水であることが多い。

学生:軟水だとなぜお酒造りに向いていないと言われるのですか?

鎌田さん:軟水だと日本酒を作るのが技術的に難しい、という訳ではなく非常に軽い甘口のお酒ができあがりやすくなります。
お酒好きの方からすると日本酒を飲んだ時のあのガツンとした感じがないお酒ができます。それゆえに日本酒には向いていないと言われるんです。

ですが逆に初めて日本酒をお飲みになられる方には、香りがフルーティで飲みやすくておすすめです。

酒造りにおいて大切な水。ハクレイ酒造では水を引いている山の辺りを所有して定期的に手入れしているそうです。不動山水という名前の由来も、水を取っている場所の近くにお不動様を祀った神社があるからとのこと。

酒蔵の中へ進むと昔の日本酒作りの様子を紹介した絵が飾ってありました。

鎌田さん:これは、昔はこうやってお酒を作っていたんですよ、という絵です。昔は今以上に人手が必要ですごい人数で作っていましたね。

寝るまもなく夜通し酒造りをしていたようで、夏場は農家さんをやられている方が冬にこうして出稼ぎに来る、いわゆる季節労働ですね。こうした地元の農家さんの協力が不可欠だったので地元を大切にしていたという側面もあると思います。

ハクレイ酒造のウェブサイトの言葉でこんな言葉が印象的でした。

昭和の中頃まで、お酒屋は地域に密着した半径2kmの商売と言われてきました。

ハクレイ酒造公式サイト:
http://www.hakurei.co.jp/sakagura/

そういえば蔵スイーツの日比さんも、なるべく地元の食材を使っていきたいと語っていました。ハクレイ酒造の方ではどうなのでしょうか。

学生:酒造りにおいては地元の素材をどう使っているのでしょうか?

鎌田さん:
一つは酒米を地元の山田錦を使っています。他には、例えばイチゴのスパークリングは地元の農家さんから生野苺を直接お買い上げさせていただいております。実際にこのスパークリングはイチゴを潰して使っていますので新鮮さや質が重要になりますので地元産のいいものを使っています。

しかも地元の農家と協力してこうした商品を開発することは経済的な関係だけにとどまりません。普通は出荷したらどう加工されるかは農家からは見えません。

ですが地元の酒蔵が加工することで、自分たちが出荷した農作物がどう加工されて、どう販売されているかまで見ることができます。

ハクレイ酒造の他にも地元の学校の理事や企業を経営している鎌田さん。ハクレイ酒造で働きながら目指していることを聞いてみました。

学生:鎌田さんが働きながら目指していることは何ですか?

鎌田さん:どっちかというと最初はコンサルとしてハクレイ酒造に関わるようになったので、ぶっちゃけ僕は売上が上がるのが一番嬉しい。

でもそれだとダメですよね笑

最近思うのは笑顔を作ることが大切だなってことですかね。

働く人が楽しくて笑顔の時は良いお酒ができる、良いお酒ができると働く人が笑顔になる。そういう良い循環が生まれてきていることを実感したからです。

これは蔵スイーツも一緒で、最初はもちろん全く新しいことに挑戦するので産みの苦しみもありましたし、正直ずっと笑顔だったとは言い難いです。でも今はどんどん活発にお話するようになってどちらかというとハクレイ酒造もそうですし、その周りの人の笑顔も作っていけたらと思っています。

「好き」なことを仕事にしているから、辛いことだって乗り越えられる

ハクレイ酒造では蔵スイーツの日比さんと、両方を統括している鎌田さんのお二人に取材する予定でした。しかし偶然、僕達の取材している現場を通りかかった杜氏の山本さんという方にもお話を聞くことができました。

とても素敵な話でしたので、最後に紹介したいと思います。

学生:杜氏ってどんな風に働いているんですか?

山本さん:ハクレイ酒造の酒作りは10月の半ばから3月の半ばくらいまで、5ヶ月位をかけてやっています。

学生や一般の方には信じがたいお話かと思いますけど、その間私どもはお正月も日曜日も休日は全てありません。5ヶ月間ずっと休み無しで働いています。

なかなか魅力もあって面白い仕事なんですが、朝早いですし、お酒重たいですし、蒸米は熱いですし…。

それに誰でもやれる仕事じゃありません。杜氏は人づくりから大変なんです。
入ってすぐなんかは下人ということで、ドラマで言う奉公のような形でゴミ出し、掃除、布洗いなどから始まります。

本当のお酒造りにはなかなか入れなくて、でもそんな中で見ながら覚えていく。教えられてもすぐにはできないしごとばかりなのでそういう面からも新人さんがやっていくのはけっこう辛いですね。

学生:山本さんも辛かったですか?

山本さん:辛かったです笑

今でも私なんかは下人のようなことをしていますが笑

でもね、やっぱりそこからやってこないと下のものの気持ちもわからない。自分が上に立った時にちゃんと指示できないんです。

それに下で助けてくれる者がいないと上の者も片付けまでしていては仕事になりません。

学生:どんなやりがいがあるんですか?

山本さん:私にとってのやりがいですか?
お酒造りの中のやりがいと言えば私は絞り、お酒を上槽(じょうそう)と言いますが、する時ですね。誰よりも早くその年のお酒の風味を味わえる利酒をする時がイチバン幸せですね。
一般の方よりもいの一番に飲めると。

私の場合はそれが目的でこの業界に入ったようなものですから笑

そうしてあぁこれは美味いなと、まずは自分で楽しんで次に自分が作った酒を飲んでみなさんが楽しそうに酔っ払っている姿を見るのが楽しい。

編集後記

178年目の挑戦と伝統の酒造り。その両方に共通していたのは働く人と、その周りの人を幸せにしたいという思いでした。

今の言葉で日比さんは「働く人も、食べに来る人も笑顔になれる」と。鎌田さんは「笑顔を作ること」そして杜氏の山本さんは「自分の作ったお酒でみんなが楽しそうに酔っ払っている姿」と答えてくれました。

それらは言葉の形は違えど、どれも意味はとても近いものだったと思います。ハクレイ酒造のウェブサイトに書かれている『半径2kmのための酒屋』という言葉もまた、同じ意味で使われている言葉なのではないでしょうか。

確かに働くことは楽しいだけではありません。ただそんな中でも自分が楽しみたい、お客さんを楽しませたい、まわりのみんなを笑顔にさせたいと思いながら働いている人がいること。これから社会にでる大学生が、そんな想いで働いている人に出会えたことはこれからの働き方を考える上でとても価値があることだったと思います。

お忙しい中取材に答えてくださったハクレイ酒造のみなさん、ありがとうございました。

■ ハクレイ酒造株式会社について…
住所:〒626-0071 京都府宮津市字由良949
営業時間:9:00〜17:00
※ハクレイ酒造で作っているお酒を買うことができます
※予約すれば酒蔵を見学できます
定休日:毎週水曜日と元旦
お問い合わせ(電話):0772-26-0001
お問い合わせ(FAX):0772-26-0123
公式サイト:
http://www.hakurei.co.jp/
Facebookページ:
https://www.facebook.com/hakurei0001/
オンラインショップ:
http://www.hakurei.co.jp/shop/hakurei/

■ 京丹後の蔵・蔵スイーツについて…
住所:〒626-0071 京都府宮津市字由良949
※ハクレイ酒造と併設されています
営業時間:10:00〜17:00
定休日:毎週 水曜日
お問い合わせ(電話):0772-26-0001
お問い合わせ(FAX):0772-26-0123
公式サイト:
http://www.hakurei.co.jp/hakureisya/
Facebookページ:
https://www.facebook.com/kura.sweets/

「ハクレイ酒造・蔵スイーツ」の学生レポート

関連特集

齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。
齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。