健康の秘密は「お寺・銭湯・路地・古民家」に眠る!?東大のお医者さんが屋台をひいて見つけたソーシャルキャピタルを高める仕組み

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東京都内の診療所で家庭医として勤務しながら、東京大学医学教育国際研究センターで講師として学生教育や研究を行っている孫大輔(写真右:そんだいすけ)さん。
そして、孫さんの教え子の大学院生であり、普段は家庭医として活躍する密山要用(写真左:みつやまとしちか)さん。

医師であるお二人が東京の“谷中・根津・千駄木(通称、谷根千)”で力を入れて取り組んでいるのは、地域資源と人の健康との関わりを調査し、地元住民や医療・福祉専門家、研究者などと協力しながら、地域の健康づくりを普及する活動。

僕たちは、人が病気になる前、少しバランスを失いかけているときにどうやったら支えることができるか、地域でアプローチできないかを考えて活動しています。谷根千に関しては、勤務先の東大からも近くて芸工展などもやっていたのでずっと注目はしていました。

そうしたときに出会ったのが、1984年創刊の地域雑誌“谷中・根津・千駄木(通称、谷根千)”の編集者の一人である山﨑範子さん。
意外にも数十年前までは、谷根千という地域名は存在しておらず、この雑誌がきっかけで一般的に谷根千と呼ばれるようになった多様性のある地域なのだといいます。
山﨑さんとの交流を重ねるなかで、医師である孫さんならではの視点でアイデアが生まれ、少しづつ谷根千との関わりがはじまりました。

CBPR(Community-Based Participatory Research)=コミュニティにもとづく参加型研究を実践する孫大輔さん

CBPR(Community-Based Participatory Research)=コミュニティにもとづく参加型研究を実践する孫大輔さん

“お寺、銭湯、路地、古民家”が、地域の健康を支える “場”になっている可能性

これまで、谷根千で市民と医療従事者が対話をする“みんくるカフェ”という対話の場づくりの活動をしていました。
いろんなテーマに対してお互いの意見を聴き合い、気づきや理解を深める活動です。
健康になる要素っていうのは、一つだけではなくていろんなことがありますからね。
地域の中で人と人が繋がりをもつ “ソーシャルキャピタル(社会関係資本)”が高い地域は健康度が高くて寿命も長いという研究に注目しているんです。

孫さんが教えてくれたのは、谷根千に多い “お寺、銭湯、路地、古民家”が、すでに地域の健康を支える “場”になっているんじゃないかという仮説。
そして、地域のソーシャルキャピタルを上げる働きかけを、地域住民自身の手でつくっていけないか模索を続けています。

お寺とか銭湯とかって、だいたい1つか2つの機能だと思うんです。
でも、谷根千みたいな場所はそれが4つも5つも機能を持っているんですよね。
だから、1つの場所に行くことでいろんなものが得られる。
それが実は健康に良いのではないか?と考えているんです。
谷根千の路地なんかは、家と家の細い通りで、まず車が入らない。
家の裏手とか台所に面したところで、半分、生活空間なんですよね。
子どもの遊び場にもなるし、屋内にいるお母さんは遊んでいる子どもの声が聞こえます。
ほかにも、ご近所さん同士の井戸端会議の場所になったり…。人が通るだけでなくて実はいろんなコミュニケーションが行われているんです。

屋台を舞台に、谷根千で探した「ソーシャルキャピタル」になる場所

“まちじゅうが展覧会場”をコンセプトに1993年から毎年、谷根千地域で開催されている“芸工展”。
今年も10月8日(土)から23日(日)の約2週間、地域内外の様々な人たちを巻き込みながら開催されました。

芸工展でまち健の拠点となったコミュニティスペース“アイソメ”前で組み立てたモバイル屋台

芸工展でまち健の拠点となったコミュニティスペース“アイソメ”前で組み立てたモバイル屋台

谷根千地域の健康資源と人々の健康について調査を進めながら活動している東京大学の“谷根千CBPR研究会”。
孫さんを中心に2015年の11月に発足したこの研究会で、今回の芸工展への出展に際して“谷根千まちばの健康プロジェクト”をスタートさせました。

通称“まち健”と呼ばれるこのプロジェクトで今年の芸工展に出展したものは、その名も“モバイ屋台DE健康カフェ”。

密山
医療福祉の専門家が芸工展に参加して、谷根千で人が繋がる“ソーシャルキャピタル(社会関係資本)”になりそうな場所を探したかったんです。それじゃあ、移動できないとだし…。屋台でもやっちゃおうか?という感じでスタートしました。(笑)
スタッフと地域の方と協力して一つひとつ丁寧に組み立てられた屋台

スタッフと地域の方と協力して一つひとつ丁寧に組み立てられた屋台

屋台の組み立ては、あえて外の通りでやらせてもらいました。最初は遠目に様子を見ていた人がだんだんと近づいてきて、声を掛けてくれたり、最終的には手伝ってくれる人もいたり…。
密山
屋台で出す飲み物などは今回の活動に賛同いただいた方々に協賛というかたちでコーヒー豆や紅茶などを提供いただきました。そういった価値観を共有するというか…。お金ではないやり方のチャレンジでもあるんですよね。

実は“まち”には医者じゃないけど人を健康にするスキルを持った人がたくさんいた

今回、いろんな人がいろんな場所で集まり、新たな出会いと繋がりを生むことができたと振り返ってくれた孫さん。
屋台というのも大事なポイントでした。
入り口がコーヒー、お茶、屋台ということで世代に関わらず、気軽に医療者・専門職の人たちとコミュニケーションがとれて繋がることができたのだといいます。

お客さんとの会話を通してコミュ二ケーションを深める医療者の屋台運営スタッフ

お客さんとの会話を通してコミュ二ケーションを深める医療者の屋台運営スタッフ

モバイル屋台をやってみて、まず健康にそれほど関心がない人とも比較的容易に繋がることができました。
たとえば、藍染屋のおばちゃん、居酒屋のご主人、自転車屋さんなど、ごくごく一般の方々です。
密山
最初は僕たちの屋台を見て何してるの?って感じで…。
コーヒーを出していると伝えて、無料だというとなんで無料?みたいな…(笑)。
そのうち屋台の屋根に付いている聴診器を不思議がって、自分たちが医師や看護師であることを伝えると、最初はどこか腑に落ちなそうにしながらも、だんだんといろんな話に発展していきました。
そうしていろんな人と会話をしていると、医療従事者ではないけど、健康絡みで個別にスキルをもっている方が実はたくさんいることがよく分かりました。
アロマをやっている方とか、お茶から健康にアプローチするティーマイスターの方とか…。

“モバイル屋台DE健康カフェ”で生まれた医者と地域住民の“双方向”のコミュニケーション

普段の仕事とは違う雰囲気でモバイル屋台の運営に関わる医療者のみなさん

普段の仕事とは違う雰囲気でモバイル屋台の運営に関わる医療者のみなさん

運営側の医師や看護師などの医療者についても、これまでの医療者として◯◯してあげるという“一方向なコミュニケーション”ではなく、個人として相手に◯◯しているという“双方向なコミュニケーション”生まれました。

一般の人たちが気軽に医療者と繋がることで期待できるのは “私の知り合いのなかに、医療者でもある活き活きしたあの人がいる”という関係性。
こうした取り組みの積み重ねが、将来的な医療機会格差へのアプローチの一つになるかもしれません。

根津まちづくり勉強会で、まち健プロジェクトとモバイル屋台DE健康カフェの活動について、地域の方々に報告する孫さんと密山さん

根津まちづくり勉強会で、まち健プロジェクトとモバイル屋台DE健康カフェの活動について、地域の方々に報告する孫さんと密山さん

主役はあくまで地域の人たち。今後のまち健としての取り組みは?

地下鉄根津駅の近くの藍染大通りでは、夏になると野外映画上映会やマルシェなどが開催されています。
今年の芸工展のときには、なんと初のストリートウェディングも…。
孫さんたちのまち健も、地域の人が主体になるような今後のアクションプランを考えているといいます。

今年の芸工展開催期間中に初めて開催されたストリートウェディング

今年の芸工展開催期間中に初めて開催されたストリートウェディング

その一つが台東区谷中のカフェ“のんびりや”で開催を予定している映画上映会。

映画のテーマは精神医療。
イタリアで精神科病院解放運動をした精神科医の話です。
もちろん映画を鑑賞したあとは、語り合う会も予定していると教えてくれました

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家庭医として働きながら、東大の大学院生としても学んでいる密山要用さん

密山
僕たちの活動は、専門家だけが考えるんじゃなくて地域の人が主役になって考えるっていう原則でやりたいんです。そのために、外からできるだけリソースを持ち込まない。ですから、すごく時間がかかるんですよね。谷根千の地域にあるリソース、資源、良さを活かすかたちでやりたいんです。地域の人とのコラボレーションもさらにしていきたいですね。
東京藝術大学の場所が近いこともあって、この地域でアート活動はたくさんあるんですけど、健康関連の活動ってあまりないんですよね。なので、谷根千の強みを活かしてついでに健康になれるようなイベント、居場所みたいなところが1年後に10箇所ぐらいつくりたいんです。そして、5年後10年後には地元の人がどんどんやってますみたいな流れにしたい。こんなふうにやれば実は健康にもいいぞ!と、みんなで語っている状態をイメージしています。

最後に、まち健として今後も谷根千地域を舞台に地元の人たちと一緒に取り組んでいきたいと力強く語ってくれた孫さん。
医師という立場から、地域と健康という視点でお二人が取り組んでいる“ソーシャルキャピタル(社会関係資本)”を上げる活動を一緒に応援しませんか?

小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。
小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。