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昔ながらの“江戸野菜”が復活。新宿発「内藤とうがらし」がウマい!

「江戸野菜」って何?

江戸野菜はその名の通り、江戸時代に栽培されていたご当地野菜のこと。
有名どころでは「練馬大根」。他にも、「谷中しょうが」「寺島なす」「早稲田みょうが」など、地域ごとのご当地野菜があり、その種類は40種ほどあった模様。
現在はその多くがなくなってしまった一方、練馬大根や北多摩のウドなどは今でも、全国的に人気の高いブランド野菜として栽培されている。

「江戸野菜」誕生秘話が、ちょっとウケる

江戸野菜が盛んに栽培されるようになったのは、8代将軍吉宗の頃。
江戸の街が発展するにつれ食料事情も良くなり、さまざまな食べものが手に入るようになった中、特においしい白米ばかりを食べる人が急増。偏った栄養で病気になる人が続出したそうで(ビタミン不足が原因で起こる「かっけ」とかですね)。
見かねた吉宗が「野菜を作って喰え〜!」と号令をかけ、各地で強制的に作らせたのが、始まりなのだとか。
……何とも享楽的な話ですな!でも気持ちはわかる(笑)。白米ウマいもんね〜。

新宿のご当地野菜「内藤とうがらし」

さて現在、この江戸野菜を復活させようという取組が各地で注目されているらしい。今回ご紹介するのは、そのうちのひとつ「新宿内藤とうがらし復活プロジェクト」だ。

内藤とうがらしは、高遠藩主、内藤家の下屋敷だった新宿御苑で栽培されていたことからその名が付いた野菜。蕎麦好きの江戸っ子たちにたちまち重宝され、農家はこぞって唐辛子を作ったのだとか。
一方、江戸の街はどんどん発展を遂げ、人口が急増。農地が減り、内藤とうがらしを栽培する農家も次第に少なくなっていく頃に、別種の「たかのつめ」ブームが到来。すっかり弱小ブランドとなってしまった内藤とうがらしは、あえなく絶滅してしまったそうだ。
「内藤とうがらし復活プロジェクト」は、伝統の江戸野菜である内藤とうがらしを再び育て、食べて、未来に残していこう!というもの。新宿区を中心にじわじわと活動が広がり、地元の企業や学校、飲食店やデパートを巻き込んで盛り上がっているのだ。

↑新宿区、学習院女子大学国際文化交流学部のメンバーで結成されたグループ「とうがらし女子」。内藤とうがらしの研究、加工品の開発やPR活動などを行っている。かわゆい。

「内藤とうがらし」復活プロジェクトに参戦!

夏の終わりに、とあるご縁でこの内藤とうがらしを使った料理をご紹介するという仕事を担当した。内藤とうがらしの復活物語を軸に、江戸野菜の歴史や食文化、新宿の街で今盛り上がっている活動などをまとめたムック本「情熱の!新宿内藤とうがらし」へのレシピ掲載である。

↑「情熱の!新宿内藤とうがらし」(株式会社H14発行)。

私たちは普段からアジア料理をやり込んでいることもあり、とうがらしは得意分野!
レシピ作成にあたり、内藤とうがらしの復活プロジェクトを名実ともに支えている、「NPO法人 おいしい水大使館 内藤とうがらしプロジェクト」のリーダーである成田重行さんにお話を伺った。その話がおもしろくていつかどこかで紹介したい……! と思っていたのだ。

「内藤とうがらし」が復活するまで

——田中 内藤とうがらしの実物って初めて拝見しました。ツヤツヤしてハリあって、とってもきれいですね!

——成田 とうがらしの収穫時期はちょうど今(9月)ですね。これは今朝獲ったばかりのものです。畑一面が真っ赤なとうがらしで覆われて、とてもキレイな風景が見られますよ。

——田中 生のとうがらしってあまり手に入らないので、嬉しいです。

——成田 日本で流通しているとうがらしは約9割が海外からの輸入で、国内栽培種はごくわずかなんですよ。内藤とうがらしも、東京都内の指定生産者が育てた固定種に限られるので、とても生産量が少ないんです。
スーパーで手軽に買えるものではないのですが、新宿御苑や区内のイベントなどで、定期的に苗を販売しています。また、乾燥とうがらしや、内藤とうがらしを使った加工品であれば、各種イベントや取扱い店で買うこともできますよ。

3年かけて、種から原種を栽培!まさに「情熱」のとうがらし

——田中 成田さんは、どうして内藤とうがらしの復活を手がけようと思ったんですか?

——成田 私たちは2004年から、「日本スローフード協会」として、江戸時代の食の研究をしていたんです。その頃、江戸東京・伝統野菜研究会代表の方から江戸野菜のお話を聞く機会があり、江戸野菜の復活に興味を持ちました。

新宿は、東海道の品川宿、中山道の板橋宿、日光街道の千住宿と並んで「江戸四宿」と呼ばれる宿場町として栄えた街ですが、歴史をさかのぼると、新宿宿場ができる100年前は、現在の新宿御苑を含む約20万坪の領地が、野菜づくりに活用されていたことがわかりました。今からは想像もつきませんが、新宿一帯は農地だったんですね。
そこで栽培されていた野菜のひとつが「内藤とうがらし」。秋になると新宿から大久保にかけて、真っ赤な絨毯を敷いたような光景が広がっていたそうですよ。

——田中 内藤とうがらしは、一度は絶滅してしまったと聞きました。どうやって栽培を成功させたんですか?

——成田 まずは原種を手に入れる必要がありました。私たちの手もとにも全く手がかりがなかったので、内藤藩主である清成(きよなり)の出身地である三河(愛知県)や、6代当主である清枚(きよかず)が藩主を務めた高遠(長野県)に赴いて種を探しました。
ところが、栽培されていた内藤とうがらしは内藤家とはまったく関係なく、雇われた小作人が栽培していたことが判明したんです。

——田中 え!内藤家はノータッチだった、と。

——成田 そういうことですね。内藤藩の畑で育てられてはいたのですが、まあ、殿様は関係なかったみたいです。
そこで、江戸時代に最も多く栽培されていたという八房系唐辛子の原種を数粒頂き、山梨の畑で3年間隔離して固定種を完成させました。

——田中 さ、3年……! すごい情熱ですね。

——成田 2013年には、そのとうがらしが「内藤とうがらし」として江戸伝統野菜に認定されました。現在では、一般に流通しているとうがらしとは区別し、都内で伝統野菜を栽培している農家さんに、栽培をお願いしています。

独特のうまみが特徴の内藤とうがらし。意外な料理法に興味シンシン

——田中 貴重なとうがらしをありがとうございます!どんな料理にしようか、今から楽しみです。

——成田 内藤とうがらしは、辛みの強さで言うとたかのつめよりひかえめですね。そのかわり、独特のうま味があるんですよ。私たちのお気に入りは「とうがらしごはん」です。乾燥させた内藤とうがらしを水に漬けておき、それでごはんを炊きます。ほのかな香りと、とうがらしのうま味が染み込んだ炊きたてごはんは、一度食べたらやみつきになりますよ。

——田中 とうがらしでだし汁が取れるんですね……!おいしそう。確かに、野菜は干すとうま味が凝縮されますし、野菜だしとごはんの相性も良さそうです。

——成田 収穫時期は、葉っぱを使った料理も楽しみのひとつですね。油で炒めたり、佃煮にしたり……。 いわゆる「葉とうがらし」ですが、原種ならではの柔らかい歯ごたえや、野性味のある味わいは、内藤とうがらしならではの楽しみがありますよ。

それから、意外に相性がいいのが「乳製品」です。今まで作った加工品の中では、とうがらしを使ったアイスクリームが大人気でした。濃厚なバニラアイスに、爽やかな辛みがアクセントになって、甘いものが苦手という方にも好評でしたね。

——田中 とうがらしに乳製品! チーズや生クリームとも組み合わせてみたいです。ココナッツミルクとも合いますよね。

——成田 和食の薬味に使われることが多いとうがらしですが、洋食や、デザートなど、いろいろな可能性がありそうです。乾燥とうがらしなら比較的手軽に手に入りますし、生とうがらしを栽培して、鑑賞するところから楽しむのもおすすめですよ。ぜひ、いろんな料理で味わってみてください。

内藤とうがらしの料理アイデアを紹介!

成田さんから貴重なとうがらしをたくさん頂き、さっそくキッチンへ。いろいろ考えたけれど、生のとうがらしを手に入れることができたので、とれたての風味や味わいを生かす料理を作ってみることにした。いろいろ試した中から、すぐできる簡単なレシピ(「レシピ」といえるのか?というツッコミも来そうだけど…)をご紹介。

★その1 「たまごかけごはん」

内藤とうがらしを種ごとみじん切りにし、醤油少々と合わせたものを添えたたまごごはん。まず、シンプルにとうがらしの味を楽しみたい!と思い、最初に思いついた食べ方。

★その2「とうがらしディップ2種」

【塩とうがらし】
すり鉢でついたとうがらしに玉ねぎのみじん切り、塩(塩麹)、酢を少々加えてペースト状にしたディップ。
内藤とうがらしは、たかのつめや外国種のとうがらしと違い、辛みがとてもマイルド。最初にピリっときた後にす〜っと鼻にぬけるような、ラディッシュのような爽やかさがある。野菜としてたっぷり食べられる特徴を生かして提案したレシピ。

【味噌マヨ】

こちらも超シンプル。味噌マヨネーズに、刻んだ内藤とうがらしとにんにく少々を入れたディップ。
この単純な料理をレシピと言っていいのかわからないけれど、味噌マヨは内藤藩の拠点である高遠(長野県伊那市。ちなみに私の出身地)界隈で、うんざりするほど夏野菜が採れる季節には定番のつけだれであることから紹介。(「ディップ」というのもはばかられる。笑)

★その3「ショコラ・ショー」

チョコレートをミルクで溶いただけ。ココアより簡単にできて、寒い時はよく作るホットドリンクである。
今回はミルクを煮立てる時に、みじん切りの内藤とうがらしを加えて風味を付けた大人バージョンを提案。甘みの後に、鼻にす〜っととうがらしの風味が残る感じがクセになりそう。好きな人は、洋酒を入れても美味。

食材の「物語」っておもしろい

今回、内藤とうがらしで料理をやり込んでみて、改めて「食材のルーツ」に興味を持つようになった。
特に、「原種を守る」というのはなかなか難しいことだと思う。何せ、改良された交配種のように強くないから育てるのに手間がかかるし、手間がかかるということは生産者さんも増えにくいし、作る人がいないということは流通もしにくいということで、つまりは儲からない。

でも、こうして昔のままの野菜を復活させ、育て、守っている取り組みってやっぱりロマンチックだし、おもしろい。400年前の街の様子や食文化に思いを馳せながら頂くとうがらし料理はオツなものだ。
「おいしい食材」であることはもちろんだけれど、その背景にある物語を知るのも、江戸野菜の楽しみ方だと思う。

取材協力

NPO法人「おいしい水大使館」内藤とうがらしプロジェクト
成田 重行

写真提供

新宿~御苑~四谷タウン誌「JG」

内藤とうがらし加工品のお問い合わせ

「江戸屋」
edoya@nalnet.jp

田中あずさ

田中あずさ

編集者、コピーライター、料理家

魚醤とハーブの料理ユニット「Indochinoise」を主催し、2006年頃からベトナム・カンボジア・ラオス界隈を行ったり来たり。 最近は国内の地場野菜に興味津々。特に江戸野菜の復活に注目している。
田中あずさ

田中あずさ

編集者、コピーライター、料理家

魚醤とハーブの料理ユニット「Indochinoise」を主催し、2006年頃からベトナム・カンボジア・ラオス界隈を行ったり来たり。 最近は国内の地場野菜に興味津々。特に江戸野菜の復活に注目している。