「お弁当作り」を楽しむ秘訣を、献立のプロ・管理栄養士に聞いてみた

突然ですが、お弁当作っていますか?

家族に、はたまた自分のためにお弁当を作るとなったら……。
面倒くさい。そうですね、ごもっとも。

詰めてみたらなんだか彩りが悪い……。SNSにアップされているお弁当みたいにするにはどうしたらいいんでしょう。

栄養バランスとかも考えなきゃダメなんじゃ…。ああもう、いっそ好きなものだけ詰められたらいいのに!

……ということで、訪れたのは栃木県益子町
なんでも「管理栄養士がつくるお弁当」があるんだとか。

管理栄養士

厚生労働大臣の免許を受けた国家資格。通常の栄養士よりも高度な専門知識が求められ、病院などの特別な栄養管理が必要な施設に配置が義務付けられている。

そこで、「食と栄養のプロ」である管理栄養士さんに、「お弁当の極意」を聞いてきました!

思わず白米が欲しくなる匂いに誘われ、調理場へ潜入!

お話を伺ったのは、管理栄養士の高木香織さん。

「道の駅 ましこ」で「管理栄養士のお惣菜屋さん tenteko」を出店し、お弁当やお惣菜を販売しています。

©高木香織

それらの調理を行っているという、農村レストラン「山郷のめぐみ」にお邪魔しました。

店内に一歩入ると、すでにいい匂いが。
 

── すでに白米をかき込めそうな匂いがしているんですが……。

高木今、ちょうど調理を始めたところなんです。見ますか?

── お願いします! おいしいお弁当が出来上がるところ、見たいです!
 

早速厨房へ。広々とした水場、業務用の冷蔵庫、火力の強いガスコンロ。なんだか小学校のころの給食室を思い出します。
 

── 野菜がたくさんありますね!

高木どれも地元益子や栃木県内でとれた野菜なんですよ。素材の味を生かすために、できるだけ味付けは控えめにしています。

おいしさの秘訣は、少しだけ「新しさ」を加えること

── このお鍋に入っているのは切り干し大根……? でも、赤いんですが。

高木そうです。切り干し大根のアラビアータですね。

── アラビアータ!? 切り干し大根の?

高木にんにくと唐辛子をちょっと効かせたトマト風味なんです。パスタにかけるソースみたいな味ですよ。

意外と好評で「ワインのおつまみに合う」と言ってくださる方もいらっしゃいます。

── 確かに合いそう! 切り干し大根というと、いつも同じような和風な味付けになるんですよね。

高木味付けを少し変えるだけでも、印象が変わりますよ。

キャベツ炒めにはクミン(カレーの香りづけにも使われるスパイスの一種)を加えたり、地元で昔から食べられている「モロ」という魚があるんですが、普通なら甘辛く煮ちゃうところをカレー味にしたり。

ナスを素揚げに。パチパチと油が跳ねる音が食欲をそそります

── カレー味! 野菜や魚嫌いが嫌いなの人でも食べられそう……。

高木醤油と砂糖で煮た昔ながらの味も私は大好きなんですが、それだけだととその食材自体は野菜嫌いなままで終わっちゃう人もいるんですよね。

せっかくの野菜食材の美味しさを知らずに食べないなんてもったいないので。

── お野菜苦手なものを食べてもらおうと思ったら、もっと凝らないといけないのかと思ってました。

高木そうですね。でも、難しく考えなくていいかなあ、って。味付けを変えたり、作り手のテンションが上がる方法を選べばいいんです。

ひとつのおかずに、1種類の野菜でもいい

── お弁当作りでテンションが上がる……。

高木作る側って「いろんなおかずをたくさん食べさせなきゃ」って思いますよね?

── うんうん。

高木もちろん、多いほうがいいんですよ。
ただ、それが作る側のストレスになって嫌になるんだったら、たまにはおかず一種類でもいいんじゃないかな。

── それだとお弁当の色味も良くないような…?

高木彩りを入れたいなら、例えば、青ネギをちょっと多めに切ってタッパーに入れておくとか、ミニトマトを添えるだけでもOK。

一度に野菜を何種類も使わなくても大丈夫です。

── 確かに、たくさん野菜を入れようとしていました。

高木そのかわり、野菜をたくさん食べる日も作ってくださいね(笑)

私はとりあえず、野菜を一種類でもいいから、少しでも多く食べてもらえたらな、と思っています。

日によってお買い得な野菜もあるし(笑)、毎日違う野菜を食べていれば、トータルでいろんなものを食べることになるので。

── なんだか、急に肩の荷が下りたような気がします……!

手際よく詰められていくお弁当。旬の野菜を使った“目玉メニュー”が真ん中に盛り付けられます

高木こだわりすぎなくていいと思いますよ。今はSNSでいろんなお弁当を目にするので、理想のお弁当というものがあるでしょうけど、「これを作らなきゃ」って思わなくていい。

まずは自分が楽しめたら、と思います。楽しんでいれば、知らないうちにおかずは増えちゃいますよ!

── お弁当作りを楽しむって意外とハードルが高い気もします。

高木ちょっとしたスパイスを入れるといい香りがしますよね。おいしそうだなあ、って。

それだけで少し気分が上がりません? そういうささいなことを普段の料理に加えるだけでもいいんですよ。

── なるほど、お弁当を食べる人に喜んでもらえることと、作る際に楽しむことが繋がってるんですね。

ここまで続けて来られたのは、食べてくれた人の言葉があったから

──「tenteko」を始めてから1年ほどですが、それまでもずっと管理栄養士として栃木でお仕事を?

高木栃木の生まれですが、一時東京や茨城にいたこともあります。でも、ずっとこのまちも、小さいころから参加していたお囃子やお祭りも好きだったんです。

だから、益子を出る時に、「きっと私はいずれここに戻ってくるだろうな」と思っていました。

── すでにビジョンはあったんですか?

高木食事に関係していて、健康になれることで、何か地元に貢献できないかな、と思っていました。

そんなときに「道の駅ましこ」ができることを聞いたんです。

── それでこの「山郷のめぐみ」で、お弁当作りを始められたということなんですね。

高木ここはもともと地元のお母さんたちが運営する農村レストランとして、地元の活性化のために建てられた施設なんです。

でも、三年ぐらい前から「一旦休業」ということで使われていなかったので、お借りすることになりました。

── 最初のお弁当の反響はどうでしたか?

高木道の駅にはちょっと似合わないお弁当が出ている、と言われることもあったんですけど(笑)、出し始めてすぐのころに一度お手紙をいただいたんです。そこに「理想のお弁当をいただきました」って書いてあって。

── それは嬉しいですね!

高木はい。そんな言葉ももらえたから、1年間続けてこられたのかなあ、と思いますね。

料理教室は、自分の手で収穫するところから

── tentekoでは、料理教室もやっているんですよね。

高木はい、道の駅ましことコラボして。tentekoのお弁当を作ってみよう!とか、旬のブルーベリーを使ってタルト、とか。

── わあ、楽しそう!

道の駅で行われる朝市に出店する際に使っているという看板は妹さんの手作り。「tenteko(てんてこ)」という名前は、昔から慣れ親しんだお囃子の音から取っているのだとか

高木農家さんの畑で野菜を収穫し、ここで実際に調理して食べるという料理体験ツアーもやりましたよ。

── 自分の手で収穫した野菜を食べるって、よりおいしく感じられそうですね。

高木そうなんですよね。私の地元の先輩とか友だちには、農家の方がとても多いんです。

心を込めてお野菜や農産物を作っている姿を知っているので、それを食べてもらいたい、というのもあります。地元のものでこんなおいしいものがあるよ、って。

「山郷のめぐみ」の中には、地元の陶芸家の手による器も飾られています

おいしく食べてたら最終的に健康になっちゃった、くらいがいい

── 高木さんが思うおいしいお弁当ってどういうお弁当ですか?

高木買って食べたけど、人それぞれ好みはあるので合わない味もあるとは思うんです。

もし「おいしかった」につながらなくても「へ~、こんなのもあるんだ」と思ってもらえればOKかな。

最終的に食べてもらえて、その人の体の一部になったらいいな、っていうのはあります。

── 新しい味を伝える、ということでしょうか。

高木管理栄養士として、食に興味を持ってもらえて、おいしく食べてもらえて、作る人も楽しくて、最終的にみんなでおいしく食べたら健康になっちゃった、くらいがいいですね。

── みんなハッピー……。

高木食べた人が「これを真似して作ってみよう」と思ってくれたり、「ここにあったおかずがおいしかったから、道の駅で材料を買ってみよう」とか、そういう次のアクション、何かのきっかけになれたらいいなと思っています。

ひとつのお弁当から、食べる人の「おいしい」という幸せと新しい料理の楽しみを提供する……。

高木さんのお弁当には、「作る」「食べる」の新しい発見がたくさん詰まっています。

明日のお弁当作り、まずは自分が楽しんでみよう

「よかったらご自宅で召し上がってください」といただいたお弁当。

慣れ親しんだ野菜の味に、懐かしさと、こんなふうに料理してもおいしいんだ! という新鮮さがありました。

手際よく料理をする高木さんの姿は、惚れ惚れすると同時に、見ているとなんだかワクワクもしてきて……。

それは高木さん自身が、作る楽しみを感じながらお弁当を作り続けているからかもしれません。

取材・編集/ふくだりょうこ+プレスラボ
写真/横尾涼