「3mのやつは200万円」誰も知らない“はにわ専門店”の世界

どうも、こんにちは。
観光会社別視点の松澤です。

本日は茨城県桜川市の「はにわの西浦」に来ております。
世にも珍しいはにわの専門店です。
 

 
ずらーっと並んだはにわの数々。
右を見てもはにわ、左を見てもはにわ。
店内だけではおさまりきれず、通りの外まではみ出している

ここ桜川一帯は古くより石の産地として知られている。
車を走らせていると「石屋、石屋、石屋、石屋、え? はにわ屋!?」という具合に突如姿をあらわすので、古墳時代にタイムスリップしたよう。抜群の存在感。
 

 
モチーフだって既存の枠におさまらない。
踊るはにわ、縄文のヴィーナスといった教科書で見たことのある正統派もいれば、「ばかいぬ」と名付けられた間の抜けた創作はにわもある。

サイズも大小さまざま。
手のひらサイズの小さい物なら数百円台だが、高さ1m超の大きな物は50万円オーバーのものもちらほら。ちょっとした自動車が買えてしまう。
 

 
開業は戦後まもなく。
もともとは普通の焼き物屋で、かまどや鉢植えを作っては、東京・神奈川で販売していた。

各世帯にかまどが普及し、プラスチック製の鉢植えが主流になって、需要が先細ったタイミングではにわ専門店へと舵を切った。

大胆な判断である
 

店主の山中さんに会うことができた

なんではにわ専門店をやろうと思ったの?
どういう人がデカいはにわ買うの?
はにわ専門店って儲かるの?

珍しい業態なだけにつぎつぎ疑問が湧いてくる。
謎多きはにわ専門店の店主・山中誠さんにお話をうかがってきた。

潰れそうな店ばっかり取り上げるテレビ番組に密着取材された

── この店、道路から見ると凄いインパクトですよね。ふらっと入ってくるお客さんが多いんですか?

山中どっかで聞いてきたとか、テレビとか雑誌見てきたお客さんばっかり。行き当たりばったりの人はあんましいないかな。

昔はテレビ見て来たら、何も買わない人が多かったのに、最近は買ってってくれる。あれ、変わったよな。

── たくさんテレビに出てますよね。出演番組によって反響は違いますか?

山中カッコイイ番組はダメだったな。ぜんぜん反響なかった。ありゃ〜、ダメだな。

逆に、テレビ東京で潰れそうな店ばっかり取りあげる番組が来たときは凄かったな。
1ヶ月ぐらい定点カメラつけて、仕事場以外も付いてくんですよ。

親戚も「店おかしくなっちまう」って心配するし、帰れって言っても帰りゃしねえ。「いや、悪いようにはしねえ」って言うけど「お前ら、潰れそうな店しか取材してねえだろ」って。
 

でも、放送したら一番お客さん来たよね、次から次に。
 

「アド街ック天国」もそうだけど、テレビ東京は意外と商売になるね。
 

── テレビ東京は商売になる、いい言葉です。売れ筋商品はありますか?

山中400円ぐらいの踊るはにわは出るわね。前はそんな細かいのやんねかったんだけど。

間違って店入ってきたお客さんも、安いのがあればそれ買って楽に出てけるんですよ。なにか買わなきゃ申し訳ねえって人もいるから。

バブルの頃はすごかった。5万円のはにわがぽんぽん売れた。

大きいはにわは完成までに3ヶ月ほどかかる。下から少しずつ固まっていく。

── 1m超えの大きなはにわは40万なり50万なり、それなりのお値段ですよね。どんな人が買うんですか

山中デカイのは売れる個数も微々たるもん。
商売やってる人が看板に使うとかですかね。「はにわ置いてるとこだよ」って言えばすぐ分かるからな。

個人で買って、庭に置く人もいるよ。すげえ金持ちが「別荘に持ってってくれ」って何個も買ったことがあったな。庭造りに使うってんで、デカいはにわ5体ぐらい持っていったよね。

── そういう人けっこういるんですか。

山中いや、いないいない。普通デカいのは買って1つだな。

 

 

── このお店で一番大きいのはおいくらですか?

山中一番デケえのが3mで200万円ぐらいだな。
昔は親父がまめにオーダーメイドもしてたけど、今はそういう注文ないから。

お金が余ればうちらの品物って動くと思うんですよ。
バブルの頃はすごかったですから。あんときは金動いたよね。
なんでこんなのぽんぽん売れるのかなってぐらい、1つ3万円5万円のやつがぽんぽん売れてった

── はにわもバブルの影響受けるんだ!

山中俺が始めたのが昭和63年だったんで、一番良い時。

「そこらへんで勤めなんかやるより、儲かるから」って親父に言われて「ほんと儲かるかもしんねえ」って思ったけどね。最初は良かったけど、今は大変だよ。

もう終わりだーっていつも思ってるから。まあ、やっとですよ。生活する金だけあればなんとかなるからね。
 

全国探してもないからね、こういう店。

── そもそもなぜ、はにわ屋を始めたんですか?

山中俺じゃないんですよ。そもそも親父が始めてたんで。

もともと親父が、かまどとか鉢植えの焼き物やってたの。忙しくって寝らんないぐらい売れたんだけど、そういう時代が終わって、はにわをやりはじめた。同じ焼きものだからって。

── 同じ焼きものと言ってもかなり大胆な方向転換ですよね。どういうお父さんなんですか?

山中全国探してもないからね、こういう店。変わってんだ。石の町だから石やってりゃ儲かるのに手を出さなかったですから。
別に芸術家ではねえけど、造形物が好きなんだよね。

親父、器用なんで家もポケモンのはにわだらけ(笑)。
子供が「これ、作って」って言ったら、器用にやるの。それこそ、ここには置けねえ。キャラ物だからな。
 

窯焼き前の干支の鈴。数日間、乾燥させてから焼く。

山中自分は、そんなに作ってねえんですよ。窯焼きとか雑用を主にやってる。

ただ、土の鈴は俺が作ってます。干支のやつ。30年ぐらい前はすっげえ売れたけど今は買わねえよなあ。干支の時代は終わったよ

県立歴史館でも売ってるんだけど、干支って書くとダメだね。動物土鈴って名前にしてるもん。


 

── お父さんがデザインした物が多いんですね

山中親父は売れる売れないぜんぜん関係なく、好きなの作ってる。仕事っちゅう仕事じゃねえよね。自由だわ。品物ってより在庫作ってる感じ

いまは調子悪くなっちゃって作れなくなっちゃったけど、まだ作業場に焼いてないのいっぱいあんですよ。

ムキになって売れるもんじゃねえし、子どもの野球とか見てるよ。

── 山中さんは何歳から、はにわの道に入ったんですか

山中俺は親父に誘われて、20歳過ぎてからやることになったんですよ。

── それまではどんなお仕事を?

山中それまでは車の整備やってた。高校出てから6年ぐらいやってたかな。

その頃、ここの前に道路が出来たんです。「道が通るから商売になっかもしんねえ。おまえ帰ってくりゃ、店でもやっぺ」ってこの店を始めました。

店建ててる時にNHK来たから、すげえお客さん押し寄せてきたよ。
こっちの人もデカいの持ってる、次の人もデカいの持ってる。親父がちょうど旅行してたから、さばき切れなかったぐらい。


 

── 作り方はお父さんから習ったんでしょうか。

山中基本は親父の作ってるのを見て覚えた、土塊ぶん投げられながら。忙しかったからね。
「こうやって作れ」って言われたことねえな。やる気がねえとこういうの作れねえから、どうこう言わねえよ。

作る技術を身につけるまでは大変だけど、この商売は楽だよな。ムキになっても売れるもんじゃねえし

俺、意外とあんまりやってねえんだ。普段は子供たちが野球やってるの眺めてっから。他も自由な親ばっかりで、一緒に飲んでも面白れえんだよ。

窯焼きは寝てらんない。大変だけど楽しいんだよ。

内部に大人が何人も入れるほど大きな窯

── はにわ専門店で大変なのはどんなところですか

山中作るのもやるし焼くのもやるけど、窯焼きって大変なんですよ。

── 窯焼き……。

山中まず、窯に入れるのが大変。デカいはにわは焼いたときパリンと割れちゃうので、かなり厚く作ってあります。だから重い。窯の中へ引きずりこむのが大変なんです。


 

山中はにわってかなり無理してあんですよね。焼く前に傷があるって分かってても焼くし。デカイのがボンボン売れるような世界でもないから、うちで置いとく用に焼いちゃう。デカイのはもう新しく作る必要ないぐらいありますよ。

── どれぐらいの頻度で焼くんですか?

山中今は月1回焼くかどうか。デカい窯の燃料は(まき)。15~6時間は燃やしてるから寝てらんないですよ。煙も出るし苦情にならないように夜燃やします。

しかも、窯のなかの湿気を完全に取るために、燃やす前に1週間ぐらい炙ってるからね。燃やして終わりってわけでもない。

小型のはにわは灯油で燃やせる小さな窯で焼いてます。そっちは燃料が灯油で、寝てても大丈夫。


 

── そんなに手間がかかるなんて知りませんでした。

山中温度が下がらないように、一晩中、隙間から薪をくべるのよ。サウナみたいに熱くなるし、がぶがぶ水飲みながら休みなく

でも、夜通しやってるのが楽しいんだよ。デカいのがヒビ割れなく焼けると嬉しいよな。

教科書に載るわけじゃないし、面白いのを作ってる。

── はにわにモデルはあるんですか?

山中そっくりに作ってるやつもありますよ。青森とかの博物館で本物見てきて、再現してるものもあります。

でも、ほとんど自分らで創作してますね。教科書に載せるわけじゃないし、お客さんに売るやつだから面白いのを作ってます


 

── たしかに面白いのや可愛いの多いですね。

山中良い物かどうかなんてお客さんが判断して買ってくんだから、能書きなんて良いんだよ。

楽しいもん作って、面白れえこと話してりゃいい。どっちみち、いい加減にやったら作れねえから。

土が悪い時は焼いたらバラバラなんてこともある。割れるなんて当たり前なんだから、割れなくなるまで作りゃいい。

「こういう風に作ってるから、いい品物だ」とか陶芸家は言うかもしれねえけど、セールス文句だよ。時間かかって大変だってのもセールス文句。売れねえと話しになんねえ、売るのがすげえ


 

── 良い悪いというより、売れるか売れないかが大切だと。とはいえ、お気に入りの作品はあるんでしょうか?

山中俺が気に入ってるってのはないよね。昔は「これは出来がいい」とか思ってたけど、今は思わないよね。「あれ?これでいいの?」っての買ってくお客さんもいるし、それぞれの好みだね。

同じ物がいっぱい並んでるから「良いの選んでください」って頼まれることもあるけど、絶対選ばない。お客さんが良いと思ったやつが良いやつだよ。

ケンカになるほど燃えるようなものがないとね。

── 製造販売以外に、はにわのお仕事はありますか

山中売るだけだと大変だから、陶芸教室なんかも出張で行きますね。
歴史館とか小学校から、そういう教室の依頼がいくらか来るんです。
うまい人はそれだけでも商売になんのかな。そういうのの積み重ねでなんとかやってます。

── 長年やってますし、やっぱりはにわがお好きなんですか?

山中普通に生活するんなら勤めてたほうが楽なのかな。
でも、この商売っていうか、ここにいるのが楽になっちったんだよな。


 

山中昔はしゃべるのなんか嫌いだったけど、最近はここで1日中近所の人と喋ってるよね。

前はそれが親父だったんですよ。親父の友だちがここにいっぱいいたんですけど。仕事じゃないんだけど、何か繋がることもあっから。

かなり人間柔らかくなったと思うよ。昔は金になんねえことはしねえって主義だったから(笑)。

── 柔らかくなった

山中前はお客さんとよくケンカしてたよね。
「たいした物じゃねえから、もっと安くなんねえのか」とか言われると本気になってケンカして。若いうちは軽く見られてたのかもしれない。

でも、そういうのもカッカきて面白れえんだよ。燃えるようなものがねえとな(笑)。

まとめ

はにわもバブル崩壊の影響を受ける。はにわは余った資金で買うものだから。

作品の善し悪しはお客さんが決める。作り手がどうこう言うことじゃない。

デカいはにわは商売やってる人が買う。「はにわのところ」と言えば分かりやすいから。

窯焼きは一晩がかりで大変。でも楽しい。

はにわ屋はテレビ東京と相性がいい。

はにわがばんばん売れはじめたら、景気が上向いてる証明だ。

株価に変わって、はにわ売上数がニュースで報道される日も近い。

取材・編集/松澤茂信(別視点)+プレスラボ
写真/斉藤洋平(別視点)