フランス帰りのガラス工芸作家。 子どもに伝える「創造クラブ」の本当の意味。

多摩美術大学の立体デザイン科ガラスコースを卒業し、フランスでも勤務経験のあるガラス工芸作家の女性が、茨城県の片田舎である里美地区に夫ともに移住。
ガラス工房で作品制作を行いながら、幼児に向けたものづくりワークショップを開催しているとのこと!

自分の原体験やフランスでの経験を踏まえ、子どもならではのクリエイティブを育む活動に迫ります!

フランスから帰国。
「嗅覚」「感覚」で選んだ移住の地。

茨城県常陸太田市北部にある里美地区で、ガラス工芸作家として活動する塩谷直美さん。
1993年から95年に夫であり、同じ工芸作家でもある鵜澤文明さんとともにフランスに渡り、国際ガラス造形センター(CIRVA)に勤務して技術を磨き、コールドキャスト技法(※)によるオブジェや器を制作しています。
その作品は、女性らしい優しくて繊細な曲線や色合いで、抜群のセンスとホッと癒される雰囲気が両立し、独特の雰囲気を醸し出しています。

※「コールドキャスト技法」耐火石膏などで作った型の中にガラス片を詰め、電気炉で型ごと焼き上げる技法。常温までゆっくり冷まし、粒と粒の間に入り込んだ空気が細かい気泡になってガラスの中に残るため、半透明となる。

コールドキャスト技法の半透明が活きるガラスの皿。シンプルな形・色ながら、奥深い味わいがあります。

コールドキャスト技法の半透明が活きるガラスの皿。シンプルな形・色ながら、奥深い味わいがあります。

オブジェ「待つ椅子」。緊張、イライラ、くつろぎ。いろんな気持ちをのせて並ぶ待合室の椅子を表現しています。

オブジェ「待つ椅子」。緊張、イライラ、くつろぎ。いろんな気持ちをのせて並ぶ待合室の椅子を表現しています。

直美さんは、もともとは東京生まれ、東京育ち。多摩美術大学のガラス工芸科を卒業後、フリーのガラス作家として活動していました。
結婚後に夫妻でフランスに渡り、帰国する際に「自分たちが気持ちよく制作できる静かな環境」を探して出会ったのが、茨城県の里美地区でした。

直美さん
私は東京、夫は千葉の出身。両親が年齢を重ねてきたこともあり、すぐにお互いの実家に帰れる関東近辺で、ガラス制作に集中できる環境を探していました。
茨城を選んだのは、嗅覚というか、感覚ですね。たまたま入ったガソリンスタンドで道を聞いたら、すごくていねいに教えてくれたり、たまたま入ったうどん屋さんも親切だったり…。なんとなく、主人と『茨城いいね!』って(笑)。
里美を訪ねた友だちの勧めもあって、当時の里美村役場に土地の事情を聞きに行ったら、本当に良くしていただいて。無事に土地が見つかり、1996年の春に移住しました。

「親へのおみやげは作らない」
子どもが自ら考える、ものづくりのワークショップとは?

里美に移住後、男の子が誕生し、ガラス制作と子育ての日々を送ることになった直美さん。
里美の人はとてもアットホームで、移住してきた人を明るく迎える雰囲気があり、着実に地域の人々との関係を築くことができました。
地域の人ともっと多く関わりたいと、子どもを連れてワークショップに参加したり、幼児教育について学んだりしているうちに、「自分ができることを、この地域の中で活かしたい」と考えるようになります。

直美さん
自分ができることと言えば、やはりアート、美術です。
息子が3歳になったころ、幼児向けの美術教育をやってみようかと思い、まずは月に1回、子どもたちがものづくりの楽しさやアートの面白さを遊びながら感じることができるワークショップ “創造クラブ”をスタートさせました。
最初は、近くの公民館を利用して、親子参加で始めました。

自ら公民館を手配して開いていた創造クラブは評判を呼び、息子さんが通う保育園の園長先生から「ぜひうちの園でもやってほしい」と依頼が入ります。
活動は息子さんが保育園を卒園してからも続き、年に8回、12年間継続して開催されています。

緑の紙の内側に色紙を張り、両手を開くとチョウチョに変身! ※個人が特定できないように処理してあります

緑の紙の内側に色紙を張り、両手を開くとチョウチョに変身!
※個人が特定できないように処理してあります

直美さんが創造クラブの活動をする際に心がけているのは、できるだけ大人が手を貸さず、ものができることの不思議さ、面白さを体感してもらうことです。
直美さんの最初のものづくり体験も、とても単純でしたが、ものづくりの不思議さ、面白さを感じたものでした。

直美さん
私の最初のものづくりの記憶は、幼稚園のころ。水と新聞紙を入れたポリバケツに液体ノリをたくさん入れてかき混ぜ、手づくりの紙粘土をつくったのですが、『よくこねるといい紙粘土になるから!』と言われ、1週間ぐらい毎日こねるんですよ。ただそれだけ(笑)。
ですが、かわいらしい幼稚園の先生がグイグイとドロドロの液体をかき混ぜる姿が今でも映像のように記憶に残っていますし、ただの新聞紙なのに、最終的に紙粘土になるっていうのが面白かったんですよね。

その原体験の記憶もあり、あえて詳細を決めず、現場で子どもたちに考えてもらうところからスタートしました。
たとえば、ダンボールを軽トラックに山のように積んで、「このダンボールどうやって分ける?今日はこれで何する?」と聞きながら、最終的にお城をつくるプログラム。
新聞紙をドサッと抱えて持っていって、子どもたちにどうしたらいいいかを提案してもらいながら一緒に遊ぶプログラム。

それぞれが好きな色を塗って、好きなかたちをくり抜いてつくったダンボールの家。 ※個人が特定できないように処理してあります

それぞれが好きな色を塗って、好きなかたちをくり抜いてつくったダンボールの家。
※個人が特定できないように処理してあります

ものづくりワークショップと聞くと、家で飾れるものや、暮らしに役立つ小物など、“おみやげ”を持って帰るイメージがありますが、直美さんは「親が喜ぶおみやげは作りません」とハッキリと言い切ります。

直美さん
私から子どもたちに『これを作るとおもしろいでしょ?役立つでしょ?』と言いたくないんですよね。
要するに『こうしなきゃいけない、こういうことをすると大人が喜ぶ』という発想をしてもらいたくないわけです。子どもたちには、いろんな可能性があるんですから。

まったく何もないところから、子どもたちが自分の頭で考えて感じることを大切にしています。
子どもにはもともと創造力があるから、できるだけ大人が手を貸さないほうがいいんですよ。
今どきの子どもは、自分が欲しいとか興味があるとか感じる前に、子守代わりにアニメやゲームが与えられてしまうことも多いですよね。
幼児期にゲームなどの激しい音や動き、色彩に慣れてしまうと、もともとある創造力がうまく育まれないのではないかと危惧しているので、せめて創造クラブでの活動では『与えられずに自分で考えることは楽しい』という体験をしてほしいです。

足の裏に絵具をつけて、白い紙のうえを歩きまわり絵を描きます!

足の裏に絵具をつけて、白い紙のうえを歩きまわり絵を描きます!

世の中にはいろんな大人がいる。
変わった大人がかき回すことも意味がある!

移住した里美で、長年にわたりワークショップを続けてきたのは、子どもたちにものづくりの楽しさや、自分で考える楽しさを知ってほしいとの思いに加え、もうひとつ、この場所で暮らしたからこそ見えた理由があります。

直美さん
私自身は、東京で生まれ育ち、個性的な人が集まる美大で学び、多種多様な国籍・人種・宗教・文化を持つ人が集まるフランスで暮らしてきました。
世の中には本当にいろいろな人がいますが、暮らしてみてわかったんですがこの地域は大人の種類が少ないんですよね。
私のように変わった大人がたまに来て、ふだん先生が言わないようなことを言ってかき回すのも面白いじゃないですか(笑)。
世の中にはいろんな大人がいるっていうことを知ってもらえるだけでも意味があるかなと思っています。
「変わった大人」を自称する直美さん。いえいえ、ものづくりの本当の楽しさを教えてくれる先生です!

「変わった大人」を自称する直美さん。いえいえ、ものづくりの本当の楽しさを教えてくれる先生です!

直美さんは、ワークショップの開催の他にも、工房のウェブサイトを立ち上げたり、「塩谷直美の硝子屋通信」を毎月発行したり、地域からの情報発信にも力を入れています。
また、ものづくりやアートとの接点を増やし、交流を深める意味合いもあり、2010年からは年に2回(5月と11月)作品の展示販売を行う「オープンスタジオ」を始めました。

感覚に導かれてやってきた里美で、アートの種を巻き、子どもたちに「あのとき、夢中になって作って楽しかった」との記憶の断片を残している直美さん。
その活動を知ると、里美の風景が、そしてその中に佇むガラス工房が、より幻想的でアーティスティックに感じられます。

オープンスタジオの開催を機会に、アートを感じられる里美を訪ねてみませんか?

オープンスタジオでは、直美さんとご主人の文明さんの作品が並びます。お二人が暖かく迎えてくれます!次回は2017年の5月末に開催予定。

オープンスタジオでは、直美さんとご主人の文明さんの作品が並びます。お二人が暖かく迎えてくれます!次回は2017年の5月末に開催予定。

小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。
小林 弘和(こばやし ひろかず)

小林 弘和(こばやし ひろかず)

WEBディレクター/ライター・編集者/地域プロデューサー

WEB制作会社勤務時代に移住・交流を応援する官公庁系WEBメディアのサイトを運用。北海道から鹿児島まで様々な地域で活躍する移住者や取り組みを取材。現在、企業サイトや自治体サイト制作のほか、地元でもある茨城県常陸太田市里美地区の地域WEBメディアを運営。その他、野外映画などの地域イベントも企画。東京と茨城の2拠点で活動中。