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渋谷のショップ店員が、村のグッドマザーになるまで。

30種以上の農作物を作る農家であり、炭焼きアクセサリー作家であり、レンタルスキー・スノーボードショップ経営者であり…と、群馬県片品村でパワフルに暮らす瀬戸山美智子さん。
村のネットワークを活かしながら、楽しく子育てをする「お母さん」でもあります。
都会で暮らす渋谷のショップ店員だった瀬戸山さんが、村のお母さんになるまでのストーリーとは?

村の「お母さん」にあこがれて移住。
「理想のお母さん」を見つける。

渋谷でショップ店員をしていた瀬戸山さんが地域への移住を考えたのは、アトピーに悩んだことがきっかけでした。
アトピーを身体の内側から改善しようと、「食」についてあれこれ調べていくうちに、「農」の現場をどうしても体験したくなり、インターネットで未経験でも飛び込める場所を検索。
片品村でボラバイト(ボランティア+アルバイト)を募集していることを知り、思い切って飛び込みました。

瀬戸山
最初は家庭菜園をしているペンションのお手伝いから始めました。
農家の仕事は想像していたよりもずっとずっと大変!商売ですから、趣味でかじるのとは全然違います。
毎日クタクタで、楽しむなんてとてもとても。
でも、地元のお母さんたちは、自分たちも疲れているはずなのに、とても明るい!仕事が終わると『ごはん食べてって』と気軽に家に呼んでくれて、畑でとれた野菜でさっと料理をつくって楽しくもてなしてくれる。
素敵だなあ、こんなお母さんになれたらいいなあ、とあこがれました。
クタクタになりながらも農業を実地で学んだ瀬戸山さん。 今では30種以上の自然農法の野菜をつくっています!

クタクタになりながらも農業を実地で学んだ瀬戸山さん。
今では30種以上の自然農法の野菜をつくっています!

いつも明るい片品村のお母さんたちが瀬戸山さんにとって「理想の女性像」になり、定住することを決意。
農業のかたわら、自分のような若い世代が、片品村のお母さんたちから暮らしを学ぶ、人生を学ぶ……そんな場があったら素敵だな、との想いから、瀬戸山さんは「グッドマザープロジェクト」を立ち上げます。

片品に家を借り、都会の人を受け入れて村の暮らしを共に学ぶ活動に打ち込みました。
プロジェクトを通じて、同じく片品村に移住してきた男性と知り合い、結婚を決めます。

新婚の住まいは、崩れかけた…牛小屋!?

瀬戸山
夫と一緒に暮らす新しい拠点を探していたら、私のやりたいことを理解してくれている村の人が、今の家を紹介してくれました。
『家』と言っても、最初はボロボロの牛小屋(笑)。
2年半かけて仲間と一緒に自分たちの手で改装しました。
設計図も何もなくて、廃材などあるものでつぎはぎしていったから、もう一度同じものを作ってと言われても、絶対無理です(笑)。
私が作った炭焼きアクセサリーやレンタルスキー・スノーボードのお店も併設していて、お店の屋号は『iikarakan(いいからかん)』。
尊敬する片品のお母さんたちの口癖で、『いい加減』という意味です。
手を抜いておざなりにすることではなく、やりながら『適当』で『良い加減』を探す、ということだと思っています。
仲間が集う場所にもなっているiikarakan。 牛小屋を改装したとは思えません!

仲間が集う場所にもなっているiikarakan。
牛小屋を改装したとは思えません!

横浜市と同じ広さに散らばる20人の子供たち。
このままだとみんなで一緒に遊べない!

結婚してほどなく出産。
片品村での子育てがスタートすると、人口が少ない地域ならではの課題に悩み始めます。

瀬戸山
子育てを始めて、この村には育児のための情報があまりないことに気づき、とても不安になりました。
困ったときにどうすればいいのか、特に土地勘のない移住者にはよくわからない。
また、子どもが少なくて、子どもが安心して遊べる場所が少なく、公園など子ども用の施設も老朽化しているんです。

瀬戸山さんのお子さんと同い年の子は、村内でわずか20人。
豊かな自然に恵まれた村ですが、子どもの多い都市部に比べると、年の近い子どもたちで遊ぶ機会は少なくなりがちでした。

瀬戸山
最初はブーブー言っていたのですが、都会にないものが、片品にはある。
それは『助け合いのネットワーク』です。都会にある家事代行や一時預かりはないけど、体調が悪くて私がしんどいときは、子どもをお隣さんやママ友が面倒を見てくれる。
この人のつながり、片品の人の良さを活かせば、これまでになかったものをつくることができるはず!と考えました。

瀬戸山さんはまず情報不足を解消しようと、移住者の友だちや村と一緒に子育て支援事業や医療機関などの情報をまとめた「片品村の子育てブック」をつくりました。さらに、子どもが安心して遊べる場所づくりに取り組みます。

育児情報不足を解消しようと、 片品村と協業して制作した「片品村の子育てブック」。

育児情報不足を解消しようと、
片品村と協業して制作した「片品村の子育てブック」。

瀬戸山
片品村は、横浜市とほぼ同じ広さがあるのに、子どもの数は本当に少ない。
子どもが友達のところに遊びに行くにも、車がないと無理なんですね。
年齢の近い子ども同士で遊ばせたいと、ママ友三人で育児サークル『ムラノコ』の活動を始めました。

「ムラノコ」の活動は、未就園児が外で遊べる場所の開拓や下見から始まりました。
メンバーのママ友同士でアイディアを出し合って、場所と企画テーマを決める。
村の子どもたちへの参加呼びかけ、当日の進行、すべて自前の手作りイベントです。

瀬戸山
立ち上げて一年目のムラノコは、外遊びを充実させました。
豊かな自然に恵まれた土地だからこそ、季節を感じられる外遊びをしてほしいな、と思って。
親と子が家の中でずっと顔を突き合わせているよりも、自然の中で子ども同士が一緒に遊ぶことがどれほど素晴らしいか、どれほど創造的か、そのことを子どもも親も実感してもらえたと思います。
「あそびとおむすびの会」。 大自然の中で奏でられる音楽も一緒に楽しみました。

「あそびとおむすびの会」。
大自然の中で奏でられる音楽も一緒に楽しみました。

「大豆の脱穀」企画。 子どもたちもせっせとお手伝い!

「大豆の脱穀」企画。
子どもたちもせっせとお手伝い!

動かないとわからない!
まずは「いいからかん(いい加減)」に動いてみよう。

「ムラノコ」の活動は、同じ想いを持っていた小さな子どもを持つ家族に広がっていき、順調に参加者が増えていきます。
サークルの規模が拡大すると、中心メンバーの負荷は高まるのが通常ですが、「ムラノコ」はその逆でした。

瀬戸山
「活動が定着してくると、私たちは企画や準備に以前ほど時間や労力を費やす必要がなくなってきました。
遊び仲間が自発的に集まり、いろいろな企画が生まれはじめます。
新聞の取材記事を読んで、活動に共感して参加や協力をしてくれる人も増えてきました。
私たちが何もしなくても、『誰々さん家の庭で遊ぼう』『天気がいいから川へ行こう』『お昼ご飯を持ち寄って外で一緒に食べよう』といった動きが自然に生まれるようになりました。
『ムラノコ』がつくりたかったのは、こういう状態だったので、とてもうれしいです。
3人のママ友ではじめた「ムラノコ」。 シーズンオフのスキー場も、安心して遊べる場所のひとつです。

3人のママ友ではじめた「ムラノコ」。
シーズンオフのスキー場も、安心して遊べる場所のひとつです。

「ムラノコ」を立ち上げた時には、クラウドファンディングで資金を募り、活動の中で見つけた「子どもの遊び場マップ」を発行しようという計画がありました。
ですが、活動を続けるうちに、マップを作ることが目的なのではなくて、みんなが自発的に動いてくれる状態こそが、ほんとうに作りたかったものだと気づいたんです、と瀬戸山さん。

瀬戸山
「私たちが大切にしているのは、まずは自分たちで動くこと。やってみたら違った、でもいい。動かないとわからないことってたくさんあるから。
これからも良い意味で『いいからかん』で行こうと思っています。
考えてばかりよりも、まずは自分たちで動こう、動かなきゃ始まらない。
ないものはつくれるのが片品の良さですし、私は家も仕事も育児環境もすべてつくってきました。
だから、毎日の暮らしが楽しい。つくろうとして違っていたら、そこでまた次を考えればいいんですよ。
『いいからかん』にどんどん開拓していった方が楽しいですよ、自分の人生なんだし。

たったひとりで縁もない片品村に移住してきてから13年。
そう言って笑う瀬戸山さんの表情は、瀬戸山さんがかつて憧れた「いつも明るくて元気な片品のお母さん」の顔になっていました。

瀬戸山さんや仲間たちが、豊かな自然の中でのびのびと子育てを楽しむことができる、片品村に出かけてみませんか?