大切な服を今に合わせて着続けていく。服のリメイクが伝える想いとスタイル

鳥取県倉吉市で服のリフォーム・リメイクを手がけるお店「Atelier78」をオープンさせた前田夏子さん。リフォーム・リメイク大手企業に勤めた後、Uターンで起業した前田さんが大切にしているのは、服に込められた想い。大切な服を着ていくにはどうすればいいか、お客さんに寄り添い、最新の流行も取り入れ、服に再び命を吹き込んでいます。小さな町の小さなお店で丁寧な仕事をされている前田夏子さんにお話を伺いました。

伝票の先にいるお客さんに想いを馳せて服を直す日々

前田
母が洋服を縫ってくれていたんですよ。
小さな頃から母の手仕事をみていたから、自然と興味もわいて、自分で人形の服をつくったりしていましたね。
そういう意味では、今のこの仕事につながっていると思います。

鳥取県倉吉市に生まれ、服飾の専門学校へ進学後、大手の洋服リフォーム会社に就職した前田夏子さん。
服に関われる仕事ができると喜んでいましたが、どうにも勝手が違います。
学生時代は自らデザインした服を自分でつくっていましたが、リフォームの仕事は目の前の服を注文伝票の指示に沿って仕立て直すというもの。
「ウエストを○センチ細く」と言われても、頼んできた人はどんな体型で、どう直すのが正解なのかわかりません。

最初は工場勤務だった前田さんですが、お客さんの顔が見える店頭での勤務を希望し、百貨店に配属。
目の前のお客さんと伝票の数字がようやく繋がりはじめます。

前田
伝票の数字を見て、その人がどんな体型かわからないとダメだっていうんですよ、でもだんだんわかってきました

そんな前田さんの一つの転機が、和服のリメイクをする大阪の部署に配属になったことでした。
ちなみに「リフォーム」は、裾上げやウエストをつめたりするサイズ調整のことで、「リメイク」はデザインを変更して作り直すことを指します。

今までリフォームばかりやってきた前田さんにとって、目の前にある和服をどうデザインするか考え、提案することは非常に楽しい作業でした。

子どもの頃から作ってきた洋服作りへの情熱と、リフォームの仕事で向き合い続けたお客さんの体型にあったリフォームの技術が結びつき、あるものを蘇らせるリメイクの仕事に没頭していきました。

前田さんによるノーカラーコートへのリメイク。

前田さんによるノーカラーコートへのリメイク。

いきなりUターン、勢いでチャレンジショップに出店!

リメイクの仕事に励んでいた前田さんでしたが、ふと立ち止まって考えてみると思い出すのは故郷倉吉の家族のこと。
生まれ育った地にいつかは帰りたいと思ってはいましたが、ここで思い切って退職を決意します。

とは言うものの、ノープランで倉吉に戻ってしまった前田さん。
職業訓練校でパソコン操作を学びますが、やはり今まで自分がやってきた技術を生かした仕事がしたいとの想いを強くしていきます。

前田
職業訓練校の先生に、やはり服飾の仕事がしたいと打ち明けると、「そういうやりたい仕事は、こっちでは就職先がないよ」と言われてしまい(笑)、就職より起業しかないと方向性がみえてきました。そうしたら「起業、やってみましょう!」と動いてくださって、倉吉市商工会議所がやっていたチャレンジショップに応募、面接や手続きはありました約3ヶ月でオープンまでいきました。

チャレンジショップは倉吉市の観光スポット白壁土蔵群のほぼ中心に位置します。
伝統的建造物保存地区にも指定され、漆喰の白い壁に小川にかかる石橋が連なる情感たっぷりの場所。

『孤独のグルメ』で有名な鳥取県出身の漫画家で先日亡くなった谷口ジロー氏の作品『遥かな町へ』の舞台ともなっています。

お客さんについて「最初は期待していなかった」という前田さん。
確かに大阪や広島など大都市圏に比べるとお客さんの絶対数は少ない倉吉市。
それでも、白壁土蔵群の中心部の目立つ位置にあるため、「こんなお店があったんだ」と、Facebookや口コミで徐々に評判が広まっていきました。

倉吉の白壁土蔵群。前田さんのお店はこの道の一本隣にあります。

倉吉の白壁土蔵群。前田さんのお店はこの道の一本隣にあります。

直してみたけど着なかったわ、って言われるのが一番嫌なんです

1年間のチャレンジショップ、半年を過ぎたあたりで手応えを掴んだ前田さん。
もうこの勢いのまま自分の店を持たねばと、近くの物件を探します。
そこで出会ったのが、チャレンジショップのほど近く、白壁土蔵群の少し裏手にある元畳屋の物件でした。

急ピッチの改装に準備。そして、2015年11月に「atelier78」をオープンさせます。

前田
白壁土蔵群の観光地ながら落ち着いた雰囲気が好きになって、自分のお店もここで開こうと考えました。
お客さんは百貨店などにいた時に比べて、男性が多かったり、年齢層が若かったり、勝手が違うことはありますが、倉吉出身なので話しやすいですね。
百貨店の時には私もお客さんもピシッとして緊張状態ですが、こちらでは肩の力を抜いて話せます。
顔を見にくる、世間話をしにくるという気さくな関係性のなかで、掘り下げたところまでお話が伺えて、提案もしやすいですね

リフォーム、リメイクしながらも着続けていきたい服は、その人にとっては思い入れ深いものばかり。
だからこそ、その人の「想い」を大切にする前田さん。「絶対にこれを直して着ましょう」とは自分からは言わないという前田さん。
「直してみたけど着なかったわ、って言われるのが一番嫌なんです」。

リメイクであっても古さが残ってしまう部分などメリットデメリットの説明し、見積もり額と新しい服を購入する額をお客さんに考えてもらって、お客さん納得のうえで仕事をしています。
遠方のお客さんの依頼にも丁寧な梱包とお手紙を添えて、一人一人のお客さんを大切にするからこそ、感度の高い口コミが広まっていっています。

前田
ある時、亡くなった旦那さんが唯一贈ってくれたというカシミヤのコートをどうしても着たいというお客様がこられました。
しかし、どうみてもブカブカでサイズが全くあっておらず、これを直すとなると全体のバランスから何から調整しないといけません。
3万円で引き受けてはみたのですが、煮詰まってしまい、大阪の師匠を訪ねました。
自分の見立てが間違ってなかったことが確認でき、ほっとしたところで、師匠ならいくらつけます?と尋ねたら5万円と(笑)。
これはやはり自分でやるしかないと思い、苦心の末、仕上げました。
お客様にも大変喜んでいただけて、旦那さんの法要に着られたと聞いています
Atelier78 リフォーム、リメイクの他に、オリジナルの服に雑貨も販売しています。観光客がふらりと訪れることも。

atelier78 リフォーム、リメイクの他に、オリジナルの服に雑貨も販売しています。観光客がふらりと訪れることも。

人に合わせて服も変わる、自分にぴったりの服を着てほしい

前田さんが想いを受け取ってリメイク・リフォームし、再び息を吹き返す服たち。
今、着られる服にするために努力を惜しまない前田さん。
雑誌での情報収集はもちろん、大阪の百貨店にも定期的に訪れ、ヤング・中間層・ハイブランドそれぞれの服の流行を細かくチェックしています。
リメイクの要望によっては、その都度大阪の百貨店勤務の知り合いに連絡を取り、最新のデザインを取り入れていきます。

前田
心地よく気軽におしゃれができるものを提供したいと思っています。
ちょっと古いもののほうが、生地がよかったりするのですが、今はなんでも捨ててしまう。
いいものを1つ買って長く着る。ただ年齢によって体型や流行も変わるので、リフォーム、リメイクしながら、今の自分にぴったりの服を着てほしいですね

リフォーム・リメイクの仕事もしながら、オリジナルの洋服の製作、販売にも力を入れていきたいと話す前田さん、ブランド化も目指しています。

小さな町の小さなお店だからできる、丁寧な仕事と、丁寧な服との付き合い方。思い出の服を携えて、風情ある倉吉の街並みを訪ねてみませんか?