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本気だから、あと800万円もらうより地域に残ることを選んだ男

本気だから、あと800万円もらうより地域に残ることを選んだ男

かつて東京の広告代理店に務めていた佐々木正志さんは、鳥取県大山町に住んでいます。
オレンジ色のジャンパーをトレードマークに、地域の人からは「まーしー」と呼ばれ愛されている28歳です。

まーしーはある時、目にした鳥取県大山町の「観光プロデューサー募集」の記事に心奪われます。
これまで縁もゆかりもなかった大山町でしたが、記事を見たその週末には現地に足を運んでいました。

そして美しい自然と、そこで生きる人びとの魅力にすっかり惚れ込んだ彼は、観光を担当する地域おこし協力隊として人の魅力を発信する活動を始めます。
1枚目

しかし、
「本気で自分だからできるこの町の観光プログラムを作りたい」
との想いから、たったの1年で地域おこし協力隊を卒業して独立する道を選びました。

年間200万円の人件費と、200万円の活動費を捨て、地域に残って活動する道を選んだ理由と挑戦を紹介します。

雪景色と小春日和が両立する町、大山

東京生まれ、東京育ち、みんなからは「まーしー」の愛称で呼ばれる佐々木正志さん。
広告代理店の営業としてバリバリ働いていたある日、目を奪われた「観光プロデューサー募集」の求人記事。

募集しているのは鳥取県大山町(だいせんちょう)は初めて聞く名前でしたが、地域の魅力を発信するプロジェクトの立ち上げに関われるという仕事内容に興味を持ち、
「応募するにしろ、まずどんな町か知らなくては」
と思い気がつけば、週末には鳥取に足を運んでいました。

2枚目

まーしー
学生時代から全国各地を自転車で旅してきて、田舎のいいところは知っているつもりだったんですが、大山はめちゃくちゃ狭い範囲に、いい部分が凝縮されてギュっと詰まっているんです。

山もある、海もある、川もある。標高300mくらいに広がる芝畑は、ものすごく眺めがいいんです。夜は流星群が来ていなくても流れ星がみれる。

その凝縮された資源には四季もあって、春夏秋冬のしっかりとした色があるのも魅力です。

しかも0-1709mという大山の立地条件により、すべての見頃が長い間続くんですよね。紅葉しかり、桜しかり、特に蛍は大山全域で見れば見頃が二ヶ月もあることには驚きました。
一番感動したのは、季節の変わり目には、二つの季節を同時に味わえるところです。春と秋を掛け合わせた風景、秋と冬を掛け合わせた風景が広がるんです。

伯耆富士とも呼ばれる大山(だいせん)。中国地方一の高さを誇り、登山客も多い。

伯耆富士とも呼ばれる大山(だいせん)。中国地方一の高さを誇り、登山客も多い。

まーしー
まるで漫画の世界ですよ。海側は小春日和にも関わらず、山側は雪景色。紅葉に降りかかる雪景色。
「え、これ、すげぇな」と思いました。

大山では、若いUIターン者が中心となって地域づくりに取り組む「築き会」のイベントにも参加。これは旧病院をリノベーションした「まぶや」を拠点に、芸術家を呼んで滞在&制作をするというプロジェクトでした。

若い移住者と地元の方がにぎやかに集う雰囲気がいいなと感じたまーしー。田舎は閉鎖的ではないかという印象を持っていましたが、大山町の方はオープンに心を開いて話をしてくれました。

確かな手応えを感じ、すぐに地域おこし協力隊に応募。
そしてまーしーは、2015年4月から地域おこし協力隊として大山町に着任します。

地域おこし協力隊という手段に頼らないことで生まれた、地域からの信頼

大山町に着任後、まーしーは精力的に活動を始めます。足を使って大山各地に足を運び、その自然や人といった魅力を発掘。

お城付きシェアハウス「のまど間」に住んでネットワークを広げ、旅行業務取扱管理者の国家資格をとり、東京の友人らを100人以上も呼び込んで大山を案内し、観光プランを考えていきました。

もともとまーしーが考えていたのは、任期終了の三年後に自分がいなくなっても、他の人でしっかり回せるツアーでした。しかし、それを優先するとありきたりなツアーしか企画できません。大山町に誰にでも出来ることをしにきたわけではない、地域から求められていることに自分なりの付加価値をつけてカタチにしていきたい、と思い始めたまーしー。 また、二年目以降の協力隊の仕事は、大山の観光の現場のサポートから徐々に全体のプロデュースに移り、まーしーがやりたかった現場で活躍する役割の割合が減ることも予想できました。

昔から、自分が心から納得していない仕事だと全力を発揮できないとわかっていたまーしーは、残り2年の任期を残して地域おこし協力隊を辞め、独立して活躍する道を選びます。

まーしー
僕の場合は自分の今まで積み重ねてきた経験のなかで「これをやりたい」というのがあって、それがたまたま協力隊という制度のなかにありました。

1年で協力隊を卒業したんですが、別に自分のやりたいことやスタンスは何も変わってないという感じです。

周囲にはずいぶん心配され、引き止められたそうです。
しかし一方で、一定の給与が出る協力隊という制度に頼らず地域に残ることを決めた姿勢に、地域の方はまーしーの覚悟を感じて、本気で協力してくれるパートナーが増えていきます。

東京の友人を大山に案内。これまで170人以上を大山に呼び込み、ガイドしています。

東京の友人を大山に案内。これまで170人以上を大山に呼び込み、ガイドしています。

オレンジの男が始めた、3つの事業


まーしーのイメージカラーはオレンジ。
初めての地域で少しでも覚えてもらうために、いつもオレンジの上着で活動をしていました。

そんなまーしーが独立してしかけたのがオレンジ・プロジェクト。大山町の魅力に触れる様々な入口と出口をメニューとして用意しました。

 Orange Space  大山の暮らしに触れることができる民泊事業
 Orange Trip  大山に住まうひとに触れる観光プログラム事業
 Orange Box  大山の暮らしを届ける通販事業

ターゲット層が異なる3つの事業を展開し、全範囲の客層に対応できるようにしました。

民泊事業は、ゲストハウスオーナー提供物件で、友人・紹介者限定向けのサービス。お客さんと一番近い距離で展開する、濃厚で実験的な体験です。

観光プログラム事業は、まーしーと想いを同じくする大山の魅力的な人がガイドとなるツアーを提供します。これが地域の人と観光できた人の中距離の関係の事業。

大山寺にて座禅体験。住職の協力で実現した国指定重要文化材の阿弥陀堂で心を清めるプログラム。

大山寺にて座禅体験。住職の協力で実現した国指定重要文化材の阿弥陀堂で心を清めるプログラム。

そして、大山で育った朝採れ野菜を通信販売で送るサービス。こちらは、大山にいなくとも大山を感じることができる遠距離型のサービスです

さらに特筆すべきなのは、どの事業も初期費用がほぼゼロなこと。これはまーしーが、自分の足で作り上げた大山町内外の人脈があってこそできたことです。
まさに、まーしーにしかできないプログラムとなっています。

また独立して動き出したことで活動にも思わぬ広がりも生まれました。
例えば、通販事業のOrange Boxが発展して東京の飲食店とのコラボレーションです。
お店にまーしーが訪れ、大山の魅力を出張して伝える「DAISEN Party」がスタート。東京だけでなく神奈川・千葉・山梨・広島・香川にも広がっています。

DAISEN PARTY 渋谷で開催。鳥取出身者たちが友人を連れて参加するなど新たな繋がりができています。

DAISEN PARTY 渋谷で開催。鳥取出身者たちが友人を連れて参加するなど新たな繋がりができています。

地域おこし協力隊が目的ではないから、地域おこし協力隊の理想形になれた

まーしーの原点は
「自分にしかできない大山の魅力を伝える観光プログラムを作りたい」
で、それは地域おこし協力隊になる前も後も変わっていません。

たまたま地域おこし協力隊という制度がきっかけとなりましたが、「やりたいこと」を大事にしたいからこそ1年で辞めて独立する道を自然と選んだのでした。

今年(2016年)の4月に独立したまーしー。それぞれの事業は確実に動き始めました。
農家の手伝いをしながらですが、それも地域との信頼づくりでプロジェクトの一環でもあります。

2016年度は様々な可能性を試し、2017年度に本格的に事業としてスケジュール化し組み立てるとのことです。

地域おこし協力隊は、総務省の政策により、現在全国に3000人を超える地域おこし協力隊が全国各地の自治体に設置されています。
都会から田舎への人の流れをつくり、地域の課題解決に向けた起爆剤として2009年に始まりました。

隊員には年間200万の人件費(月収だと約16万)、200万の活動費(家賃含む。使い方は自治体と協議)が与えられ、最大3年間の任期で活動をします。

7枚目

ただし、縁もゆかりもない地域で3年間のうちに仕事をみつける、もしくはつくることは簡単なことではありません。
任期終了後、約6割が同じ地域に定住という数字が出ていますが、これを多いと見るか少ないとみるかは判断が分かれるところです。

まーしーの活動のポイントは、「地域おこし協力隊になりたい」とは思っていなかったという点です。
協力隊はあくまで入り口であり、やりたいことやポストキャリアが見えていなければ、せっかくの活動が自分にも地域にも残らず、意味が薄いものとなってしまいます。

「やりたいこと」に向けて一直線に走り続けるまーしー。協力隊を1年で辞めたにも関わらず、地域で仕事をつくって活動するその姿勢は地域おこし協力隊の理想形です。
のんびりゆったりの田舎暮らしとは程遠い生活ですが、そのアツい想いは、地域を、人を、確実に動かし始めています。

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

民俗学者・ライター

専門は祭り。島根県大田市で山村留学を絡めた地域おこしに従事。