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赤字でも、地震で傾いても諦めない。鳥取で作る消費しない本屋 – 最新状況あり

半農半Xで、本屋をやろう!
東京で学生をしていた森哲也さんはある日、思いつきます。

自分で食べるだけの野菜をつくり、本屋でわずかなお金を得られれば。
そんな誰もが抱くフワッとした夢を、森さんは無謀にもそのまま実行しました。
たまたま縁のあった鳥取県湯梨浜町の東郷池のほとりに倉庫を借り、本屋に改修を始めたのです。

ですが、森さんは大工素人。食いつなぐためにアルバイトでいっていた左官職人の方に呆れられながら、技術を教わり、本屋づくりを進めます。
鳥取に移住して4年。2015年10月に本屋「汽水空港」をオープン。

店内にはZINEやカウンターカルチャーの書籍を取り揃え、イベントも次々に開催しています。

そして今、森さんは新たなプロジェクトに向け、アルバイトを続けながら、DIYを実践中です。
お金に頼らず、技術もなく、スタイルだけで立ち向かう現代社会へのカウンター。

書店激減時代に超トンがった本屋を地方に作る森さんの挑戦は続きます。

森さん手作りの本屋「汽水空港」。松崎駅から徒歩5分。目の前には東郷池が広がります。

森さん手作りの本屋「汽水空港」。松崎駅から徒歩5分。目の前には東郷池が広がります。

将来を悩む東京の大学生が、とある本屋と本に出会う

20歳の頃、下北沢で古着屋とか巡っていたら、ある時、気流舎(きりゅうしゃ)っていうカウンターカルチャー専門の古本屋に出会いました。

棚にある本がどれも自分が興味あるもので。その中の一冊に『就職しないで生きるには』がありました。

まさに、自分がしたいことだったので「これください」と衝動買いして、その日のうちに読みました。


どこにでもいる将来について悩む東京の大学生だった森さんの運命を変えた本、レイモンド・マンゴー『就職しないで生きるには』(中山容訳、晶文社、1981年)は、60年代のアメリカで反戦運動やヒッピー運動に参加し青春を謳歌した若者が、70年代に30代となり自分で本屋を開き、仕事をつくっていくという自伝でした。

就職した方が楽なんじゃないかというくらい苦労はしてるんだけれど、でも自分で仕事をつくる喜びが書いてあって「あぁ、いいなぁ」って憧れたんですよ。


店内の本棚は全て森さんの手作り。ところ狭しと本が並ぶスペースで、ライブやトークイベント、ワークショップや読書会も開催しています。

店内の本棚は全て森さんの手作り。ところ狭しと本が並ぶスペースで、ライブやトークイベント、ワークショップや読書会も開催しています。

本屋は資格も入場料もいらない学校

その後、気流舎に通うようになった森さん。

大学の授業中に気流舎で買った本を読みふけり、他の書店も巡り始めました。本屋のトークイベントに参加し、知りたいこと、会いに行きたい人が増え、常にワクワク感でいっぱいだったと言います。

これって、すげえ面白いなと思うようになって。そこで始めて学ぶ喜びを知りました。大学が全然面白くなかったんですけど、よくよく考えてみると、自分にとっての学校って、本屋だったんだと思います。


ここに入るのには資格もいらないし、入場料もとられないし、そこにいる人に出会って世界が広がっていくし。本を売る以上の、どう生きていくかを考える場所なんですよね。そんな場所を自分をやりたいと思いました。

本屋の裏に素人の森さんが建てた小屋。作業開始から約3年の歳月がかかり、完成しました。

本屋の裏に素人の森さんが建てた小屋。作業開始から約3年の歳月がかかり、完成しました。

地方で畑をしながら本屋をやろう

とはいえ、そういう本屋はあんま儲かってないんだろうなというのはわかるんですよ。東京にいて、これ以上消費するだけの生活もやめたかったし。それなら、畑しながら地方で本屋をやろうかなという作戦をたてました。


その時点で農業のスキルは皆無だった森さん。埼玉の自然栽培の農家や栃木の農業学校の手伝いを住み込みでしながら、技術を学びます。

ですが、1年や2年、農作業を手伝ったところで、農地や道具を手に入れて思い描く生活ができるわけでもなく、悩む日々が続いていました。

転機となったのは東日本大震災。

このままではいけない、すぐに動かねばと思い立ちます。資金も技術もありませんでしたが、森さんは知り合いの紹介を経て鳥取へ移住。

2012年10月湯梨浜町松崎にオープンしたゲストハウス「たみ」に身を寄せながら、空き倉庫を改修し本屋をつくる、その裏に自分が住む小屋を立てる計画を思い立ち、実行し始めました。

鳥取は、海が綺麗、温泉やたらあるな、それと、どこも平均的にぼんやりしてるなという印象でした。でも、それがいいなと思いました。広島いくにも、大阪行くにも、どの大都市にいくにも時間がかかる。だからこそ、地域の人が来てくれる可能性がある。ここを拠点に、面白い場所を作ろうと思いました。


場所を作ると決めたは良いものの、大工仕事は全くの素人だった森さん。

資金調達と生活費のためにやっていた左官屋のアルバイトで、職人たちに図面も引かず小屋を立てようという無謀な計画に呆れられながら、半ば弟子のようになって技術を教わり、材料ももらいました。

森さんの凄みは、このような先が見えない遠大な計画を、「とりあえず」やり始め、「3年間」続け、オープンまでこぎつけたところにあります。

現在改修を進める汽水空港隣りの空き屋。本屋・雑貨屋・工房・イベントスペースを兼ね備えた場所にする予定。 ※2016年10月21日に発生した鳥取地震で傾き改修困難な状況になっているとのこと。

現在改修を進める汽水空港隣りの空き屋。本屋・雑貨屋・工房・イベントスペースを兼ね備えた場所にする予定。 ※2016年10月21日に発生した鳥取地震で傾き改修困難な状況になっているとのこと。

本屋・雑貨屋・カフェ・工房を兼ねた面白い場所を製作中

2015年10月にオープンした本屋「汽水空港」。
近くのゲストハウスに訪れた旅人から、だんだんと鳥取の人びとに認知され始め、ファンが増えています。

ですが、本屋としての収益は微々たるもの。

森さんは、今も大工仕事のアルバイトを続けながら、さらなる「作戦」を温めています。

いざオープンしてみたら、その日の午後に、もう飽きてたんですよ。じっとしてるんが辛いなと。
客としては新鮮でも、店主としては仕入れた本が右から左に流れていくだけだったんです。

やりがいないなーと思いました(笑)

店番しながら手を動かしていたい。ものを作るという喜びを得ながら、お客さんを待ちたいな、と。そんなことを考えていたら、たまたま隣りの物件が使えることになって、今さっそく改修作業を進めています。


森さんの思い描く「本屋」は、無限の広がりを見せています。

一方で、地方では書店が激減しており、「書店ゼロ」の市町村が332にものぼるといいます(2015年5月1日、日本書籍出版協会調べ)。
激減の要因としてあげられるのは独自性のなさ。
確かに本を売るだけであれば、どうやってもオンライン書店に勝てません。

書店激減時代のなか、森さんが感じ、突き詰めているのは「場」としての本屋の可能性でした。
この森さんの「作戦」に呼応する人びとが各地に現れれば、逆にこれから、ワクワクする新しい本屋の時代が始まるかもしれません。

追記

新たな「作戦」を嬉しそうに話していた森さん。
ですが取材直後の2016年10月21日に発生した鳥取地震の影響で、もともと古かった改修中の物件が傾き、改修困難な状況になっているとのことでした。

ですが、どんな困難な状況、あるいは自身に何もない状態でも、「やってみなきゃわからねえさ」という森さんのスタイルは不変です。

鳥取の小さな本屋「汽水空港」が次々に繰り出す「作戦」に今後も目が離せません。

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

民俗学者・ライター

専門は祭り。島根県大田市で山村留学を絡めた地域おこしに従事。