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鳴り砂の浜辺でカフェを開業! トルコ料理に惚れ込んだ元会社員の奮闘記。

砂浜を歩くと「キュッキュッ」と琴を弾くような音がする「鳴り砂」で知られる島根県の琴ヶ浜。
日本の渚百選にも選ばれるこの地で、トルコ料理をベースとしたカフェレストラン「チーナカ豆」を営む夫妻がいます。
島根で異国を感じられるおもてなしを実践する夫妻のこれまでの道のりと、今の暮らし、そして未来への想いについて伺いました。

イメージと違う!?
トルコの家庭料理は、飽きない優しい味。

日本海に沈む夕日と、「鳴り砂」の浜として知られる島根県大田市の琴ヶ浜。和山泰守さん・律子さん夫妻は、琴ヶ浜の海辺沿いでカフェレストラン「チーナカ豆」を営んでいます。

「チーナカ豆」の店内から臨む琴ヶ浜。日本海に沈む夕日も見ることができます。

「チーナカ豆」の店内から臨む琴ヶ浜。日本海に沈む夕日も見ることができます。

律子さんは、神奈川生まれ、広島育ち。大学の卒業旅行に選んだトルコで、トルコ料理に出会いました。

律子さん
ヨーロッパとアジアの境にあるトルコは、東洋と西洋の文化が混じっていて面白そうだと思っていたので、卒業旅行に選びました。
トルコ料理はもっとエキゾチックなものだと思っていたのに、実際に行ってみたら素材の味を活かしたシンプルなもので、日本人の私でも飽きのこない味でした。

その後、島根で就職しましたが、残業が続く過酷な労働環境もあって退職をしました。
大きな組織の一部として働くのではなく、1から10まで自分でできる仕事がしたいと思うようになります。
飲食店なら、それができるのではないか。でも和食やフランス料理の修行を始めるにはちょっと遅かったんですね。

そんな時、思い出したのは大学の卒業旅行で訪れたトルコで食べた家庭料理でした。
日本ではまだ目新しく、日本人の口にも合うので、トルコ料理なら活路が開けるのではないかと思い、単身でトルコへ修行に行くことを決意しました。
給料はいらないから修行させて欲しいとレストランに直訴して、会社員時代の貯金を切り崩しながら、各地で修行をし、さまざまな地方のトルコ料理を食べ歩いていました。

トルコ料理といえば、ケバブに代表される肉料理のイメージが強いですが、豆や野菜をたっぷり使う料理が豊富。
豆や野菜の煮込みやスープが人気で、トルコの街中には多くのスープ屋さんがあります。

律子さん
例えば、赤レンズ豆のスープは、煮込んだ豆をこしたトロトロのスープで、日本で言えば味噌汁のような存在。
毎日食べても飽きません。ひよこ豆をオリーブオイルやにんにくなどの調味料を加えてペーストにしたフムスは、パンに塗って食べるのが定番ですが、お酒のおつまみとしても最高です。

トルコ料理レストランをオープン。
夢を叶えた、その形とは?

トルコ料理を本場で学び、帰国して島根県に戻ってきた律子さん。
カフェやレストランでアルバイトをしながら飲食の勉強を続けているとき、染色家で東京から移住してきた泰守さんと出会いました。
松江市八雲町の大山を望む丘で自作した工房で活動していた泰守さんと律子さんは結婚し、工房の一角に設けたレストランスペースで、1日1組の完全予約制レストラン「チーナカ豆」を開業します。

律子さん
ケバブなど定番のトルコ料理にくわえ、現地の家庭料理を味わっていただけるおまかせコースを提供していました。
お客さまとじっくり話をしながら料理を提供したかったので、『友人を家に招いてもてなすようなお店』を目指して1日1組の形にしました。
子連れでも気兼ねなく楽しめることからファミリー層のお客さまが中心でしたが、女子会に使っていただいたり、90歳のおばあさまが来店してくださったこともありましたよ。
律子さんのスパイスコレクション。本場のトルコ家庭料理が楽しめます。

律子さんのスパイスコレクション。本場のトルコ家庭料理が楽しめます。

お店に愛着を持ってくれるファンも出てきましたが、夫妻に子どもが生まれ、状況の変化が訪れます。出産後の休養や子育てに追われ、思うように予約を取れない状態になりました。

泰守さん
予約をセーブしたり、営業日を削ったり、そのうち休止状態にまでなってしまいました。
その頃、大田市でカフェを営む友人から、ある古民家を紹介されました。
その昔、お醤油さんを営んでいた天井が高く堂々たる佇まいの空き家だったのですが、傷みがひどく、壊されるかもしれないというのです。
私はもともと長崎県の対馬出身で海育ち。大工仕事にも自信はあったので、この古民家を直し、海の近くで子育てしながらレストランをやっていくことが、そのとき直面したいくつかの問題を解決する方法として、ベストじゃないかと思えたのです。
そして、松江の家を売りに出し、移転を決意しました。

自作で工房を作るほど大工仕事が得意な泰守さんは、傷んでいた古民家を見事に再生。
大きな薪ストーブを備えた味わいのある空間に生まれ変わらせました。
移転した「チーナカ豆」は、1日1組の完全予約制レストランの形態を続けつつ、個展やワークショップ、ライブなどのイベントスペースとしても営業しています。

大田市宅野の店舗は、大きな薪ストーブを備え、懐かしくて癒やされる空間です。

大田市宅野の店舗は、大きな薪ストーブを備え、懐かしくて癒やされる空間です。

日本海に沈む夕日を堪能できる琴ヶ浜。
カフェの次なる夢を紡ぐ!

大田市宅野でマイペースにトルコ料理レストランを営んでいた和山夫妻ですが、また新たな出会いが訪れます。
琴ヶ浜で知り合った知人から、空き店舗となっている海の家を使わないかとの話が飛び込んできたのです。

泰守さん
正直言って、大田市は松江よりも人口が少なく、移転前ほどのお客さんが見込めない状況になっていました。
ですが、琴ヶ浜ならば海水浴のオフシーズンでも、週末は鳴り砂を目当てに訪れる人々がいることを知りました。
何よりも、大好きな海を体で感じながら残りの人生を生きられることがうれしく、地元の旧中学校の校舎の建材を再利用してリノベーションし、海辺のカフェレストランとしてオープンしました。

美しい日本海の浜辺のお店として、泰守さん手製の石窯で焼くピザや、律子さん手づくりのジンジャーエールやゆずソーダなど、手軽に楽しめるメニューを拡充。
南インド風ココナッツカレーや、地元で獲れたサバを使ったシーフードピザなど、地元食材を使った創作料理が楽しめるカフェレストランとして、クチコミが広がり観光客だけでなく地元の人が訪れる憩いの場にもなっています

琴ヶ浜の「チーナカ豆」の人気メニュー、ココナッツカレー。異国の香りがします。

琴ヶ浜の「チーナカ豆」の人気メニュー、ココナッツカレー。異国の香りがします。

現在、大田市宅野の店舗は休業中ですが、これは新たな一歩を踏み出すためでもあります。

泰守さん
もともと醤油蔵として使われていた蔵を改装しています。体験もできる染色工房をつくり、宿泊もできるようにしたいと考えています。

日本海に沈む夕日を間近に、ゆったり落ち着ける古民家で、薪ストーブを囲んでトルコ料理を楽しみ、宿泊もできる…和山夫妻の温かな笑顔に迎えられ、進化した「チーナカ豆」で過ごす時間は、素晴らしい時間になることは間違いありません。

進化した「チーナカ豆」のオープンが待ち遠しいです!

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

民俗学者・ライター

専門は祭り。島根県大田市で山村留学を絡めた地域おこしに従事。