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11歳で弟子入り!EXILEともコラボする伝統職人へ

島根県西部で、今でも盛んに行われている石見神楽。この神楽に感銘を受け、わずか11歳で面作り職人に弟子入りした小林泰三さん。現在は工房を立ち上げ、あの大人気グループ「EXILE」ともコラボレーションするなど、神楽の新たな可能性を追い求めています。

小学4年生にして、貯めたお年玉で買ったのは「神楽面」!

神楽の舞手はともかく、裏方であり、普通はあまり注目されない「神楽面師」。
この働き方に興味を持ったのは何がきっかけだったのでしょうか。

泰三さん
子どもの頃、母親の実家の浜田で神楽をよくみていました。
それと、神楽面師が主人公の郷土絵本の『ケンといわみかぐら』を物心がつく前から読んでいて、面をつくる仕事があるというのは自分の心に刻まれていました。
郷土絵本「ケンといわみかぐら」

郷土絵本「ケンといわみかぐら」

神楽面にあこがれを持っていた泰三さんは、小学4年生でついに自分だけの面を手に入れます。

泰三さん
「自分専用の面を買いたい」と、
小学校4年の時にお年玉がようやく3万円貯まり、本物が欲しいと柿田勝郎先生のところに行って注文をしました。

できあがった3つの面を1万7千円で好きな面を選んでいいよと言われ、真剣に悩んで選び、買いました。

その時、自分を子ども扱いせず、注文を受けてくれた勝郎先生をみて、「自分もこうなりたい!」と強く思い、通い始めました。

初めて自分で選び、自分のお金で買った面は、掛け替えのないものになっています。

この時出会った石見神楽面師の柿田勝郎先生の元に、泰三さんは11歳で弟子入りします。

石見神楽の面は、和紙を何枚も重ねてできており、大きく立体的な造形であっても軽くて舞いやすいのが特徴です。

和紙の面をつくるための型づくりや、面に下地や彩色を何重にも施す工程もあり、ひとつの面を何ヶ月もかけてつくります。

柿田勝郎先生は11歳で弟子入りした泰三さんにも手加減することなく、その技術を一から教えていったのでした。

石見神楽面師柿田勝郎先生に弟子入りした小学生の泰三さん

石見神楽面師柿田勝郎先生に弟子入りした小学生の泰三さん

假屋崎省吾氏やEXILEとコラボ!神楽の新たな可能性に挑戦

泰三さんは京都造形大学に進学し、そのまま大学の職員に。
地元を離れることになりましたが、大学の石見神楽サークルを立ち上げるなど、地元とつながり続けました。
20代の後半に差し掛かった時、神楽面師の柿田先生に「30歳までには結論を出した方がいい」というアドバイスを受け、地元に戻ることを決意します。

地元に戻り、神楽面師として歩み始めた泰三さんは、自分にしかできないことを追い求め、異分野とのコラボレーションや新商品開発など、新たな可能性に挑戦しています。

太鼓芸能集団「鼓童」と石見神楽がコラボした「ワンアースツアー〜神秘〜」
華道家の假屋崎省吾さんとコラボした「牡丹コラボレーション假屋崎省吾×八岐大蛇」では、蛇頭の制作と演技指導を手がける
など、活躍の幅を広げていきます。

またEXILEとコラボレーションした「EXILE TRIBE PERFECT YEAR 2014」(6都市19公演)では、蛇頭の制作・大蛇の演出を行い、ツアーアシスタントにも加わりました。

泰三さん
まわりからは
「基本をおろそかにして」
と言われることもありますが、自分としてはもっと石見神楽の可能性を追い求めたいと思っています。
小林さん制作の石見神楽面。和紙をかためてつくる立体的造形が特徴。

小林さん制作の石見神楽面。和紙をかためてつくる立体的造形が特徴。

師匠は「三代目」のファン!? 改めて偉大さを痛感!

しかし、新たな可能性に挑戦する際は、リスクも伴います。
EXILEとコラボレーションした「EXILE TRIBE PERFECT YEAR 2014」では、これまでとはまったく異なるスケールで、膨大な制作が必要となりました。

泰三さん
EXILEのツアーの演出のために、石見神楽の大蛇の蛇頭を8頭作ることになった時、私が一人で抱えてしまってどうにもできなくなってしまったんです。

その時、柿田先生が快く製作協力を引き受けてくれました。

「『三代目J Soul Brothers』はわしの孫がファンでなあ、わしもメンバー全員言えるんで」

と気さくに4頭の製作を引き受けてくれました。

蛇頭の製作期間としては極端に短い、たったの3ヶ月の納期。
その中で柿田先生はわずか2ヶ月で仕上げました。

それだけでなく、
「おまえ、難しくなったときのために、今予備をひとつ作りおるから」
と事もなげに言ってくれたそうです。

泰三さん
改めて柿田先生のことを「すげぇなぁ」と思うとともに、仕事をする上で改めてこうならなきゃな、と再確認しました。
柿田先生から独立しても、そこで終わりじゃなくこの人からまだまだ学ぼうと心に決めました。

自分もまた、誰かから追われる背中を持つ人でありたい。
そう思う泰三さんが追い続けていた背中こそ、本気で向き合い、相手のために動く師匠の姿勢だったのです。

幻想的な世界観…海に沈む夕日をバックに神楽を上演!

石見神楽海の様子

師匠の偉大さを改めて痛感したからこそ、泰三さんは師匠から受け継いだ技と想いのバトンを次の世代に伝えたいとの想いも強くしていきました。

その想いを形にした活動が、京都造形大学に勤務していた際に立ち上げた温泉津と学生とのプロジェクト。
現在では造形大の神楽サークルの学生と年に2回、神楽公演を行っています。

ひとつは年始に行う新春神楽。
もうひとつは例年8月中旬に行う海神楽です。

海神楽は、石見神楽の伝統の中でも非常に新しい取り組み。
日本海をバックにして舞台を組み、沈みゆく夕日を背にしながら上演され、幻想的なロケーションが、神秘的な神楽の魅力をさらに高めます。
公演の際は石見神楽の伝統をそのまま継承するだけでなく、若い学生のパワーとアイデアも積極的に取り入れることで、神楽に新しい風を吹き込んでいます。

石見神楽の伝統に、異分野とのコラボレーションや若い世代が生み出す現代のエッセンスが加わり、神楽はより魅力的なものに発展し、後世にも受け継がれていくことでしょう。

泰三さんが作り出す、新たな石見神楽の可能性に注目していきましょう!

神楽について話す泰三さん。気さくで話せる職人さんです。

神楽について話す泰三さん。気さくで話せる職人さんです。

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

西嶋 一泰(にしじま かずひろ)

民俗学者・ライター

専門は祭り。島根県大田市で山村留学を絡めた地域おこしに従事。