「恋人見つからない」「唯一の本屋が潰れた」そんな町だけど、僕は挫折から救われた

山々に囲まれ、茶畑が薫る島田市川根町。静岡県の中部に位置し、人口は5000人弱というのどかな町です。

そんな川根町の小学校で子どもたちにけん玉を教えるのは、村松遼太郎(むらまつ・りょうたろう)さん。

訪れたときは、地域の小学校での活動中。特技のけん玉を子どもたちに伝授していた

見た限り、明るく活動的な印象の村松さんですが、実は適応障害という大きすぎる挫折を経験しているんです。

家業を継ぐ長男、それが自分

── 村松さんの今のお仕事はなんですか?

村松 今日は、子どもたちとけん玉で遊んだり、大学生とお茶を飲んだり……

── えっ? 仕事…

村松 そこは後で詳しくご説明します(笑)。今は島田市の「地域おこし協力隊」のメンバーとして活動しています。

── その前はどんなお仕事を?

村松 30歳まで、老人ホームの相談員をしていました。両親が老人ホームと保育園を経営していて、ゆくゆくは長男である僕が跡を継ぐことを期待されていたんですね。

── 家業があり、しかも長男で…

村松 まわりからの「将来は地元の介護施設を継いでくれるんでしょ」という期待にプレッシャーを感じていましたね。職場での人間関係がうまくいってなかったこともあって適応障害(※)を発症してしまい、仕事を辞めました。

※適応障害……ある特定の状況などに影響を受け、気分の落ち込みや不安を感じたり、過剰にストレスを感じてしまう病気

── その後、地域おこし協力隊のお仕事に出会うと。

村松 はい。偶然公募を見つけまして、応募して面接を受けたらすぐに合格通知がきました。定員2名に応募者も2名で、倍率1.0倍だったんですけどね(笑)。

なりたい自分、をやめてみた

── なぜ協力隊に応募を?何かやりたいことがあったとか…

村松 それがまったくなくて。単純に、「おもしろそう」と思っただけ。

── フィーリングで。

村松 それまでは介護の学校に通い、介護施設で働くことに時間を費やしていました。先のことを見据えて仕事を選んでいたんです。

── 家業を継ぐために。

村松 でも、それで適応障害になってしまった。だから逆に、今までの価値基準とはまったく違う尺度から選んでみようと思いました。

── あえて自分らしくないことをしてみたと。

村松 その結果が今の暮らし。豊かな生活とまではいえませんが、川根町の人はとても優しいですし、仕事も楽しくできています。すごく「自分のペースで」働けていると感じますね。

子どもたちに教える機会があったことをきっかけにハマったというけん玉。毎日練習を重ね、現在の腕前になったそう

地域おこし協力隊ってどんな仕事?

── 地域おこし協力隊の活動って、どんなことをするんですか?

村松 地域おこし協力隊というのは総務省の事業で、「人口減少や高齢化による課題を抱える地域の活性化」が目標です。
僕の場合は、島田市や地元のNPO「まちづくり川根の会」と相談しながら、町の課題を見つけて解決したり、移住したい人のサポートをしたりしています。

── 課題の解決、それと移住サポートですか。

村松 はい。今日のように川根小学校へコーディネーターとして入ったり、地区の花や緑を管理する「花の会」の事務活動、そして空き家バンク(地域内にある空き家の情報を提供するシステム)の運営を手伝ったり、移住相談を受けたりですね。

── かなり幅広く活動されてますね!

村松 あとは、町のPR活動も欠かせませんね。ちなみに今日は、さきほども言ったように子供たちにけん玉を教えるほかに、合宿で川根町に来た東京外国語大の学生さんたちによるお茶会があるので、そこへ参加して川根町の魅力を伝える予定です。

── なるほど。そう聞くと確かにお仕事ですね(笑)。

大学生主催のお茶会で、川根町の魅力を紹介

華麗なけん玉さばきを披露してくれた

移住してきた人って、「よそ者」扱いされない?

── 初めての土地で働くことに、不安はなかったんですか?
 
村松 移住する前はすごくビクビクしていました(笑)。ネットなどを通じて「人口の少ない地域の人間関係は閉鎖的」といった情報を見聞きしていたので。

── 確かにそういうイメージはありますね。

村松 でもそれは杞憂で、むしろ真逆でしたね。ちゃんと僕の話も聞いてくれるし、やりたいことを提案すれば積極的に協力もしてくれます。

── それはありがたいですね!

村松 あと、野菜をくれることもあるんですよ。農家のおばあちゃんに会うと、「村松さんの家にナスはあるの?」とか聞かれて、たくさん分けてくれるんです。何の連絡もなしに玄関に野菜が置かれていたり(笑)

村松さんの指導のもと、練習に打ち込む子どもたちも真剣。たかがけん玉……と侮ることはできない

── そういうところはイメージ通りかも(笑)なぜ川根町の人たちは「よそ者」にも親切なのでしょう?

村松 僕が思うに……。川根町の主産業はお茶で、毎年5~6月の収穫時期になると、町の外からも働き手を集めなきゃいけないんですよ。中にはその時期だけ、町に住み込みで働く人もいるぐらい。昔から人の出入りが多かったから、今でも外から人を受け入れやすいのかなって。

川根町には「川根茶」というブランド茶がある。お茶は町の一大産業だ

── 外から来た人たちと、助け合ってきたんですね。

村松 生活コストもあまりかからない。2DKの部屋の家賃が3万円ほどなので、都心部から移住するハードルが低いところも魅力です。

── その家賃。心底うらやましいです…

地域おこし協力隊には任期があり、「卒業」がある

── 協力隊の任期は来年の3月まで。そこで一度、今の仕事を離れることになるわけですが。

村松 そうですね。任期が終わってからも今のように地域のPRを続けつつ、何か生活の糧を得る方法を見つけたい。僕にとって、川根町はとても居心地のいい環境ですからね。今までに築いた人間関係もあるし、きっと何か町の人のためにやれることがあると思うんです。

── 引き続き、町の一員として働いていきたいと。

村松 それから、島田市はイノシシや鳥などの害獣による被害も多いので、狩猟の免許を取ることも考えています。地元の猟友会もだいぶ高齢化が進んでいますから。

茶畑だけでなく、田んぼも多い川根町。収穫期の景色は感動モノ!

── おお。ハンターですね!

村松 今は「田んぼ借りちゃいましたプロジェクト」と銘打って、川根町小学校の児童たちやその父兄と一緒に稲作をしていて、小学校が創立50周年を迎える2018年11月24日に、児童たちとそのお米を食べたいです。

── 子供たちが自ら作って食べる…今から楽しみですね。

村松 稲作を通して、何か町の人たちが喜ぶようなことをしたいですね。それを、僕の地域おこし協力隊メンバーとしての集大成にしたい。

正直、恋人づくりは難航している

── と、ここまでいいことずくめな印象の川根町での暮らしですが、逆に短所と感じるところはありますか?

村松 うーん、しいて言えば去年8月に町で唯一の本屋がつぶれてしまったこと。図書館はあるし、インターネットでも本は買えるんですが、ニーズを反映した農業や自然関係などの本を揃えてくれていたので寂しかったですね。

── ネット通販の荷物もちゃんと届くんですね。

村松 さすがに届きますよ!(笑)。ただ、配達員さんが、僕が普段けん玉や勉強を教えている子どものお父さんで。重い物を注文したりすると、ちょっと申し訳ない気持ちになります(笑)

── 余計な気遣いが生まれてしまう(笑)

村松 あと、町の駅の終電が21時なので、車は必要ですね。

都心部とは違う生活スタイル。大満足! というわけでもない様子

── そういえば、村松さんはブログで「田舎だと恋人ができづらい」と吐露されていましたね。

村松 吐露してたかな(笑)こうした地域だと、若いときに結婚される方が多いじゃないですか。だから町には自分(30歳)と年齢の近い独身女性は少ない

── 確かに。そうなりますね。

村松 もっと若い方なら分かりませんが、恋愛が移住者にとっていちばん苦労するところかもしれません。
とはいえ、移住を検討している人は、ぜひ川根町も候補に入れてほしい。車さえあれば働き口は見つかりますし、暮らしやすさは保証します!

── そして、恋人は村松さんが一緒に探してくれます!

 
「きっかけこそ、“おもしろそう”なんて感じでしたけど、川根町は本当に素敵な町。彼女はまだできないけど(笑)、皆さんやさしいし、自分のペースで無理せずに仕事ができているので、ワークスタイルとしても合っている」と語る村松さん。町をもっと元気に!と今日も頑張っています。

皆さんもぜひ、村松さんの活動(恋人づくりも)を応援してください!

執筆・編集/目黒サンマ+プレスラボ
写真/鎌田瞳