「最近、花買ってますか?」花を贈る文化をつくりたい新米農家の奮闘

最近いつ花を買ったか覚えていますか?

実家に帰省した時に、お墓参りのお供え用に。
仲のいい友達の誕生日にプレゼントに添えて。
最近結婚して新居を買った友達へのお祝いに。

冠婚葬祭をはじめとしたイベントにおいて必需品となる“花”。
では、自分のためにお花を買う機会はありますか?

「一本買うだけでもいいと思います。家にある器に一輪花があるだけでオシャレになるんですよ」

そう話すのは、今回お話をうかがった竹澤克浩さん。長野県飯島町で花農家を営む男性です。

花農家って、ぶっちゃけ儲かるの…?

アレンジのしやすさから、花屋には茎の長い花が好まれる

父親の代から農業を始めたという竹澤家。
現在は克浩さん含む家族5名とパート2名の計7名で生産から出荷までを行っています。

── あの…いきなりで申し訳ないのですが、花農家って儲かってますか?

竹澤 本当にいきなりですね(笑)

── すみません!お花って毎日買うものでもないし、売れてるのかなと…

竹澤 儲かっているかどうかと言われると悩むところですが…。工夫をして生産をしていますよ!

── 工夫?

竹澤 植え付けの時期を調節し、需要のある時期に出荷をしています。年によって人気のある品種が変わるので、市場の人や種苗会社の人に相談しているんですよ。

“売り時”に合わせて自在に生産

ビニールハウスへと案内されました

現在カーネーションだけで約20種類、6万株を生産。約20棟のハウスがカーネーション専用です。

── うわー!!一面カーネーションだ〜!!

竹澤 うちの主力商品です!

── カーネーションって、5月の母の日のイメージが強いように感じるのですが…この時期に?

竹澤 そう、春から秋にかけてはカーネーションの栽培から収穫までを行っているんですよ! 特に6月の結婚式シーズンや、8月のお盆、更に最近は葬儀での需要が高いですね。

── ということは、秋から冬にかけてはお休み…?

竹澤 違います。

── 全力で否定された。

これから冬に向けて植え付けが行われるハウス。

── じゃあ、一体何を生産しているのですか…?

竹澤 冬から春は金魚草の生産から出荷までを行っています。春でも冬でもハウスは1年中稼働しているんですよ。

金魚草は、金魚の尾のようなかわいい花をつける(参考写真)

── 確かにハウスの中に入ってみると、外よりも暖かい!冬でも花の栽培が可能というのも納得です。

竹澤 はい、今日はちょうどカーネーションの出荷と金魚草の植え付け準備をやっていました!

苗を植えやすくするためにポットから取り出す作業を行う竹澤さんのお父さん。

── なるほど。年間を通して花の需要はあり、生産も可能なんですね。

育った花は「花市場」へ。意外とイカツイ男の世界?

── 花農家からお花屋さんに商品が並ぶまでは、どんな経路なんでしょうか?

竹澤 全国各地にある市場を経由するんです。

── 市場! 魚でいう築地みたいな……?

竹澤 はい、うちは名古屋、岐阜、仙台、姫路、高知、奈良、福島の7ヶ所の市場に出荷しています。

── 7ヶ所も!市場ってどんな方が訪れるんですか?

竹澤 主に花屋さんや仲買人の方たちですね。

── 花屋さんは女性の方が多いイメージがあります! 市場も華やかそう…

竹澤 それが意外と、パッと見コワモテのおじさんたちが沢山いるんですよ!僕も若い女性が大勢いるのかと思っていたので、初めて市場に行った時はびっくりしました(笑)。

── きっとベテランの目利きなんでしょうね……!

 
ちなみに、花の出荷先は、毎年行われる取引会議でバランスを考慮したり、元々の出荷先とのつながりから決めたりするそう。

朝2時起きだという出荷のシーズンは大忙し。
手塩をかけて育てた花は、全国各地にある市場を経由し、花屋の店頭に並びます。 

小学生から手伝いを始め、大学で農業を学ぶ

── 花づくりは竹澤さんの代から始めたのですか?

竹澤 いえいえ! 父の代からです。実家が花農家ということもあって、小学生の頃から手伝いをしていました。

── 高校卒業後に農業始めたとか…?

竹澤 いえ、高校卒業後、首都圏の大学で植物ホルモンについて研究する「植物生理学」を専門に農業を学んでいました。いずれ農業をやろうと思っていたのですが、一度は一般企業に就職する道を考えました。

── えっ、どうしてですか?

竹澤 社会を知るために、一度は一般企業に就職した方がいいかなと思ったからです。

 
しかし、就職活動がなかなかうまくいかなかった竹澤さん。卒業後は飯島町に戻ってきて役場の臨時職員として就職しました。

社会を知るために就職。そこで見つけた意外な自分

ハウスの周りにはりんご畑が広がる。

── 公務員という形で地元に戻ってきたんですね。

竹澤 はい。ただ、役場の仕事は1年ほどで辞めてしまったんです。

── なんと!

竹澤 就いた仕事は窓口業務。業務をする中で自分が口下手だということに気付いたんです(笑)。

── 花と接する方がしっくりきたと。

竹澤 はい(笑)。役場で働きながら、土日に実家の花づくりを手伝うことで、やっぱり自分には農業が向いているのではないかと感じ、24歳から花づくりを本業にしました

── おお! やっと農業にたどり着いた!

竹澤 農業に本腰を入れようと思った理由は他にもあるんですよ。

── そうなんですか?

「農業=儲からない」のイメージを変えたい

竹澤 小さい頃から親が苦労している姿を近くで見ていたというのも、農業にシフトしようと思ったきっかけです。

── 切実な悩みですね。苦労というのはどんなことなんでしょうか?

竹澤 やっぱり体力も必要な仕事ですし、人手も必要。自分の力だけではどうにもならないこともありますから、大変だなと感じる部分もあります。

 
カーネーション、金魚草をメインでつくっている他に、りんごの生産もおこなっている竹澤さん。しかし、人手不足のため今シーズンでりんごの生産はやめようと思っているそう。

竹澤 農業は儲からない職業って言われて終わるのも悔しいし、農業に携わる若い人が年々減っているという話も耳にしていましたから、なんとか「汚い・キツイ・臭い」のイメージを払拭したいなって。

「農業はキツイ」。でも、少しずつ変えている

花の生育を助けるための「芽かき」の作業中。

── あ、その車がついた椅子便利ですね!

竹澤 そうそう、これ芽かきの作業にちょうどいいんです(笑)。ずっとかがんでいると腰にきますから……。

── なるほど!

竹澤 効率よく作業ができるようなやり方も考えていかないと、せっかく農業に興味を持ってくれた若手がいても、キツイからと離れていってしまうと思っています。

── 今のところ打つ手はあるんですか?

竹澤 新しい農機具や資材の導入でしょうか。今度、新商品が並ぶ農業の展示会に行ってこようと思っています。

── あ!ドローンを使っている農家さんがいると聞いたことがあります!

竹澤 さすがに初めから機械化を目指すのは難しいので、まずは新しい資材の導入からですね。

竹澤 ハウスに使われるビニールなどの資材ひとつで花の生育状態が変わったり、農業の効率化がはかれたりするんですよ。

 
同じ上伊那地域で農業をやっている仲間からも刺激を受けているという竹澤さん。
かっこいい作業着を身につけて作業をしたり、地元の子どもの農業体験プログラムをやったりと、地域内で若い世代に対して農業のアプローチを少しずつ行っているそう。

若い世代が農業に興味を持ってくれたら、将来にも希望がわいてきそう!

土に害虫がいるだけで、花づくりは失敗する

星型の花びらを持つめずらしいカーネーション

竹澤 若い人に農業を! と思いつつも、まだまだ僕の農家としてのキャリアが浅いので、勉強の毎日ですよ……。

── 農業で今、一番苦労していることはなんですか?

竹澤 土づくりですね。花にかかわらず農業で一番大切なことでもあります。今年は土に害虫がいたことで、花がきれいに咲かなかったんです。

── 超大切ですね、土づくり!

竹澤 毎年試行錯誤を繰り返していますよ。自分の思い通りにならなかったり、予期せぬことが起きたりとなかなか大変な部分が多いですが、だからこそ農業は楽しいですよね。

 
今は手を動かしながら農業の知識を蓄えて、これからの方向性を見極める時期だという竹澤さん。

「花を買わない」県から、花を買う文化を発信する

竹澤 冒頭でいきなり、「花って、そんなに買われないんじゃないか」みたいなこと言ってましたよね。

── たしかに言いました…

竹澤 いいとこ突いてくるなと思ったんですが(笑)。花って、冠婚葬祭には欠かせない存在ではあるけど、海外のような日常的に気軽に花をプレゼントする文化は根付いていないですよね。

── 確かに、花をプレゼントするって特別な感じがします。プロポーズとか、何かのお祝いとか。

竹澤 僕は、東京で大学の友達と会う時は、意識して花を買ってプレゼントするようにしています!

── わ、素敵ですね!

竹澤 実は、長野県って花の消費量が全国46位と言われています。カーネーションは全国1位の生産量なのに。

── 消費が下から2番目?!全然知らなかった……。

竹澤 意外とみなさん知らないんです(笑)。長野は「花を買わない」県ですが、買う文化を発信していきたい。少しでも花を消費する文化が日常的に根付いたら嬉しいですよね。まずは自分から積極的にプレゼントしていこうと思っています!

 
近い将来お父さんから受け継ぐハウスで、竹澤さんは今日も花づくりに邁進しています。

取材を終えて、帰り際に「不揃いで商品にならないから」といただいたカーネーションの花束。車内がパッと華やかになりました。

小さな頃は、道端でたんぽぽやシロツメクサを摘んで花束にしたり花かんむりをつくったりしたなぁとふと思い出しました。

大人になるにつれて花と接するハードルが少しずつあがっているのかも……。

まずは一本、お仕事帰りに花屋で花を買ってみてはいかがでしょうか?
その一本が、真剣に花と向き合う花農家の応援につながるのかもしれません。

取材・編集/ナカノヒトミ+プレスラボ