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遊びながら、楽しみながら。「好きな地元」は、つくれる。

眺めのいい場所で一日限定のオープンカフェを開いたり、近所の森を整備して、ジャズライブを開催したり。

故郷の長野県箕輪町にUターンした土岐さんは、地元にあるものを活かし、楽しみながら暮らしていくライフスタイル“Local Style(ローカルスタイル)”を提案するための活動をしています。Local Styleとはどのような暮らしなのでしょうか?

パラソルとテーブル、椅子をセットしたら一日限定のカフェがOPEN!

「ただ通り過ぎる場所」に
ある日突然、オープンカフェが出現。

のどかな自然が広がる、箕輪町のある一角。普段ならばそのまま車で通り過ぎてしまうような場所に、ある晴れた日、突如パラソルが立てられました。

パリッと白いシャツを着たスタッフが、カウンターで丁寧にハンドドリップしたコーヒーを淹れてくれます。カップを受け取って椅子に腰を下ろすと、広がる景色に地元の人もびっくり!

「ここ、こんなに綺麗な景色だったんだ」

谷のどこからでも3000m級の山並みを眺められる伊那谷。住んでいると「当たり前」と思いがちですが、大きな価値があるんです!

身近な地域資源をいかし、「地元ならではの豊かな暮らし」を提案する有志団体「Local Style(ローカルスタイル)」が行う活動のひとつが、この「伊那谷オープンカフェ」

美しい伊那谷の風景を眺め、澄んだ空気の中で味わえるのは本格コーヒーのほか、箕輪町で採れたりんごのジュースやワイン、地元野菜を使ったミネストローネや天然酵母パンなど。

長野県上伊那地区を中心に、このような一日限定のカフェを定期的に開いています。この「Local Style」の代表を務めるのが、土岐俊さんです。

土岐
私の住む地区にある街道で、満開の花桃と残雪の中央アルプス・南アルプスを眺めたり、地元の方も気づかないような谷の小川沿いを整備して、緑と水を楽しんだり、開催地ごとにその場の魅力や資源を活かすための工夫をしています。

景色や地形、広さ、設備など、開催地ごとに条件が違うから準備は大変なこともありますが、毎回が挑戦。ワクワクしますよ!

[Before] 地元の人も知らない、活用されていない場所が…

↓ ↓ ↓ ↓

[After] 草を刈って整備すると、緑と水のカフェテラスに!

箕輪町は日本で唯一、南アルプスと中央アルプスが一度に眺められる「伊那谷」と呼ばれるエリアにあります。

ここに数多く点在する絶景ポイントの中から、スタッフが下見しカフェの開催地を選定。地権者などに掛け合い許可が取れたら、会場の整備がスタート!

休日や早朝などを利用し、仕事の合間にスタッフが現地の草刈りなどを行います。

「開催地の近くに住んでいる人に来てほしい」との想いから、イベントの告知は、回覧板を回したり、小さな立て看板を設置したりする程度だそうですが、それでもイベント当日は多くの方が訪れます。

都会に憧れる若者が地元を振り返ったきっかけは、イタリアの田舎町。

今でこそ生まれ育った故郷・箕輪町で仕事もプライベートも楽しんでいる土岐さんですが、若い頃はとにかく地元を離れたかったそうです。

高校を出て東京で新聞配達をしながら予備校に通い、山梨での大学生活を経て卒業後は大手住宅メーカーに内定。しかし就職を目前に、改めて意識したのは「働く場所=暮らしていく場所」ということでした。

美術館、コンサート、ショッピング、教育環境など、都会は便利で知的好奇心も満たされるけれど、暮らしていく場所なのだろうか?―その時、思い出したのが、当たり前のように地元で眺めていた山並みの風景でした。

都会での生活に後ろ髪をひかれながらも、内定を辞退し、地元での就職を選択。箕輪町への引っ越しが迫る中、ヨーロッパへ旅に出ます。

旅の途中、イタリアで料理人をしている日本人と出会い、レストランで食べた絶品料理に衝撃を受けました。それは、トマトを薄くスライスし、からすみをのせてオリーブオイルをかけただけのシンプルな料理でした。

土岐
そこは田舎の、取り立ててなんということもない町でした。料理の材料も、レストランの隣のマルシェで買えるものばかり。でも、味は本当に素晴らしかった。

その土地で取れる食べものを活かして、恵まれた住環境で暮らしている、地元の資源を地元の人が活かして、楽しんで暮らしている。とても贅沢なことだなぁと、自分がやりたいことの原型をこのとき見つけました。

土岐
「箕輪町でも山並みや食べ物などを活かして暮らしていこう。地元での暮らしが価値があるものなのだと、体現してやろう」なんて、今思うと肩に力が入りすぎていましたが(笑)、都会での就職を選ばなかったことを振り切るような気持ちでしたね。

 
箕輪町にUターンした土岐さんは、町役場に就職し、景観を保つ業務を担当します。その中で、特別な出会いがありました。

土岐
伊那谷の風景、風土、風格を価値あるものとして後世に残していこうというコンセプトで、産学官でつくる「3風の会」というプロジェクトチームが立ち上がり、その中で中心的な活躍をされている氏原睦子さんと出会いました。

彼女は広島の観光大使でもあり、コンサルタントでもあるのですが、彼女は広島の水辺で一日限りのカフェの開催を行ったり、森を整備してジャズライブを開催するなどの活動もしています。

コーヒーを飲んだり音楽を聴くために訪れる人が、結果として持ち帰るのは「きれいな川辺って気持ちがいい」「森の自然は美しい」という気持ちだということを、氏原さんに教えてもらいました。

土岐
伊那谷の風景はきれいだけど、ずっと住んでいる人にとっては当たり前の景色。でも、実は価値があるものなんだということを、地元の人が認識するきっかけづくりをしたい。

そう考えていくうちに、氏原さんの活動をヒントに「伊那谷オープンカフェプロジェクト」を計画しました。

 
土岐さんが温めたアイデアを話すと、多くの仲間が賛同し、土岐さんが考えていた以上のスピードでオープンカフェが実現しました。

オープンカフェプロジェクトを一緒に作った
「Local Style」の仲間たち。

オープンカフェでコーヒーやお酒、軽食を提供しているのは同じくUターン組の小野さんと、県外から地域おこし協力隊として町にやってきた広瀬さん、関口さんらです。

小野さんはチーズやワインなど売り場づくりの経験があり、広瀬さんの前職は調理師。関口さんは地域おこし協力隊として、町の人や移住者とのコミュニティに深く関わる業務についていました。

また、イベントごとに、パンや野菜の出店者や楽器演奏やヨガなどの講師、駐車場整備など、様々なかたちで協力してくれる人がいます。

どんなかたちであれ、参加してくれる人は全員が「Local Style」のメンバーなのです。

カフェでは「Local Style」のメンバーがおもてなし!
皆さん、キマってる!

遊びながら「暮らしたい場所」をつくっていく!

「Local Style」は、森の中でジャズライブを開催したり、空き家を借りて活用するプロジェクトも行っています。

うまく活用されていなかった森の広場を
数か月かけて整備し、ライブ会場に!

土岐
近所に、あまり使われていなかった森がありました。父と二人で草を刈り、落ちていた枝や倒木を片付けて整備したら、とても気持ちの良い場所になったんです。

せっかくだから、近所の人が来たくなるようなきっかけをつくろう。そこで、森の中でジャズライブをすることにしました。

同じような発想で、長期間借り手のない家をお借りして活用するプロジェクトも行っています。

ライブ会場にはキッズコーナーやワークショップも!

土岐
自分たちが楽しいと思うことをやっていたら、仲間も楽しんでくれた。僕たちは、地元にあるものを使って、自分たちがしたいことを「遊び」として、しているだけなんです。

自分たちがしたいこと、楽しいと思うことをできる範囲でやるとなると、大規模なイベントにはなりませんが、それでいいと思っています。

イベントごとに、看板は手作り。板を張り合わせて塗装しています。

土岐
「ここには何もない」と言う地元の方もいますが、ここにしかないものがたくさんあります。

これからも出会うであろう地元にある資源を活かして、楽しむ暮らしを続けていきたい。おそらくこの先何十年と生きていくこの場所で、気の合った仲間や好きな人たちと、作りたい景色を共感しながら、生きていきたいですね。

そのために、それぞれが持つ「Local Style」が、ゆるやかにみんなを繋いでくれたらいいなと思います。死ぬまで楽しく暮らすための仕組みとしてね(笑)。

地元の資源を活かし、仲間たちとそれぞれの地元暮らし(Local Style)を楽しむ。
「田舎ならではの豊かな暮らし」を実現している土岐さんの取り組みに、今後も目が離せません!