長野県伊那市は、居酒屋のまち!?出身地を大人目線で改めて廻る、「地元酒場放浪記」

「伊那市」ってどこ?

今回冒険するのは、長野県伊那市。筆者の出身地である。

伊那市は南北に長い県域の南部にある、人口7万人ほどのまち。実は認知度としては存在が薄い傾向にあり(失礼)、出身地を訊かれると親切心でつい「長野県です」と広めに答えてしまう感じの土地だったりもする。

実は、酒場の多いまち

いつだったか忘れてしまったが、伊那市は「人口に対する居酒屋の数が日本一多いまち」だと聞いたことがある。

が、調べてみてもそういう事実は出てこないし、考えてみれば「人口は少ないけれど外から人が来る地方の観光地(沖縄県とか)」のほうが、そういう傾向になるのではないか。

というわけでいたって都市伝説(都市じゃないけど)的な噂ではあるが、実は伊那市の駅のまわりは大きく開発されることもなく、風情のある個人店の居酒屋が多い。

仕事や旅行で地方へ行くと、大きな駅ビルはあるものの夜の飲み屋の選択肢がない、というまちも多々ある中、伊那市は小さなまちながら、はしご酒ができるくらいの飲み屋街が健在なのだ。

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雪が残る道ばたの居酒屋。一軒一杯ずつ飲み歩きたい。

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伊那市の名物麺「ローメン」を出すお店。お酒のアテには具だけの「ローサイ」を出してくれるお店もある。

蕎麦、ラーメン、寿司など、しっかりごはんが食べられるお店も。「からつゆそば」って何?

はしご酒には絶対組み込みたい、スナック群も充実。

しかしこうして並べてみると、人口7万人のまちにしては豊富な居酒屋ラインナップかもしれない。

酒のチカラを借りて、まちに飛び込んでみる

出身地ということで、何だか私が伊那のまちを案内しているような始まりになったが、私は育った地元のことをほとんどと言っていいほど知らない。高校を卒業し、18歳で離れたため、まちで遊んだ経験がほとんどないのだ。

帰省の時に友だちと飲むようになったのも、SNSが身近になり、懐かしい友だちとまた会うようになったここ数年のこと。

そこで今回は、酒のチカラを借りて自分が育ったまちを改めて冒険してみることにした。

地元酒場放浪記〜1軒目
実家みたいな居心地のよさ!おかみさんとガールズト〜ク。

最初に連れていってもらった「隆城屋(たかしろや)」さん。まちの目抜き通りから少し裏通りへ入った場所にある居酒屋だ。

外観は小さい旅館のようなたたずまいで、店内も広め。カウンターのほか、座敷や2階席もある。

いちばん乗りでまずビール!お通しを3品も出して頂く。この手作りお惣菜がとっても家庭的で、私はこれだけで2〜3杯は飲めてしまう。

伊那の冬は灯油がないとね。お湯を沸かしたり、煮炊きをしたり、正月にはきっとこれでお餅も焼いているハズ。

早い時間でほかにお客さんがいなかったことから、目の前で焼き鳥を焼くおかみさんとしばらくお話ができた。

——田中「お店広いけど、ひとりでやってるの?たいへんじゃないですか?」

——女将「基本は私と、信州大学の学生さんのバイトがひとりだね。二階もあるしいっぱいになったらたいへんだよ〜。でも、何とかやるのよ(笑)。店は36年前から。下の娘が生まれた年に開けたの。娘がふたりいるんだけれど、ふたりともヨメに出て。あなたも帰省でしょ?」

——田中「そうなんです。高校卒業してから出ちゃったので、あんまり伊那のまちを知らないんですけど。今日は友だちに案内してもらって」。

——女将「あらそう。娘が帰ってくるとうれしいもんよ」。

——田中「できればダンナ抜きでね(笑)」。

——女将「そうそう!娘だけなら勝手にやっとけって言えるけど、ダンナがいるといろいろ世話がかかるもん〜(笑)」。

熱燗にシフトしつつ、しばらくお話に付き合ってもらう。女将さんと私の母親、そして娘さんらと私が同世代なこともあり、本当に実家にいるみたいにしゃべった。私の実家も飲食店だったので、よけい親近感がわくところも。

地元酒場放浪記〜2軒目
小上がりで、友だちのお父さんにばったり。

2軒目は、小鉢3品と飲み物1杯の「晩酌セット」が人気の「ことのは」さん。何も言わなくてもおつまみ3品が出てくるシステムがこのあたりの定番なの?と思ったけれど、たまたまらしい。

今日のおつまみラインナップ。ここはいつ行っても満席の人気店だそうで、伺った時はすでに10名以上のお客さんがいた。まだ早い時間だったから、例えばこの倍の人数がくるとして、このおつまみを20人ぶん作るってたいへんだなあ〜……。などと思いながら日本酒を頂いていたところ、うしろのテーブルで飲んでいた男性のお客さんと話し始めることに。

この、ビールの奥にぼんやりといらっしゃる方であるが、なんと話をしているうちに、高校時代の友だち(先輩だけど)のお父さんということが判明。

「キミは笑顔がいいねえ〜!」なんて言われてキャッキャとタメ口で一緒に飲んでいたけれど、親子ほど年の差があったんだ……。まあ地元で飲んでいれば知り合いにも会うだろう。

気遣いが行き届いた接客でむかえてくださったお店の方にお礼を言ったか言わないか忘れてしまったけれど、そろそろ地元飲みの本丸、スナックへ連れていってもらうことに。

地元で酒場放浪記〜3軒目
「まち飲み」の醍醐味!スナックでカラオケ♪

私はカラオケが好きだ。が、友だち同士でカラオケボックスへ行くのは若い頃からあんまり興味がなく、歌がうまくなりたいというモチベーションもない。

カラオケで一番盛り上がるシチュエーションはスナック、しかも知らない人の前で歌うのが、個人的にはいちばんおもしろくて有意義だと思っている。

人さまの前でいきなり歌えるだけの理性と社交性を保って飲むという、スナックの文化を尊敬しているのだ。

3軒目に連れていってもらった「Lee」さん。

絵に描いたような内観は、額に入れて飾りたくなるような正当派スナックの様相だ。

スナックで飲むウイスキー割りって特別においしい。あんまり覚えてないけど。

「人さまの前でいきなり歌う」と言ったからには晒しておくか……。

当日のお客さんはアラフィフが多いとにらんだため、村下孝三「初恋」をチョイス。

上着を着て帰る段になっても歌い続ける私……。

これは何の曲でしょうね。マイクを両手で握りしめているあたり、斉藤由貴の「悲しみよこんにちは」か。

いきなりやってきた知らない酔っぱらいの歌を聞いてくださった方々と、お店の方にお礼を言ったか言わないか忘れてしまったけれど、数曲を歌い切ったところでちょうど近所でバイトをしていた母親から着電。彼女の運転するクルマで実家に帰ったのでありました。
しかし、いい齢して深酒して母親に送ってもらうって、どうかと思うよ……。

知ってる「まち」にも、
知らないことがいっぱいあった

私はもう、伊那市を出て暮らしている年月のほうが長い。子どもの頃はお金もないしお酒も飲まないし、まちで遊ぶということがほとんどなかったから、今回改めて地元ではしご酒をしたことがとても新鮮だった。

「どこの何を食べに行く」「友だちと会う」「家族で食事に出かける」などなど目的のはっきりした外食もいいけれど、ただぶらっと飲みに行くというような「なし崩し感」のあるまち冒険は楽しい。

レビューやガイドブックがなくても、自分なりのおもしろさが見つかるものだ。

田中あずさ

田中あずさ

編集者、コピーライター、料理家

魚醤とハーブの料理ユニット「Indochinoise」を主催し、2006年頃からベトナム・カンボジア・ラオス界隈を行ったり来たり。 最近は国内の地場野菜に興味津々。特に江戸野菜の復活に注目している。
田中あずさ

田中あずさ

編集者、コピーライター、料理家

魚醤とハーブの料理ユニット「Indochinoise」を主催し、2006年頃からベトナム・カンボジア・ラオス界隈を行ったり来たり。 最近は国内の地場野菜に興味津々。特に江戸野菜の復活に注目している。