IMG_3592

“オンパク”の手法を生かし地域にコミュニティを。愛知県東栄町で大学生が奮闘する町おこし

愛知県の東部、奥三河の山間にある東栄町で、大学を休学して地域づくりに取り組む一人の男性がいます。彼の名は、伊藤拓真さん。

全国の中山間地にある自治体と同様に、東栄町でも人口減少が大きな課題となっています。

「その課題を前に、一人でできることは限られている」。
そこで伊藤さんが取り組もうとしているのが、「オンパク(温泉博覧会)」の手法を取り入れた地域活性化です。
オンパクとは、地域資源を生かしたプログラムと呼ばれる小規模の体験交流型イベントを数多く集めて開催されるイベント。
その開催準備を進めていくなかで、地域をよくしたいと考えている人たちのコミュニティをつくり上げ、地域住民と行政、そして都市部の学生が連携しながら、新たなチャレンジや楽しいことが次々と生まれる環境を、東栄町で実現したいと考えています。

同時に、オンパクのプログラムを企画していくなかで地域資源を掘り起こし、地域の課題を解決するビジネスモデルを形にするのも目標。

学生ならではの視点で地域づくりに取り組む伊藤さんに、その思いを語ってもらいました。

地域をよくしようとする人たちの輪を広げるために

伊藤
「自分もいずれ、この東栄町を出て就職するんだろうな」と、高校を卒業し名古屋の大学に進学したときには、漠然と思っていました。

そんな伊藤拓真さんが、地域づくりに興味を持ち始めたきっかけは、2年ほど前、大学1年生の春休みに帰省したとき、合併して使われなくなった母校の小学校を目にしたことだった。

伊藤
1年ほど使われていないだけで草が生え、荒れ果ててしまった校庭を見たとき、寂しいなと思ったのと同時に、このまま人が減っていったらこの町はどうなってしまうんだろう。いま自分の手で、できることをやりたいと強く感じたんです。

まずは地域活性化の取り組みが進んでいる地域に飛び込み、多くのことを吸収いたいと、大学を休学しインターンとして入ったのが、石川県七尾市にある株式会社御祓川(みそぎがわ)だ。
この会社では、地域資源を生かした「御祓川大学」というコミュニティ大学を運営。
地域の大人から高校生までか集うコワーキングスペースや、地元企業のコンサルティング、インターンのマッチングなども手がけていた。

御祓川のコワーキングスペースでの打ち合わせ風景

御祓川のコワーキングスペースでの打ち合わせ風景

そこには多くの人が集い、主体的に地域をよくしていこうと、どんどんと新たなチャレンジが生まれていた。

その姿を目にし、運営にも携わるなかで強く感じたのは、“自らの手で地域をよくしていこうとする人”を増やすことの重要性だ。

伊藤
地域を盛り上げていこうとしても、自分一人でできることは限られています。御祓川では、コミュニティ大学やコンサルティングを通じて、多くの担い手が育っていました。地域の人たち一人一人が自分のできることを見つけ、取り組んでいくことが大きな力になる。そういった人が育っていく仕組みをつくることが、最も大切だと感じたんです。

そのための手法として、伊藤さんが目を付けたのが「オンパク(温泉博覧会)」だ。
オンパクとは、2001年に大分県別府市で始まった取り組みで、地域の魅力を生かしたプログラムと呼ばれる小規模の体験交流型イベントを数多く集めて開催されるのが特徴。

伊藤
東栄町でオンパクに取り組んでいくことで、まずは地域をよくしていきたいという人たちの“輪”をつくりたい。そしてオンパクという一つの取り組みを実現できれば、いろいろな人がこれまでやりたいと思っていたことにチャレンジしようという機運が生まれると思うんです。“小さなやりたい”がどんどん形になって、新しいこと、楽しいことが次々と生まれる環境を、東栄町でもつくっていけたらと思っています。

東栄町に住む人にフォーカスした体験プログラムを

東栄町役場で、地域支援課の尾崎さんと「まち冒険のタネ」について打ち合わせ。

東栄町役場で、地域支援課の尾崎さんと「まち冒険のタネ」について打ち合わせ。

半年間のインターンを終えた伊藤さんは、「三河の山里起業実践者」という県の支援制度にオンパクのビジネスプランを応募。
見事採用となり、いまは東栄町に戻り、そのプランの実現にまい進している。

三河の山里起業実践者のシェアオフィスにて。

三河の山里起業実践者のシェアオフィスにて。

現在、第一ステップとして取り組んでいるのが、「まち冒険のタネ」の開催だ。
これは、学生や若者が地域を訪れフィールドワークを行う取り組み。
伊藤さんは、名古屋などの都市部の学生を東栄町に招き、まずは地区を絞って地域の現状や資源の調査を行おうとしている。

伊藤
僕は特産品などではなく、もっと地域の人にフォーカスしたいと思っています。東栄町で700年続く「花祭」というお祭りのなかで、受け継がれてきた知識や技術をはじめ、郷土料理などの暮らしに寄り添った知恵など、この地域、ここに住む人ならではの資源を掘り起こしていきたい。そして、ただ調査するだけではなく、住民の皆さんと学生が一緒になってその地域資源を生かした体験プログラムを企画し実際に開催する、“プレオンパク”のようなイベントを実現したいと思っています。
役場前で、尾崎さん、地域おこし協力隊の角さんと。

役場前で、尾崎さん、地域おこし協力隊の角さんと。

また、伊藤さんは、名古屋やその近郊の大学に進学した東栄町出身学生の団体も設立。
このプレオンパクの運営などに一緒に取り組んでもらいたいと考えている。

伊藤
今年度中に、プレオンパクを町内複数の地区で開催し、地域でがんばっていきたいという人の輪を広げていきながら、2018年度までにオンパクを東栄町全体で開催するのが目標です。まずは、一つの事例をつくることが大切。それを見た人たちが新たなチャレンジを次へ次へと重ね、長年この町に住む方々がそれをバックアップする。そんな環境をつくることが、僕の目指す地域活性化です。

しかし、それは簡単なチャレンジではないことも、伊藤さんは理解している。

伊藤
まずは地域のみなさんとの信頼関係を築いていくこと。そのために、地域の行事には積極的に参加しています。いろいろな人と出会うことができ、とても楽しいんです。

オンパクがゴールじゃない。
東栄町で仕事を生み出す“モデルケース”を目指して

オンパク開催に向けた取り組みを進めていくなかで、地域の資源を生かしながら、課題を解決していくようなビジネスモデルも同時につくり上げていくのが、伊藤さんの最終目標だ。

伊藤
僕自身が東栄町で新たな仕事を生み出すことで、同年代や若い世代の人たちが、「自分も東栄町でがんばってみよう」と思ってもらえたら嬉しい。実は、地域づくりに携わる根源には、僕も3歳のころから参加している「花祭」を受け継ぎ、次の世代につないでいきたいという思いがあるんです。そのためにも、しっかりと“稼ぐ”仕組みをつくり、持続的に地域の課題解決に取り組んでいきたいと思っています。
花祭り1

花祭に参加する伊藤さん。

杉山 正博

杉山 正博

編集者・ライター

雑誌『自休自足』の編集部を経て、2007年に独立。雑誌やWEBなどで、地域や移住をテーマにした記事を多く手がける。2016年秋、自身も愛知にUターン。愛知と東京の二地域で活動。
杉山 正博

杉山 正博

編集者・ライター

雑誌『自休自足』の編集部を経て、2007年に独立。雑誌やWEBなどで、地域や移住をテーマにした記事を多く手がける。2016年秋、自身も愛知にUターン。愛知と東京の二地域で活動。